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5/7

段取り八分、仕事二分

 「段取り終わった。仕事二分に入る」


 朝霧の中で、ガルドはそれだけ言った。


 職人たちが顔を見合わせた。




 六の刻。城壁の前。


 ダンが腕を組んでいた。カリがスコップを持ったまま、まだ全員が目覚めきっていないような顔をしていた。残り二人の職人——年かさのトゲとその相棒のレンも、それぞれ道具を手にして集まっていた。


 シオがいた。約束通り、早く来ていた。ガルドより先にここにいたらしかった。


 クルトが手帳を広げた。


 「本日の作業の順序を確認させてください。午前に——」


 「午前に透水層の本工事。北側の粘土層の圧縮から始めて、東向きの透水路を通す。午後に表面の排水路の掘削に入る」


 「掘削の開始地点は」


 「城壁の東側から。俺が測量杭を打ちながら指示する。ダン、一間おきに杭を打った後、掘削は杭の深さに合わせて掘ってくれ」


 「一寸七分で一間、だったな」


 「そうだ。均一に下げていないと水が途中で止まる」


 「わかった」


 ダンは短く頷いた。一日で手に入れた信頼ではないが、昨日の透水層の試作が効いていた。水の向きが変わるのを目の前で見た男は、見ていない男より話が早い。


 「シオ」


 「はい」


 「午前中は俺の横にいろ。見ていい。ただし魔法の最中は声をかけるな」


 「わかりました」


 シオが頷いた。昨日とは少し違う顔をしていた。見ているだけでなく、何かを持ち帰ろうとしている顔だった。




 透水層の本工事は、ガルドが一人で進める。


 地表からは何も見えない。地面の上に立って、ひざを少し曲げ、手のひらを地面近くに向ける。土魔法を通す。


 密度が手に伝わってくる。


 地下一尺半の深さ。そこに粘土層が広がっている。北向きに水を運ぶ経路——昨日、試作で確認した方向とは逆の粘土の向き——を、今日は全体的に圧縮する。


 (ここから、ここまで)


 範囲を絞った。城壁の北側に沿って、幅二間。この粘土の透水性を下げる。


 魔力を集中させた。


 粘土の粒子の隙間を詰めるイメージ。細かい土の粒が、北に向かって水を通す向きではなく、より密に固まるよう圧力をかける。感触でわかる——粒子が応えてくる感触が、手のひらに返ってくる。


 汗が出た。


 三月ほど施工したところで、一度手を離した。魔力を回復させる。


 (反応が早い。この土は素直だ)


 (前の現場の粘土より扱いやすい——)


 その先はすぐに打ち切った。前世の話を掘り返しても今の作業には関係ない。


 横を見た。シオが立っていた。声を出さずに待っていた。約束通りだった。


 「どうなってます? 表からは何も変わって見えませんが」


 「北への透水性を落としている。あと二間分、同じことを続ける」


 「見えない部分の作業ですね」


 「そうだ。石工の仕事はほぼ見える。土魔法の仕事はほぼ見えない」


 「確認はどうやってするんですか」


 「さっきの試作の穴で水の向きを見る。北に滲みが出なくなれば、圧縮が効いている」


 「なるほど」


 シオが短く言った。わかった、という顔ではなく、メモしている顔だった。




 二間の圧縮が完了したのは、朝の中頃だった。


 次は東向きの透水層を通す。これが今日の本番だった。


 ガルドは場所を移動した。城壁の東側、地表から一尺半の深さ。ここに東方向へ通路を作る。長さは十二間——低地の縁まで届かせる。


 試作の三間とは規模が違う。


 (魔力を分割して進める。一気に十二間やろうとすると精度が落ちる)


 四間ずつ、三回に分けて施工する。


 最初の四間。


 ガルドはゆっくり動いた。地面の上を、城壁の東壁に沿って歩きながら施工する。歩きながら地下に魔力を届かせる。粘土の粒子の向きを変える——東に向かって水が流れやすい隙間を作る。粒子の向きを揃えて、水が東に抜ける路を開く。


 土が応える。


 粘土の細かい粒子が向きを変える感触。押し流されるのではなく、向きを変えて整列するような——材料が言うことを聞く感触だ。


 (いい土だ。本当に素直な土だ)


 四間で一度止まった。少し呼吸を整えた。


 「ガルド様」


 シオが近づいてきた。


 「声はいい。どうした」


 「十二間の透水層を通すのに、どれくらい時間がかかりますか」


 「四間ずつで分けて、一区画あたり十分から十五分。全部で一時間前後だ」


 「そのくらいでできるんですか」


 ガルドは少し間を置いた。


 「試作は三分だった。今日のは規模が違う。魔力の消耗が違う」


 「……消耗するんですね」


 「連続で使えば頭痛が来る。だから分割して施工する」


 シオが「そういう仕組みなんですね」と言った。納得した顔だったが、今度は少し心配するような色も混じっていた。


 「言われなくても倒れないように管理している」


 「あ、そういうつもりで聞いたわけじゃ——」


 「わかっている。次に行く。声をかけるな」




 二区画目、三区画目。


 ガルドは施工を続けた。


 十二間の透水層が完成したのは、日が中天に近づいた頃だった。


 「クルト、試作の穴に水を流してくれ」


 「はい」


 水が来た。ガルドは試作の穴を確認した。


 北側の壁面に滲みは出ない。


 東側の壁面——昨日、試作で滲みが出た方向——に、ゆっくりと湿りが広がってくる。半刻ほどで、濡れた色が指二本ぶんの幅になった。


 「——」


 「出た」


 シオが小声で言った。今日は余計なことは言わなかった。


 「東に向きが変わった」


 「変わった。午後の掘削に入る」


 ガルドは立ち上がった。




 午後の作業には、職人全員が戻ってきた。


 ダンが杭を束ねて持ってきた。


 「測量杭、準備できてます」


 「ここから始める」


 ガルドは城壁の東壁の外側、出発点に棒を刺した。


 「この点が基準だ。高さを測る。ここから一間進むごとに地面を一寸七分下げていく。杭に深さを書く。書いた深さまで掘れ」


 「どうやって深さを合わせる」


 「杭に線を引く。その線まで掘れば正しい」


 ダンが「わかった」と言った。


 ガルドは測量を始めた。


 一間ごとに立ち止まり、傾斜を確認して、杭に線を書き込む。職人たちが後からついてきて、書いた杭を地面に打ち込んだ。


 ガルドが歩いた。職人が打った。


 カリが初めて声を出した。


 「これ、全部の杭を打つのに一時間以上かかりませんか」


 「かかる。急がなくていい。精度の方が大事だ」


 「でも——」


 「杭が一箇所でも高さを外したら、そこで水が止まる。やり直しだ。急いで一回やり直すより、時間をかけて一発で決める方が早い」


 カリが黙った。


 (それを理解するには一度失敗してみないとわからないのかもしれない。だがここでは失敗できない)


 ガルドは次の地点に進んだ。




 測量が終わったのは、午後も半ばを過ぎた頃だった。


 城壁の東壁から十二間。杭が一間おきに整列して、それぞれに線が引かれている。


 「ここまでが第一区画だ。今日はここまで掘れ」


 「十二間全部か」


 「今日はそこまでだ」


 ダンが職人を仕切った。掘削が始まった。


 スコップが地面に入る音。土が積まれていく音。カリとトゲとレンが掘り始めた。ダンが杭の深さを確認しながら、必要なら掘り直しを指示した。


 ガルドは少し離れた場所に立って、全体を見ていた。


 測量通りに掘れているかどうか——一間ごとに確認する必要がある。ずれていれば今のうちに修正しなければ、後で全部やり直しになる。


 (まあ、まずまずだ)


 ダンは傾斜の意味を理解していた。「なんのためにこの線まで掘るのか」がわかっている職人は、精度が違う。


 「ガルド様」


 シオが横に来た。


 「なんだ」


 「あの——これが全部終わったら、今日はどこまで排水路ができますか」


 「今日の掘削は第一区画の十二間だけだ。全体の三割くらいだ」


 「三割。じゃあ全部終わるのに三日くらいかかる」


 「四日か五日だ。第二区画は低地に入る。地盤が違う。石で内壁を作る区間も出てくる」


 「石で内壁を——」


 シオが図を頭の中で思い出しているような顔をした。


 「昨日の図の中の、低地区間ですね。地盤が柔らかいから崩れないように」


 「そうだ。カリとダンに相談してある」


 「……もう段取りしてあるんですね」


 「もちろんだ」


 (あれを聞いたのはシオ自身だろう。昨日の話を覚えていて、今日の現場に当てはめている)


 悪くなかった。




 日が西に傾き始めた頃、第一区画の掘削が完了した。


 ガルドは完成した溝を歩いて確認した。


 十二間の溝。深さは始点が浅く、終点に向かってゆっくりと下がっている。杭の線に合わせて掘られていた。多少の凸凹はあるが許容範囲だった。


 「ダン」


 「はい」


 「精度は合格だ。明日の第二区画は低地に入る。地盤が緩い。スコップだけでは崩れる可能性がある。先に俺が土魔法で側面を締めてから掘る手順にする」


 「崩れる前に締める、ということか」


 「そうだ。順番が変わる。測量→土魔法→掘削の順になる。俺が先に動くから、少し待機する時間が出る」


 「待機は構わない。どのくらいかかる」


 「区画あたり、三十分前後だ。その間に道具の確認でもしてくれ」


 「わかった」


 ダンが頷いた。こういう実務的なやり取りは、ダンとは話が早かった。


 「今日はここまでだ」


 職人たちが道具を片付け始めた。日暮れ前の、現場の空気だった。




 シオが溝の横に立っていた。


 十二間の溝を、始点から終点まで歩きながら見ていた。ガルドが確認した後と同じ動線で歩いていた。


 ガルドがそれを見て、何も言わなかった。


 「ガルド様」


 「何だ」


 「この溝、水を流したらどうなりますか」


 「東の低地に向かって流れる。南の沼まで抜ければ、城壁の北側の地盤への圧力がなくなる」


 「今すぐ試せますか」


 「今は第一区画だけだ。低地の縁まで繋がっていない。試すのは全体が完成してからだ」


 「……そうですね」


 シオが少し考えた。


 「完成したら、流れるのが見えるんですか」


 「ゆっくりと、な。激流じゃない。滲むように流れる。地下の透水層に引き込まれていく感じだ」


 「それを見たい」


 「見ればいい。完成時に確認の作業がある」


 シオが「はい」と言った。


 ガルドは溝を一度振り返った。今日一日で作った十二間の溝。全体の三割。あと七割。


 (悪くないペースだ)




 クルトが記録を締めていた。


 「本日の記録です。透水層の本工事、十二間。表面排水路の掘削、第一区画十二間完了。傾斜確認、合格」


 「そうだ」


 「明日の予定は」


 「第二区画の掘削開始。低地に入る。土魔法の側面締め固めが必要になる。時間が余れば第三区画の測量に入る」


 「わかりました。ダン様に連絡しておきます」


 「頼む」


 クルトが手帳を閉じた。そのまま少し間を置いてから、言った。


 「……今日の透水層、地表から見ていると、ガルド様がただ歩いているだけに見えました」


 「そうだ」


 「傍から見ていると、何も起きていないように見える」


 「地下で起きている」


 「……わかってはいますが、不思議です。あれで十二間の通路が地下にできているとは」


 「できている。さっき水で確認した」


 「そうですね。水が動いたのは見ました」


 クルトが「はあ」という顔をした。わかったようなわからないような、いつもの顔だった。


 (まあ、見えないものは見えない。完成して水が流れれば、信じるしかなくなる)




 職人たちが引き上げた後、ガルドは溝に沿って再度歩いた。


 一間ごとの深さを確認する。最終チェックだ。


 大きな問題はなかった。一箇所だけ、第十間の深さが一分程度浅かった。明日の朝、ダンに伝えて修正させる。軽微なズレだが、積み重なると水が止まる。


 (一分は一分だ。許容しない)


 ガルドは棒で地面に印をつけた。「ここ、一分浅い」と書いた。


 立ち上がったとき、溝の向こうに夕焼けが見えた。


 西の空が橙に染まっていた。霧のせいで輪郭がぼやけていた。沼地の夕方はいつもこうだった。


 (まあ、悪くない空だ)


 それ以上は考えなかった。


 明日は第二区画だ。低地の地盤に入る前に、土魔法で構造を確認しておく必要がある。今夜のうちに施工手順を頭の中で整理しておく。




 翌朝、六の刻。


 ガルドは城壁の東壁に向かいながら、昨日の確認をした。


 第一区画の修正箇所。印をつけた地点を確認する——


 足が止まった。


 「……」


 第十間の地点。昨日、一分浅いと印をつけた場所の、その先。


 第十一間から先、溝の底が変わっていた。


 色が違う。


 土の色が。黄褐色の粘土ではない。灰色に近い、締まった色をした何かが、溝の底に顔を出していた。


 ガルドはしゃがんだ。


 手のひらを当てた。


 (硬い)


 杭が入らなかった城壁真下の、あの硬さに似ていた。


 (なんでここに)


 ガルドは手のひらで周囲を探った。土魔法を通す。密度の感触が変わる。灰色の層は第十一間の地点から先、城壁の真下の方向に向かって続いていた。


 表面からは昨日は見えなかった。掘り進めて、溝の深さが一尺を超えたところで初めて顔を出した。


 (これは——城壁の真下の硬さと繋がっているか?)


 ガルドは顔を上げた。


 溝の底の灰色の層が、東の低地に向かっているのか。それとも城壁の北側に向かっているのか。


 手のひらを通じて感触を探る。


 (……北だ。この層、北に向かっている)


 城壁の傾きは北向きだった。城壁の真下が異常に硬いのは、試し掘りで確認した。その硬さの根がここまで続いているとすれば——


 「ガルド様」


 シオだった。今日も早く来ていた。溝の横でガルドがしゃがんでいるのを見て、近づいてきた。


 「何かありましたか」


 「来てみろ」


 シオがしゃがんだ。溝の底の灰色の層を見た。


 「これ、昨日はありませんでしたよね」


 「昨日は一尺まで掘った。今日の深さでようやく顔を出した」


 「色が違いますね。粘土じゃないですか」


 「粘土じゃない。もっと硬い。城壁の真下と同じ硬さだ」


 シオが表情を変えた。


 「城壁の真下の——あの「杭が入らなかった」やつですか」


 「感触が似ている。同じ層が続いているかもしれない」


 「それって——排水路の設計に関わってきますか」


 ガルドは少し間を置いた。


 (そうだ。この硬い層が東に向かって続いているなら、排水路の掘削深さを変えなければならない。想定した深さで掘れない可能性がある)


 「影響する可能性がある。今日の第二区画に入る前に、この層がどこまで続いているか確認する」


 「設計が変わりますか」


 「変わるかもしれない。変わっても直す。変わる前に調べる。その順番だ」


 シオが頷いた。


 「……ガルド様は、こういうとき慌てないんですね」


 「慌てても地層は変わらない」


 「そうですね」


 「想定外は出る。出たら対応する。それだけだ」


 シオが「なるほど」と言った。今度は本当に、深いところで納得した顔をしていた。




 クルトが来た。手帳を開いたまま足を止めた。


 「……ガルド様、溝の底が変わっていますね」


 「昨日の掘削で顔を出した。調べる」


 「設計に影響しますか」


 「可能性がある。今日の施工前に確認する」


 「了解しました。ダン様への連絡は」


 「少し待ってもらう。確認が終わったら話す」


 クルトが記録を書き始めた。「想定外の硬層発見。確認中」と書いているのが横から見えた。


 (この記録、後で見ると面白いかもしれないな。想定外の発見がいつどこで出たか)


 (まあ、今は確認が先だ)


 ガルドは溝に沿って、東の方向に手をあてていった。


 硬い層の広がり方を確かめる。北に向かっている感触。東にはあまり続かない感触。第十一間から第十二間、その先——低地の縁に向かっては浅くなる。


 (東方向には薄くなっていくか)


 北に向かって強くなる。城壁の方向に向かって厚くなる。


 (これは城壁の真下から延びている)


 設計への影響は、思ったより限定的かもしれなかった。排水路の掘削深さを変えるのは、問題の区間だけで済む可能性がある。


 ただ——


 (この層が何なのか、まだわからない。城壁の真下の硬さも、未解明のままだ)


 これは今日一日では片付かない問いだった。




 「ダン」


 職人たちが揃ったところでガルドは言った。


 「今日の第二区画に入る前に、一つ確認事項が出た」


 「溝の底のやつか。見た」


 「色が違う硬い層が第十一間から北に向かって続いている。城壁の真下と同じ種類の硬さだと思われる」


 「……城壁の真下のやつか」


 「掘削への影響を確認した。東の低地方向には薄い。第二区画は大きな影響はないが、一部の深さを修正する可能性がある」


 「どう修正する」


 「硬い層が出た区間は、スコップでは掘れない可能性がある。その場合、俺が土魔法で軟化させてから掘る手順に変える。施工が遅くなる」


 「どのくらい遅くなる」


 「区画あたり半日程度、余計にかかるかもしれない。ただし、硬い層が薄くなれば影響は出ない。今日やってみないとわからない」


 ダンが「そうか」と言った。


 「やってみてから判断ということか」


 「そうだ。段取りは修正した。仕事に入る」


 ダンが頷いた。


 「わかった。なんか出てきたら教えてくれ」


 「言う」


 (これがわかっている職人は話しやすい。「何か出ても対応できる」という前提で動ける)


 ガルドは第二区画の始点に立った。


 「始める」




 夕方、第二区画の半分が完了した。


 予想通り、硬い層の影響は限定的だった。東の低地に向かう方向には薄くなり、スコップで掘り進める分には大きな障害にならなかった。


 ただ北方向——城壁に近い側の壁面を確認したとき、硬い層が思ったより深いところまで続いていた。


 (これは今日確認すべき話ではないかもしれない)


 (だが、設計全体に関わる可能性がある)


 ガルドは溝の壁面を、もう一度手のひらで確かめた。


 北の方向に延びる感触。城壁の真下と同じ硬さ。


 (……城壁の真下から東に向かって延びていた。昨日試し掘りで見た異常な硬さは——あの「入らなかった」層と、ここで繋がっているのかもしれない)


 一人で考えていた。


 「ガルド様」


 シオだった。


 「何だ」


 「今日の作業、どのくらいまで終わりましたか」


 「第二区画の半分だ。予定より少し遅いが、許容範囲だ」


 「硬い層の影響ですか」


 「部分的にある。ただ想定したほどじゃなかった。明日の後半で第二区画が終わる」


 「それで」


 シオが少し間を置いた。


 「その硬い層——城壁の真下のやつと繋がってるんですか」


 ガルドはシオを見た。


 (聞くか)


 「可能性がある。今日の確認だけではまだわからない」


 「もし繋がっているなら——城壁の下に何かあることになりますか」


 「なるかもしれない」


 「何があると思いますか」


 ガルドは答えなかった。


 「わからない」


 「調べますか」


 「調べる。それは排水路の工事が終わってからだ。今は水路が先だ」


 シオが「わかりました」と言った。


 だが顔は、わかったというより、続きを楽しみにしている顔だった。




 帰り際、ガルドは一人、溝の端に立った。


 これまでに、城壁東側の排水路が一区画半、合わせて十八間掘られていた。全体のおよそ四割強だ。


 本来なら良いペースだった。


 しかし今は、排水路より別のことを考えていた。


 溝の底から見えた、灰色の層。


 城壁の真下の異常な硬さ。


 試し掘りで初めて確認したとき、「何かが埋まっている可能性がある」と思った。今日の発見は、その「何か」が城壁の真下だけでなく、より広い範囲に分布していることを示していた。


 「……」


 (こっちは、思ったより大きい問題かもしれない。あの層は何だ。沼地の土としては硬すぎる。何年前にできた地層なのか——掘らないとわからない)


 そしてすぐに、別のことを考えた。


 (まあ、今は水路だ。水路を終わらせてから、掘ればわかる)


 それだけだった。


 「ガルド様、そろそろ」


 クルトの声がした。


 「行く」


 ガルドは溝から離れた。


 夕霧が出始めていた。城壁の輪郭がぼやけて見えた。


 (水路が終わったら、城壁の下を掘る。そのときに全部わかる)



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