②失せ物捜索「ウサギのぬいぐるみ」
「お茶をどうぞ。えっと……」
ズミが女の子の座っているテーブルの前にりんごジュースを置こうとした。
「わたし、ゆいな! おねえちゃん、可愛いね!」
女の子……。ゆいなちゃんは名前を言い、ズミを可愛いと言った。ニコニコと笑っている、ゆいなちゃんにズミはりんごジュースをテーブルに置いて話しかけた。
「ありがとう、ゆいなちゃん! お菓子も食べる?」
ズミは機嫌よく、ゆいなちゃんに笑いかけた。
「うん!」
ゆいなちゃんは涙が引っ込んだようだ。それを横で見ていた田所さんは、ふうと息を吐いた。
女の子はずっと泣いていたのだろうか? 田所さんから警戒心が薄れたように思えた。
子供は警戒心が強い。ズミはなぜか人の警戒心を緩める特技がある。意図的なのか、天然か俺には分からない。
「助かりました。ずっと泣きっぱなしで……」
田所さんは首を触りながら言った。
「さっそくですがご依頼品はウサギのぬいぐるみ、でよろしいでしょうか?」
「はい。この子、ゆいな のぬいぐるみなのですが失くしてしまって」
ゆいなちゃんは、お菓子をほおばりながらチラッと父親を見た。ズミはゆいなちゃんの相手をしてくれているので、田所さんに詳しく聞ける。
「失くされたのは一週間前でしたね?」
メールに書いてあった依頼内容を思い出しながら田所さんに話しかける。事務所の壁側に置いてあるソファーに座っている。
「たぶん……」と自信なさげに言う。
「私は仕事が忙しくて、この子の事をあまりかまっていられないので」
どうりで二人とも、よそよそしいはずだ。
「妻とは離婚していて、この子の事はお手伝いさんにまかせている」
なるほど。
「パパ、ゆいな、おトイレにいきたい」
ゆいなちゃんは、父親のスーツの袖を指で掴んで引っ張って教えた。父親は驚いて、娘の顔を見て固まっていた。子供の世話をしたことがないのではないか、と思った。
「パパはお話があるから、お姉ちゃんが一緒に行ってあげるよ」
ズミが気を利かして言ってくれた。
「うん!」
ズミと、ゆいなちゃんは手をつないでトイレに行った。
さて……。これは、なかなか難しいかもしれない。
「家の中とかは、お探しになりましたか?」
ズミと一緒に行った、ゆいなちゃんを見ていた田所さんに聞いてみた。
「あ、ああ。ぬいぐるみは住み込みで働いてくれているお手伝いさんに、探してもらったが見つからなかったと聞いた」
淡々と話す田所さん。普段、ゆいなちゃんはお手伝いさんに任せっきりなのが分かった。
忙しい仕事らしい。
「そうですか。その他の場所は?」
ごほん、と咳払いをして俺に向き合った。
「人を雇って、あの子の行った場所を調べさせた」
人を雇って? それでも見つからなかったのか。
「あの……。元奥様の所は?」
言いにくかったけれど必要な情報だ。田所さんはお茶を一口飲んでから答えた。
「半年位は会ってない」
「そうですか……」
あんな小さな子と母親が、半年も会ってないのか……。だが私情をはさむ訳はいかない。
「ただいま」
ゆいなちゃんとズミがトイレから戻ってきた。ちょこんと父親の隣に座った。持ち主のゆいなちゃんにも聞いてみるか。
「ゆいなちゃん。うさぎさん、どこで失くしたか覚えているかい?」
ビクッ! ゆいなちゃんがびっくりしたように体を揺らした。
「あ……」
ゆいなちゃんの顔から、笑顔が消えた。フルフルと首を振って、知らないと言った。
「保さん! 顔が怖いって! ゆいなちゃんが怖がっている――!」
ズミが少し冗談ぽく言ってくれたので、場が和んだ。
「そ、そんなに怖いかな?」
無理やり笑顔になってみる。
「よけいに怖いですよ。でも、このおじちゃんはこう見えても優しいのよ? ゆいなちゃん」
ズミは、ゆいなちゃんの背中を手のひらでさすってあげた。少し笑顔が戻った。
おじちゃんと言われて地味にへこんだが仕方がない。話を戻す。
「ぬいぐるみの写真はありますか?」
それが無いと見つけるのが困難だ。
「はい。持ってきました」田所さんはそう言い、スーツの内側のポケットから取り出した。
「ありがとう御座います。俺が持っていてもいいですか?」
手元にあった方が捜索をやりやすい。
「どうぞ」
渡されたのは、ゆいなちゃんと手に握られたウサギのぬいぐるみ。ちょっとぬいぐるみが汚れているのが見えるので、ずっと離さずに持っていたのだろう。
俺は、ゆいなちゃんの方を見て言った。
「必ず、見つけます」
田所さんは「お願いします」と頭を下げた。ゆいなちゃんは泣きそうな顔をした。
二人の帰り際、ゆいなちゃんがズミの方を振り返ってバイバイと小さい手で挨拶をした。
「ん~! 可愛い」
そう言いズミは、ゆいなちゃんに手を振り返した。
ゆいなちゃんは、俺の方をちらちら見ながら迎えの車に乗って帰っていった。
「……さて、探すか」
俺とズミは事務所に戻った。
「ズミ。この後の事、よろしく」
俺はこめかみを押さえてズミに伝えた。
「オッケーです。今日の予定はないし、予約してない客は追い返します~」
「助かる」
そう言って事務所の奥の部屋に向かった。
仮眠室とドアに下がったプレートには書かれている。ここは実は重要な仕事場だ。
なぜかと言うと……。
俺は仰向けにベッドへ横たわり、借りたウサギのぬいぐるみの写真を見つめた。
【検索】
この瞬間の感覚は慣れない。気持ち悪さに俺は目を閉じた。




