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今崩れるより意図して建て直す方がいい

 試し掘りは、橋の補強工事が三日目に入った朝に始めた。


 場所は城壁の北側。壁の真下から二間ほど離れたところに、幅一間・深さ二間の縦穴を掘る予定だ。城壁を壊さずに基礎の状態を確かめるための調査穴だ。


 「段取り八分、仕事二分」とガルドは小声で言い、地面に杭を打った。




 シオが隣に立っていた。


 「今日から掘るんですか、城壁の下を」


 「今日は城壁の下ではない。隣を掘る。壁そのものは後だ」


 「隣を掘って——何がわかるんですか」


 「まず地層を見る。何が何の上に乗っているかを把握してから、壁の真下を確認する順番だ」


 シオが「なるほど」と言って手帳を出した。


 「最初の調査のとき、城壁真下は杭が全然入りませんでしたよね。あれはどういう意味だったんですか、今思えば」


 「わからなかった。だから掘る」


 「……今でもわからないんですか」


 「掘ったらわかる」


 (掘ったらわかる。それ以上のことは言えない。ただしこの場所には何かある。三年前から分かっていた。ようやく掘る順番が来た)


 ガルドは土魔法を通した。地面の感触が手に来る。表面から二尺ほどは柔らかい沼地の粘土だ。その下に、硬い層がある。


 硬い——だが、岩ではない。




 一日かかった。


 縦穴の掘削は、土魔法で粘土を除けながら進んだ。シオが記録し、クルトが測定を補助した。


 一尺半の深さで、最初の変化があった。


 粘土が切れて、灰色の硬い層が現れた。


 「止まれ」


 ガルドが言った。


 穴の底に手を入れた。灰色の表面を触った。冷たい。平らだ。どこかで触れた感触だ。


 「何ですか、これ」


 シオが穴を覗き込んだ。


 「石だ」


 「……石?」


 「石を並べてある。人の手が入っている」


 クルトが記録を止めた。


 「——この深さに、石組みがあるということですか」


 「そうだ」


 クルトが少し間を置いた。


 「それは——誰が、いつ、作ったものですか」


 「わからない」


 (わからない。だが、石が並べてある。沼地の自然地層にこの配置はない。人が作った構造物が、城壁の下に眠っている。これが最初から硬かった理由だ)




 その日の夕方、ガルドは穴を縦横に広げた。


 広げるほどに、石組みが見えてきた。


 幅は少なくとも三間以上ある。深さはまだわからない。だが明らかなことが一つあった。


 「城壁はこの石組みの上に建っている」


 ガルドが言った。


 シオとクルトが黙った。


 「石組みは古い。この上に誰かが城壁を建てた。石組み自体が正しく基礎として設計されているかどうか、まだ確認できていない」


 「正しく基礎として設計されていない——ということは」


 「城壁の底が、浮いている可能性がある」


 「浮いて、いる」


 「土の上に建てたのではなく、古い廃墟の上に建てた。廃墟の石組みが崩れれば、城壁ごと傾く」


 クルトが手帳を持ったまま、視線を上げた。城壁の壁面を見上げた。北側の壁面は、城壁全周を調べたときに傾きが最も大きかった箇所だ。


 「……今も傾いていますよね、北側は」


 「そうだ」


 「それはこれが原因ですか」


 「原因の一つだ。排水路を直してから傾きは止まった。だが基礎の構造が問題なら、傾きはまた始まる。あるいは、別の形で壊れる」




 翌日の朝、ガルドは穴をさらに広げた。


 橋の補強はコルダに任せた。今日はニルとオーカも道路の二区間目の仕上げを続けている。ガルドが城壁の下を掘る間、他の現場は各自が動く段取りだ。


 昼前に、コルダが橋から戻ってきた。道路の現場ではなく、城壁の方に歩いてきた。


 「何をやっている」


 「試し掘りだ」


 「城壁の下を?」


 「隣を掘って、城壁の基礎を調べている」


 コルダが穴を覗いた。底の石組みを見た。


 「——石が出てきたのか」


 「そうだ」


 コルダが黙った。しばらく穴を見た。


 「これは、いつの石だ」


 「わからない。ただし古い。この上に今の城壁が建っている」


 「それは——問題か」


 「問題だ」


 (コルダが「問題か」と聞いた。石工の目から見てもわかる話だ。基礎の下に想定外の構造物がある。それが安定しているかどうかは、別の話になる)


 コルダが穴の縁にしゃがんだ。手を伸ばして底の石に触れようとしたが、届かなかった。


 「何が問題なんだ」


 「城壁が古い石組みの上に乗っている。石組みが崩れれば城壁が傾く。傾きがすでに始まっている」


 「……北側が傾いていたのは、これか」


 「これも原因の一つだ」


 「もう一つの原因は」


 「排水だ。水が基礎の下に入り込んで石組みをさらに不安定にしていた。排水路を直してから傾きは止まっている。ただし根本は直っていない」


 コルダが立ち上がった。城壁の壁面を見た。


 「根本を直すというのは——どういうことをするんだ」


 「今の城壁を一度壊す。古い石組みを取り除く。正しい基礎を作り直す。城壁を建て直す」


 コルダが「……そうか」と言った。


 それ以上は言わなかった。




 二日後、ガルドはエドワン領主に報告を求めた。


 場所は領主の執務室だ。クルトが同席した。シオも「記録します」と言って隅に座った。


 (「記録します」というのはシオの口実だ。いてもいい、ということはガルドも知っている)


 エドワンは七十近い老領主だ。排水路が完成してからは、ガルドの報告を遮ることが少なくなった。今日も椅子に座ったまま、皺の深い顔でガルドを見ている。


 「城壁基礎の調査結果を報告する」


 ガルドが言った。


 「聞こう」


 「城壁の北側、基礎の直下から古い石組みの廃墟が発見された。現在の城壁は、この廃墟の上に建てられている。廃墟の石組みは部分的に崩れており、これが城壁北側の傾きの根本原因の一つと判断する」


 エドワンが眉を動かした。


 「廃墟、とは」


 「古い構造物だ。誰が建てたかはわからない。少なくとも現在の城壁より古い。百年以上前の可能性がある」


 「……領地の記録には、そのような構造物の記述はないが」


 「掘って初めてわかった。建てた人間も知らなかったか、知っていて上に建てたかのどちらかだ。どちらにしても、今は問題になっている」


 エドワンが「続けなさい」と言った。


 「城壁基礎を根本から直すには、現在の城壁を一度壊す必要がある。廃墟の石組みを取り除き、正しい地盤改良を施した上で、新たな基礎を作り、城壁を建て直す」


 執務室が静かになった。


 クルトが手帳を持ったまま動かなくなった。シオが手帳の上で筆を止めた。


 エドワンが「壊す」と繰り返した。聞き返す声だった。


 「そうだ。今の城壁を壊して、基礎から作り直す」


 「——城壁を壊せば、この領地は無防備になる」


 「工事中は防御力が落ちる。それは事実だ」


 「城壁のない城というのは——」


 「城ではない。ただし現状の城壁も、基礎が崩れれば同じになる。今崩れるか、後で崩れるかの違いだ」




 翌朝、エドワンは職人たちを呼んだ。


 城壁の修繕に関わってきた石工の職人三人と、コルダだ。クルトが連絡を回した。


 場所は城壁の北側——ガルドが掘った縦穴の前だ。穴は今も開いたままで、底に古い石組みが見えている。


 コルダはすでに一度見ていた。職人三人は初めて見る。


 穴を覗いた三人のうち、一人が「これは何だ」と言い、一人が黙ったままで、もう一人が「石組みか」と低い声で言った。


 ガルドが立って、昨日エドワンに説明したことと同じことを説明した。発見された経緯。廃墟の石組みの規模。城壁との関係。今後の方針。


 説明が終わったとき、最初に口を開いたのは職人の一人——ガルドが記録上「ドンネ」と把握している、五十代の石工の親方格だった。


 「城壁を壊すということか」


 「そうだ」


 「冗談じゃない」


 声が出た。低かったが、はっきりした声だった。


 「城壁は、この領地を守るものだ。それを壊すというのは——敵が来たらどうする。工事中に攻められたら」


 「来ないだろう」


 「来ないと、どうして言える」


 「根拠がないのは認める。だが来たとして——今の城壁が守れるか」


 ドンネが黙った。


 「北側の傾きは排水を直してから止まっている。だが基礎の問題は残っている。強い地震か、大雨が続けば、今の状態でも崩れる可能性がある。攻められたとき、城壁が先に崩れれば同じことだ」


 「だからといって自分で壊すというのは——」


 「今崩れるより、意図して建て直す方がいい」


 ガルドが言った。


 短く、断定した。


 ドンネが顎を引いた。別の職人が「期間はどのくらいかかる」と聞いた。


 「段取りを組んでから話す。今日は事実の確認だ」




 コルダが黙って立っていた。


 職人たちとエドワンのやり取りを、腕を組んだまま聞いていた。


 ガルドは気づいていた。コルダが一度、穴の底を見て、それから城壁の壁面を見て、それからまた穴を見た。


 (コルダは何かを考えている。橋の計算書を見てから、感触より先に計算で確認する順番に変わった。今も計算している。頭の中で)


 エドワンが「他に意見はあるか」と言った。


 しばらく誰も言わなかった。


 コルダが「一つ聞いていいか」と言った。


 全員がコルダを見た。


 「今の城壁を壊してから、新しいものを建て直すまでの間——北側の防御はどうする。城壁なしで何日かかる」


 これはガルドへの問いだった。


 「北側の城壁を一度に全部壊すのではない。区間に分けて施工する。一区間壊している間、隣の区間はまだ残っている」


 「区間を分ければ、同時に完全に無防備にはならないということか」


 「そうだ。工事の段取りで防御の穴を最小にできる。それも含めて施工計画を立てる」


 コルダが「なるほど」と言った。


 ドンネが「それで施工期間は何日だ」と繰り返した。


 「計算してから答える」


 「今はわからないということか」


 「今掘ってわかったことを計算するのに時間がかかる。一週間待ってほしい」


 「一週間——」


 「段取り八分、仕事二分だ。計算なしで始めると途中で止まる」


 ドンネが舌を鳴らすような顔をした。だが反論はしなかった。




 集まりが終わり、人が散り始めた。


 エドワンが帰り際、ガルドの隣に立った。


 「ガルド」


 「はい」


 「城壁を壊すという判断は——正しいか」


 「正しい。これ以上放置すれば、自然に崩れる」


 エドワンが少し間を置いた。


 「この城壁は——私が着任した頃からある。五十年近く、この形で立っていた」


 「立っていた、というのと、正しく立っていたというのは別の話だ」


 「……そうだな」


 エドワンが穴を見た。底の石組みを見た。


 「あの下の石組みは、何のために作られたものだと思う」


 「わからない。ただし誰かが、当時の技術で作った構造物だ。それ自体は丁寧な仕事かもしれない。上にどう使われたかが問題だっただけで」


 エドワンが「……そうか」と言った。老人の声だった。


 「わかった。進めてくれ」




 午後、コルダがガルドのところに来た。


 他の人間がいない場所だった。測量道具を片付けているガルドの隣に、並んで立った。


 「石工ギルドに話を通す必要があるか」


 「ある。城壁の解体は石工の仕事になる。うちだけでは石が動かせない」


 「わかった。俺が話す」


 「親方は——反対するか」


 コルダが少し考えた。


 「ドンネは反対する。当然だ、三十年やってきた城壁を壊すとなれば感情が先に動く」


 「感情は理解できる」


 「ただし数字を出せば話は変わる。今の状態があと何年持つか、と。お前は計算できるか」


 「できる。今の状態では——あと五年から八年で北側が再度傾き始める計算が出ている」


 コルダが「五年か」と言った。


 「今崩れるより意図して建て直す方がいい、と言ったな」


 「そうだ」


 「ドンネに同じことを言っても届かない。届かせるには——数字か」


 「数字と、結果だ」


 「結果、とは」


 「作り直した城壁が、今より長く持つことを示す。道路と同じ順番だ。一区間やってみて、数字が出れば信用する」


 コルダが少し黙った。


 「——道路のときと同じか」


 「同じだ」


 「そうか」


 コルダが腕を組んで城壁を見た。北側の壁面だ。傾きは目に見えるほどではないが、測量すれば数字に出る。


 「俺はついていく。石工ギルドの中で、この仕事についてくる職人を集める」


 「集まるか」


 「ドンネはまだ動かない。若い連中——ニル、オーカのような型——は動く可能性がある。数字を見せれば」


 (コルダが「動く可能性がある」と言った。三ヶ月前の「俺は認めていない」からここまで来た)


 「頼む」




 夕方、ガルドは測量道具を置いて城壁の周囲を歩いた。


 北側は傾きが最もひどい区間。東側は杭を打ったとき異常が出た区間。南側は比較的安定している。西側は固い地盤に近い。


 歩きながら、頭の中で施工計画が動き始めた。


 どこから壊すか。区間の順番。基礎をどの深さまで下げるか。廃墟の石組みを取り除いた後の地盤改良。その上に積む基礎石の仕様。


 シオが後ろからついてきた。


 「計算してるんですか、歩きながら」


 「そうだ」


 「頭の中で」


 「そうだ」


 「……書いた方が速くないですか」


 「歩いた方が速い。歩かないと地面の感触が来ない」


 シオが「そうですか」と言って手帳を出した。ガルドの歩いた経路を何か書いている。


 (シオが経路を記録している。何のためかは知らないが、シオが記録することは正しいことが多い)


 「一つ聞いていいですか」


 「どうぞ」


 「今日、ドンネさんが反対しましたよね」


 「した」


 「あの反対は——わかる気がします。五十年ある城壁を壊すって、すごく怖いと思う」


 「そうだろう」


 「ガルド様は怖くないんですか」


 ガルドは少し考えた。


 「怖いかどうかよりも、必要かどうかを先に考える。必要だと判断が出れば、後は段取りだ」


 「必要かどうかが先、か」


 「怖さは段取りで小さくできる。必要性は判断の問題だ。順番がある」


 シオが「なるほど」と書いた。少し間があった。


 「ガルド様——今日『今崩れるより意図して建て直す方がいい』と言いましたよね」


 「言った」


 「あれ、響きました。ドンネさんに言ったというより、なんか……城壁に向かって言った感じがして」


 ガルドは何も言わなかった。


 (シオが余計なことを言う。——ただし間違ってはいない)




 夜、計算書を広げた。


 今日の試し掘りで確認できた範囲を整理する。石組みの深さが一尺半。幅は少なくとも三間以上——全周を調べるにはまだ掘り足りない。


 石組みの強度は不明だ。次の調査で確認する必要がある。


 だが、方針は決まった。


 城壁北側から始める。一区間は三十間。解体から基礎やり直しまでを一つの単位として計算する。施工中の防御は、残りの区間で確保する。


 ガルドは計算書に数字を書き込んだ。


 (段取りを組む。道路のときも橋のときも、段取りが先だった。城壁も同じ順番でいい)


 一区間の施工期間——地盤の状態次第だが、仮置きで四十日と計算した。三区間で百二十日。半年もあれば全周を直せる計算だ。


 夏が始まる前に一区間を終わらせれば、次の雨季に入る前に二区間目が終わる。


 (悪くない段取りだ。コルダが石工を集められれば、動ける)


 ペンを置いた。


 明日、コルダに計算書の概要を見せる。石工ギルドへの説明は、コルダが数字を持って行く方が早い。


 (道路のとき、コルダは「数字を持って帰った人は次も数字を持って返す」とシオが言っていた。今回も同じだ。ただし今度は、コルダが持って行く側に立っている)


 ガルドは計算書を折って腰の袋に入れた。


 城壁の工事は始まる。




 翌朝、コルダが来た。


 橋でもなく道路でもなく、城壁の縦穴の前に来た。


 「計算はできたか」


 「概要だけ。一区間三十間・四十日を目安に施工計画を立てている。詳細は石組みの全周調査が終わってから」


 「四十日で一区間か」


 「仮の計算だ。地盤の状態次第で変わる」


 コルダが穴を覗いた。昨日より朝の光が差し込んで、底の石組みがよく見えた。


 「この石は——どう扱う。取り除くのか」


 「全部取り除く。廃墟の石は城壁の基礎として設計されていない。取り除いた後、地盤改良を入れて、新しい基礎石を置く」


 「取り除いた石はどうなる」


 「使えるものは使う。古い石でも硬度が出ていれば再利用できる」


 コルダが「そうか」と言った。


 「石工ギルドでは——夕方に話す機会がある。数字を持っていくか」


 「持っていってほしい。今の城壁があと五年から八年で再傾斜すると計算が出ている。その数字と、一区間の施工概要を持っていけば話になる」


 「ドンネを説得できるかはわからない」


 「全員が動く必要はない。動ける職人から始める」


 コルダが「わかった」と言った。穴の縁から離れた。


 「一つ確認していいか」


 「どうぞ」


 「これは——道路や橋より、大きい仕事か」


 「桁が違う。道路は三区間で延べ百間。橋は補強で七日。城壁は北側だけで百二十間・六ヶ月の計算だ」


 「全周やれば」


 「一年以上かかる」


 コルダが「そうか」と言った。長い間があった。


 「それだけの仕事を——お前は一人でやるつもりか」


 「一人ではできない。コルダ親方の職人が要る。設計と地盤改良は俺の仕事だ。解体と石積みは石工の仕事だ。これも道路と同じ分業になる」


 コルダが腕を組んだ。


 「ニルとオーカは——城壁の仕事で使えるか」


 「使える。二人とも現場で伸びる型だ」


 「そうか」


 (コルダが「ニルとオーカは使えるか」と聞いた。職人としての評価を確認している。城壁工事の体制を頭で組み始めている)


 「話してみる。夕方に」


 「頼む」




 その日の午後、シオが城壁の下に入った縦穴を覗きながら言った。


 「弟子第一号として記録に残りますよね、今日の決断に」


 ガルドが杭を打ちながら「何の話だ」と言った。


 「城壁を壊して作り直すって、ヴァルダ領始まって以来の大工事じゃないですか。その現場にいた最初の弟子として——」


 「弟子は取っていない」


 「でも私、ずっといますよね」


 「……補助だ。測量補助」


 「測量補助第一号として記録に残ります」


 (シオが余計なことを言う。そしてシオが余計なことを言うのはいつも現場の緊張が緩んだときだ。それはシオが正しく場を読んでいるということでもある)


 「記録は好きにしろ。杭を持て」


 「はい」


 シオが杭を持ちながら「楽しみですねえ」と言った。


 「楽しみか」


 「はい、楽しみです。城壁が一回壊れるところ、見てみたいです」


 「壊れる場面より、建つ場面を見た方がいい」


 「両方見ます」


 ガルドは何も言わなかった。


 (シオは両方見る、と言った。そうだろう。両方見ないと、片方の意味がわからない)




 夜、コルダから使いが来た。


 クルトが「石工ギルドから」と言って文を持ってきた。


 ガルドが開いた。コルダの字だ。短い。


 「明日の朝、三人連れて行く。ニル、オーカ、もう一人。詳細は明朝に」


 それだけだった。


 (三人。コルダが三人を連れてくる——ドンネではなく、動ける職人を選んだ。城壁の工事は始まる)


 ガルドは文を折って置いた。


 窓から外を見た。夜の城壁が見える。北側だ。今日の月明かりで壁面の傾きが影になって見える。


 五十年立ってきた壁だ。


 (一度壊す。そして建て直す。壊すのが目的ではない。正しく建て直すための壊し方をする。それが今回の仕事だ)


 ガルドは窓から離れた。


 明日、段取りを始める。



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