№1 ①失せ物捜索「ウサギのぬいぐるみ」
幼い頃から不思議な体験をしていた。
俺はそのために気味悪がられて、親からも避けられていた。
狗鷲 保 もうすぐ三十路。いや、まだ二十七。
あまり良い思い出はないけれど、その体質のおかげで『狗鷲探偵事務所』を開業できた。
初めの頃はなかなかお客が来なかったが、仕事の依頼である有名人の失せ物(無くしたもの)を探し出したら感謝されて、つながりのある友人を次々に紹介してくれた。
結果、問題なく食えるようになってきた。
ヤバい依頼もたまにあって、生死に関わる問題となるので依頼を受けるときは慎重になった。
「保さん、依頼のメールがきていますので確認して下さい~!」
彼……、いや彼女と言った方が良いのか? (履歴書には『年齢&性別不詳でお願いします♡』と書いてあった)
長い髪は綺麗な青色に染めて、俺にはよく分からないが、今流行りの服を着て耳にはたくさんのピアス、化粧は濃い目(怒られる)の美人さんに、メールを読め! と言われた。
「分かったよ、小太郎」
「小太郎じゃないってば!! ズミって呼んで!!」
マジで怒られる。椅子から勢いよく立ち上がり、私を指差す。
「はいはい、分かりました。稲積 小太郎さん」
バン! と机を叩いて俺を睨む。
「もうご飯作らないよ!!」
あああぁ……それだけはやめて欲しい。
「スミマセンでした。ズミさん」
ペコリと頭を下げた。
「わかればよろしい」
ふん! と腕組みをしてドガッと椅子に座り直した。
俺より年下のハズだが、食物連鎖……じゃなかった、台所を支配する『ズミ』には勝てなかった。
ズミも元々、俺の “失せ物捜索” の依頼者だった。
まあ、色々あって一緒に仕事をするようになった。作る料理は美味いし、その他もろもろ優秀な助手だ。
「えっと……。これか」
カチャカチャとキーを叩き、依頼内容を読む。
―――――――――――――――――――――
狗鷲探偵事務所 狗鷲保 様
子供の失くしたした、ウサギのぬいぐるみを探して欲しい。
他言無用。報酬は倍。詳しくは事務所にて。
◇無くした時期 一週間前くらい
◇白い(汚れている)ウサギのぬいぐるみ
○○区 田所 はじめ
――――――――――――――――――――
ウサギのぬいぐるみの写真も付属。
「これか……」
気に入っていたのか、だいぶ汚れている。でも長い間、可愛がられてきたと思われる愛着を感じる。
「ふむ……」
子供のぬいぐるみ、ねぇ……。ただのぬいぐるみを探せ、なんて。
「あ、この依頼受けて下さい! お金が良いですから!」
一応最低依頼金を設定している。じゃないと、値切ってここに来る者が多すぎるからな。――倍の報酬か。
決まりか……。ズミには敵わない。俺は写真のウサギをジッとみる。
「危ない依頼人じゃないよな?」
依頼は慎重に受けたい。ヤバい事には捲き込まれたくないので、裏調査はしっかりとやる。
「大丈夫そうで――す!」
軽い調子で返事をしてきた。
だけど、ズミの裏調査は信用が出来る。依頼の物・金・依頼人の調査をじっくりと検討してから依頼を受ける。
「じゃあ依頼人に、依頼金を振り込むように連絡してくれ」
うちは、にこにこ現金先払い制だ。
『万が一、依頼物が見つからなかったら全額返品(調査費以外)します』を宣言している。
今の所、依頼物は全部見つかっている。100%だ。
「所長! きちんと振り込まれました――!」
某飲食店のような明るい声で、知らせてくれた。
よし。では、まず送られてきた写真をじっくりとみよう。
「ズミ……。後で、頼む」
振り返ってズミにあるお願いする。
「は――い」
俺の失物捜索は特殊だ。
推測で色々な場所に、探しに行ったりはしない。特殊なだけ代償が後から来る。それをズミに補ってもらっている。ズミはいないと困る人物だ。
「ウサギのぬいぐるみ……。子供の年齢は? その子の写真は送られてきたか?」
カチャカチャとキーを打つ音の後、「そちらに送ったよ」とズミが言った。
送られてきた子供の写真と年齢。
「田所 ゆいな(三歳)か。可愛い盛りだな」
髪の毛をツインテールの髪型にした可愛い女の子だった。この子のぬいぐるみらしい。
家の中にないのか……?
「家の間取り図以外に、出かけた場所の資料はある?」
パソコンの画面を見たまま、ズミに聞く。
「はい、ハ――イ!」
カタンと椅子から立ち上がって、ズミはこちらに資料を持ってくる。
「何カ所かあるみたい。まとめていたから」
「ありがとう」
ズミは気が利くので助かっている。
「……説明しにここへ来る時、子供も連れて来てくれないかなぁ?」
無くした物の持ち主に会いたい。その方が精度が高まる。
「連絡しときますね〜」
「よろしく……」
カチャ、シュッボ! ライターでタバコに火を点ける。深く吸い込み、フーッと吐き出す。
「保さ――ん! そろそろ、電子タバコに替えてくださいね――」
はぁ……。電子タバコか。時代には逆らえないのかな。ため息をついて立ち上がる。
「ちょっとコンビニ行ってくる」
「は――い」
禁煙は、したくない。
『でもタバコをやめると代わりに甘い物が好きになって、太る人っているみたいですね~』とズミに言われた。太るのは嫌だ。
エレベーターで降りながら自分の太った姿を想像した。中に鏡があり、顔を見てうんざりする。今はマスクをして顔が半分隠れているから良いが、もともと自分の顔が好きではない。色々トラブルがあって顔を晒したくない。
一階に着いて、扉が開く。
開いた扉の前に、小さい女の子を連れた男性が立っていた。まだその女の子は幼い。よく見ると女の子は、目を真っ赤にして泣いていた。両手を握りしめていて泣き声を我慢しているようだった。
「……田所さんですか?」
男性の困り顔に、連れている子の泣き顔を見て何となくそんな気がした。
男性は一瞬驚いたような顔をした。チラと女の子を見て言った。
「あなたは、狗鷲探偵事務所の……?」
胡散臭いものを見るような視線を感じたが、無視をして頷いた。
「狗鷲探偵事務所の、狗鷲 保です。事務所へどうぞ」
思っていたより急ぐ案件らしい。




