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14/15

橋が重さに耐える理由

 翌朝、ガルドは夜の計算書を持って橋に行った。


 まだ早い時間だった。川霧が低く出ていた。橋の石面が霧を吸って、昨日より色が濃かった。


 コルダはもう来ていた。




 橋の南端の支点に立って、ひびを見ていた。昨日と同じ場所だ。今日は道具を持っていた。石鑿と木槌。腰の革帯に差してある。革帯がしっかり締まっていた。仕事前の締め方だ。


 (昨日は道具なしで来た。今日は持ってきた。それが昨日と今日の違いだ)


 「計算をまとめた」


 ガルドが言った。


 コルダが振り向いた。


 「見ていいか」


 「どうぞ」


 コルダが近づいてきた。ガルドが計算書を広げた。木の板に刻んだ数字と、それを昨夜紙に写し取ったものだ。




 「ここから読む」


 ガルドが指で示した。


 「スパンが七間八分。荷重を千五百スンで計算した。支点が二つだから、荷重の分布はこうなる——」


 「待て」


 コルダが言った。


 「支点が二つ、というのは——端の石組みだけということか」


 「そうだ。中間に補助の柱はない。単スパンの橋だ」


 「それは見ればわかる。が——支点の数で荷重の分布が変わるのか」


 「変わる。支点が多ければ荷重が分散する。二つだけなら、中央に荷車が来たとき、支点に全部の力が集まる」


 コルダが「ふむ」と言った。腕を組んだ。


 「石橋を組んだとき、そんなことを考えたことはなかった」


 「考えなくても橋は建つ。ただし余裕がわからない」


 「余裕——安全率か」


 「昨日言った数字だ。一・一二」


 コルダがひびを見た。指で触れた。


 「この数字が、このひびに繋がるのか」


 「繋がる。安全率が低いほど、繰り返しの荷重で石材が疲弊するのが早くなる」




 「補強の計算を見せる」


 ガルドが次の行を指した。


 「南端の支点に石を巻き増す。断面積を今の一・四倍にする。同時に支点の地盤を土魔法で固める。この二つで、安全率がどう変わるか」


 「変わるのか」


 「変わる。計算上は一・六から一・七の間になる」


 コルダが黙った。数字を見た。しばらく見た。


 「——一・六、というのは、設計として合格か」


 「一・五以上が基準だ。合格の域に入る」


 「補強だけで、合格になるのか」


 「石材の劣化と地盤の状態次第だが——今の段階なら、補強で対応できる計算が出ている」


 コルダが石組みの表面を手で叩いた。乾いた音がした。


 「石は大丈夫か」


 「表面は傷んでいるが、内部はまだ硬い。今年の雨季前に補強を入れれば、あと十五年は持つ見込みだ」


 「十五年」


 コルダが繰り返した。


 「石が今より傷まなければ、二十年も見込める」


 「——計算で出るのか。その数字が」


 「出す。ただし目安だ。劣化の速さは現場次第になる」


 コルダが「そうか」と言った。


 (コルダが「計算で出るのか」と聞いた。否定ではなく、確認の問いだ。EP09の「そんな計算をするやつを見たことがない」から、ここまで来た)




 「補強の施工は——どうする」


 コルダが聞いた。


 「支点の石組みを南北ともに巻き増す。石の積み方はコルダ親方の仕事だ。地盤の固め方は私の仕事だ」


 「分業か」


 「道路と同じだ」


 コルダが石組みを見た。ひびの入った南端と、安定している北端を見比べた。


 「南だけでは足りないか」


 「南端が優先だ。北端は今すぐは問題ないが、同じ構造だから、やるなら両方やる方がいい」


 「両方やれば、工期はどのくらいかかる」


 「石積みの工程次第だ。地盤を固めるのは一日でできる。石を巻き増すのはコルダ親方が見ないとわからない」


 コルダが「そうか」と言って、石組みの前に立った。腰から石鑿を出した。ひびの端に当てた。鑿を少し傾けた。軽く叩いた。乾いた音がした。鑿の柄に返ってくる感触があった。コルダがその感触を確かめるように、もう一度叩いた。それから鑿を戻した。


 「南端で四日。北端で三日。石積みは七日見れば足りる」


 「石材の追加発注はどのくらいかかるか」


 「今の在庫で、南端の巻き増しは半分まで足りる。残りを追加発注すれば——一週間と少しで届く」


 「道路の発注と同時に出せるか」


 「出せる。石材屋には話が通っている」


 ガルドがうなずいた。


 「二区間目の地盤改良が終わってから橋の工事に入る。地盤改良に八日から十日かかる計算だ。その間に石材が届けば段取りが合う」


 「——合うか、合わないかは、石材が来るまでわからない」


 「そうだ。雨季が来る前に補強が終わっていれば問題ない」


 コルダが「わかった」と言った。石組みに手を当てたまま、少し間があった。


 「一つ聞いていいか」


 「どうぞ」


 「補強を入れれば、ひびは止まるのか」


 ガルドは少し考えた。


 「安全率が上がれば、ひびが広がる速度は落ちる。完全に止まるかは——地盤の安定次第だ。支点が安定すれば、ひびに加わる力が減る。力が減れば広がらなくなる」


 「止まるかもしれないし、止まらないかもしれない」


 「そういうことだ」


 コルダが「正直だな」と言った。


 「嘘をついても意味がない」


 「そうだな」


 コルダが石組みから手を離した。川を少し見た。


 「三十年、この橋を渡ってきた。ひびが入った年も、また入った年も——直し方がわからなかった」


 「詰め物を入れたのか」


 「入れた。一年で取れた。また詰めた。それを繰り返していた」


 (表面を塞いでも意味がない。原因は力の分布にある。詰め物は症状への対処で、原因への対処ではない)


 「詰め物では止まらない。力が変わらないからだ」


 「それが——安全率か」


 「そうだ」


 コルダが「……なるほど」と言った。昨日と同じ声だったが、今日の方が少し重かった。




 シオとクルトが橋に着いたのは、それから少ししてからだった。


 二人が来て、コルダが計算書を返した。


 「また来ていいか」


 「いつでも」


 コルダが橋を一度見て、土手を上がっていった。


 シオが後ろ姿を見ながら言った。


 「今日は道具を持ってましたね」


 「そうだ」


 「昨日より早く来てましたか」


 「同じくらいだ」


 シオが「そうですか」と言って手帳を出した。


 「コルダ親方と計算の話を、したんですか」


 「した」


 「親方、どんな反応でしたか」


 ガルドは少し考えた。


 「聞いていた」


 シオが「聞いていた」と繰り返した。それ以上聞かなかった。手帳に何か書いた。




 二区間目の地盤改良は、その日も進んでいた。


 ニルとオーカが低地区間の粘土層を掘り出していた。ガルドが橋から戻ったとき、二人は南から十四間の地点にいた。


 「進捗は」


 「昨日より速いです。粘土の固さが場所によって違います。柔らかいところは掘れる。硬いところで止まってます」


 ニルが答えた。


 「硬い場所を見せろ」


 ニルが案内した。南から十六間。掘り止まっている地点だ。ガルドがしゃがんで手をついた。土魔法を通す。粘土層の下に砂質層がある。この区間だけ地層の順番が違う。


 「ここは砂が混じっている。掘り方を変える。深さをここまでにして、横に広げる形で締める」


 「横に広げる、というのは」


 「深く掘るより、広い範囲で浅く地盤を均す。砂質の層は広げた方が締まる」


 ニルが「——どうやってわかるんですか、地層の順番が」


 「土魔法で感触が来る」


 「触らないとわかりませんか」


 「触らないとわからない」


 ニルが地面に手をついた。しばらく当てた。


 「……硬さが一段変わる感触がします。でもそれが砂なのかどうかはわからない」


 「今はそれで十分だ。感触が変わる場所を覚えろ。数字と後で合わせれば、何が起きているかわかるようになる」


 「数字と合わせる——」


 「施工が終わった後で、掘った深さとここの地盤の挙動を見比べる。それを繰り返すと、感触と数字が繋がる」


 ニルが手帳を出した。書き始めた。書きながら「何年かかりますか」と言った。


 「現場次第だ」


 (ニルが「何年かかるか」と聞いた。三年か五年か、という問いではない——数字と感触が繋がるまで現場を続けるつもりだ、という問いだ)




 オーカが低地区間の排水溝を担当していた。


 内壁石の並べ方は、ルゴから教わった手順を使っていた。ガルドが通りかかったとき、石を当てながら位置を確かめている最中だった。


 「——合ってるか」


 「一分ずれてます。直します」


 オーカが石を外して、下の面を確認した。石の下に砂を薄く詰め直した。石を置いた。確認した。


 「合いました」


 (一分の修正を自分で判断した。ルゴに見てもらわずに。——昨日より一段動きが決まっている)


 「悪くない」


 ガルドが短く言って、先に進んだ。


 クルトが後ろで記録していた。




 昼過ぎに、コルダが来た。


 今度は橋の方には行かなかった。道路の現場に来た。


 ニルとオーカが低地区間を掘っている場所に近づいて、少し離れたところに立った。声はかけなかった。見ていた。


 (来た。道路工事の方に来た。橋ではなく、二区間目の現場を見にきた)


 ガルドはコルダの方を見なかった。作業の指示を続けた。


 「ニル、南から十七間の深さを測れ」


 「はい。——一尺五分です」


 「もう一分深くなるか確かめろ。砂の層に当たったら止めていい」


 「わかりました」


 シオが測量紐を持って動いた。数値を読み上げた。クルトが記録した。


 コルダは動かなかった。


 ニルがガルドに確認しながら、深さを進めた。「ここで止まります、砂の感触がします」と言った。ガルドが土魔法で確かめた。「そこで止めていい」と言った。


 コルダが腕を組んだ。


 オーカが排水溝の内壁を詰めていた。コルダがその方向に視線を移した。しばらく見た。オーカは気づいていなかった。石を一枚一枚、下から順番に積んでいた。隙間を確かめながら進んでいた。


 (コルダが見ている。——施工を見ている。橋の計算でも道路の数字でもなく、手を動かしている職人の仕事を見ている)




 「オーカ」


 コルダが声をかけた。


 オーカが顔を上げた。コルダを見て、少し立ち上がりかけた。


 「やっていろ」


 コルダが手で制した。


 「隙間の確かめ方——ルゴのやり方か」


 「そうです。昨日、工房で教わりました」


 「ルゴに直接行ったのか」


 「はい」


 「聞いたら教えてもらえたか」


 「見せてもらえました」


 コルダが「そうか」と言った。腕を組んだまま、また見た。


 「合ってるか、確かめ方はわかるか」


 「横から指を当てて、引っかかりがあれば一分以内です。引っかからなければ詰め直します」


 「今のは」


 「大丈夫です。引っかかりました」


 コルダが「そうか」と言った。それ以上は言わなかった。


 オーカが作業に戻った。コルダは同じ場所に立っていた。




 夕方まで、コルダはずっといた。


 声はあまりかけなかった。ニルに一度だけ「掘った土をどこに積んでいるか」と聞いた。ニルが「あそこです」と指した場所を見た。それだけだった。


 シオが測量紐を片付けながら、ガルドの隣に来た。


 「コルダ親方、今日は長いですね」


 「そうだな」


 「また道具を持ってましたね。今日は使いましたか」


 「確認には使っていた」


 「確認——ひびの確認ですか」


 「そうだ」


 シオが「……コルダ親方も確認するんですね。自分の手で」と言った。声に驚きはなかった。納得の声だった。


 「石工は手で確かめる」


 「ガルド様と同じですね」


 ガルドは少し間を置いた。


 「道具が違うだけだ」


 シオが「そうですか」と言って手帳に書いた。




 コルダが帰る前に、ガルドのところに来た。


 「一つ聞いていいか」


 「どうぞ」


 「ニルが砂の感触で止まった——あれはガルドが土魔法で確認したから止まれたのか。それとも、ニルの手が感じたのか」


 ガルドは少し考えた。


 「両方だ。ニルが感触で気づいた。私が土魔法で確認した。どちらかだけでは足りなかった」


 「ニルの手が——役に立ったのか」


 「今日は役に立った」


 コルダが「そうか」と言った。短い返事だったが、何か考えている声だった。


 「オーカの石の積み方は——合格か」


 「今日の段階では問題ない。速さより精度を優先している。それでいい」


 「ルゴから何を覚えてきたか——現場で確かめれば、だいたいわかる」


 「そうだ」


 コルダが「そうだな」と言った。自分に言ったような声だった。




 「計算を見せてもらった礼を言っておく」


 コルダが言った。


 「礼には及ばない。施工に必要な数字だ」


 「三十年、橋を渡ってきた。ひびの原因を計算で説明されたのは初めてだった」


 「初めてだったのか」


 「石工は感触で見る。原因の名前を計算で知ることはしてこなかった」


 ガルドは少し黙った。


 「名前がついていれば、直し方も決まる」


 「それが——安全率か」


 「それだ」


 コルダが「なるほど」と言った。それから土手の方を見た。橋の方向だ。


 「明日も来ていいか」


 「工事が始まれば、いつでも」


 「工事が始まる前も——来ていいか」


 (コルダが「工事が始まる前も」と言った。計算の話ではなく、施工を見たいということだ)


 「どうぞ」


 コルダが「わかった」と言って、土手を上がっていった。振り返らなかった。




 翌日、コルダは朝から来た。


 橋ではなかった。道路の現場だった。


 ニルとオーカより早く来ていた。シオより少し遅かった。ガルドが測量を始めたとき、コルダはすでに低地区間の排水溝の端に立って、昨日オーカが積んだ石の面を見ていた。


 近づかなかった。声はかけなかった。ただ見ていた。


 (「来ていいか」と聞いてきた。来た。見ている——昨日から変わっていない。これが今のコルダだ)


 ガルドは測量を続けた。




 ニルが来た。


 コルダを見て、少し驚いた顔をした。それからすぐ道具袋を下ろして作業に入った。


 オーカが来た。


 コルダの立っている場所——昨日自分が積んだ石の前に、コルダが立っていることに気づいた。一瞬止まった。コルダがこちらを見た。


 「続けろ」


 コルダが短く言った。


 オーカが「はい」と言って作業に入った。


 (コルダが来て、ニルとオーカがいつもより少し背筋が伸びた。——親方が見ているというのはそういうことだ。意識していないようで、している)




 昼前に、シオがガルドの隣に来た。


 「コルダ親方が来るようになりましたね」


 「そうだな」


 「昨日から毎日ですか」


 「今日で二日目だ」


 「昨日と今日で——何が変わりましたか。親方の様子」


 ガルドは少し考えた。


 「昨日は橋に行った。今日は道路から来た」


 シオが「なるほど」と言って手帳を出した。


 「計算を見てから——現場を見るようになった」


 「そうだ」


 シオが「……計算を見てから」と書いた。少し間があった。


 「ガルド様」


 「何だ」


 「コルダ親方は三十年、石の感触で確かめてきたんですよね。計算がなくても、感触で答えを出してきた」


 「そうだ」


 「それでも、計算を見たくなったのは——なぜですか」


 (シオが問いかけた。シオの問いが鋭くなっている)


 ガルドは少し間を置いた。


 「感触は正しかった。ただし余裕がわからなかった。コルダ親方は昨日「直し方がわからなかった」と言った。感触では問題がわかる。計算があれば、原因がわかる。直し方が決まる」


 「感触は問題を見つける。計算は原因を説明する」


 「そうだ」


 シオが「——そうか」と言った。手帳に書いた。書く速さが少し上がっていた。




 橋の補強工事は、石材が届いてから始まった。


 二区間目の地盤改良が終わった翌日、コルダが石材を持ってきた。


 南端の支点の周囲に、石を巻き増す作業だ。コルダ自身が最初の一段を積んだ。


 ガルドは並んで見ていた。


 コルダの石の置き方は静かだった。音が少なかった。石を当てて、面を確かめて、置く。その動きに無駄がなかった。


 (三十年の石工の仕事というのはこれだ。速さより確かさで動く。計算書の数字が生きるのは、この手があるからだ)


 「地盤の固め方は——先にやるか」


 コルダが聞いた。


 「石積みと並行していい。支点の下から固める。一段積んでから、その下を固めるという順番で進む」


 「一段ずつか」


 「そうだ。同時に進めると、石が動いたときに地盤の状態を確認できなくなる。一段確認しながら進む方が確実だ」


 コルダが「手間がかかるな」と言った。


 「手間が段取りだ」


 コルダがわずかに笑った顔をした。笑いではなかったかもしれない。ただ、表情が少し動いた。


 「そういう言い方をするのか」


 「段取り八分、仕事二分。準備を怠ると施工が崩れる」


 「——それは石工でも同じだ」


 「そうだ」




 ニルが補強作業を横から見ていた。


 オーカも見ていた。シオも見ていた。クルトが記録していた。


 コルダが石を一段積んだ。石が面に嵌る音がした——乾いた、小さな音だ。ガルドが地盤を固めた。土魔法が支点の下を締める感触が足裏に来た。コルダが次の石を当てた。位置を確かめた。当て直した。


 一段、また一段。


 昼が過ぎて、南端の支点の下段が終わった。コルダが立ち上がって、石の面を確かめた。


 「平面は出てるか」


 「測る」


 シオが測量紐を持った。数値を読んだ。


 「——合ってます。傾き三分以内です」


 「三分以内、合格か」


 ガルドがコルダを見た。


 「石工で三分は誤差内か」


 「誤差内だ。ただしもう少し出せる」


 「では一分以内を目標にする」


 「一分以内——できるが、時間がかかる」


 「何日かかる」


 「一分以内で南端を仕上げれば、プラス一日見てほしい」


 「構わない。精度を取る」


 コルダが「そうか」と言った。また石を見た。腰から石鑿を出した。石の面に当てた。


 「一分以内で仕上げる」


 「頼む」




 夕方、ニルがガルドに来た。


 「一つ聞いていいですか」


 「何だ」


 「コルダ親方の石積みで——音が少ないのはなぜですか。俺が積むとぶつかる音がします」


 「石の面が出ているからだ。面が合っていれば、音なく嵌る。面が出ていない石を置こうとすると音が出る」


 「面の出し方は——計算で出ますか」


 「出ない。手で覚える」


 ニルが「……そうですか」と言った。


 「コルダ親方に聞け」


 「聞いていいですか」


 「さっき聞きに行かなかったのか」


 「……行こうか迷ってました」


 ニルが道具袋の持ち手を一度握り直した。コルダの方を見た。コルダは石を見ていた。


 「オーカはルゴに直接聞きに行った。同じ手順だ」


 ニルが「わかりました」と言った。道具袋を持って、コルダの方へ歩いていった。


 (ニルが迷って、行くことにした。——オーカの動き方がニルに伝わった。施工の中で伝わった)


 シオが横で手帳を開いていた。


 「全部見てますね、シオ」


 「全部書きたいです。追いつかないですが」


 「追いつかなくていい」


 「クルトさんと同じことを言いますね、ガルド様は」


 「クルトが正しい」




 夜、一人になってから、ガルドは計算書を広げた。


 橋の補強の数字だ。今日の施工で、南端の一段目が積まれた。設計通りに進んでいる。地盤の固め方も、想定内の反応だった。


 (段取りが合っている。石材の精度、地盤の反応、職人の動き——全部が計算の範囲内に収まっている。こういう日は少ない)


 コルダが一分以内の精度で仕上げると言った。それが本当なら、計算上の安全率は一・六五を超える。設計の目標より上になる。


 (コルダの三十年がこの橋に入った。計算が設計し、職人の手が完成させる。どちらが欠けても橋にならない)


 補強が終われば、次は城壁基礎だ。


 頭の中で試算がある。城壁の基礎は——全部見直さなければならない可能性がある。排水路工事のとき、城壁の真下だけ硬かった。試し掘りがまだ終わっていない。


 硬いのが良いことなのか、悪いことなのか——掘ってみないとわからない。ただし、最初から硬かった場所というのは、たいてい何かある。


 (その前に橋を仕上げる。段取りは順番通りでいい)


 ガルドは計算書を折って、腰の袋に入れた。


 (明日もコルダが来るだろう。それでいい)



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