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12/13

見ていろ、盗め

 「二区間目の段取りから入る」


 ガルドがそう言った翌朝、コルダが来た。


 今度は昨夜の若い職人二人を連れていた。昨夜と同じ顔だった。道具を持ち、少し緊張していた。ただ昨夜と違うのは、二人が路面を見ないでガルドを見ていたことだ。




 「名前を言え」


 ガルドが若い職人の方を向いた。


 「ニルといいます」


 先に言ったのは背の高い方だ。二十代の前半で、顎が細い。道具袋を両手で持っていた。


 「オーカです」


 もう一人が続いた。こちらは少し丸顔で、肩幅がある。石鑿を腰に差していた。一本だ。ルゴが三本差していたのと比べると、まだ道具が揃っていないか、それとも選り好みをしていないかのどちらかだ。


 (二人とも職人見習いだろう。コルダが直接連れてきた。昨夜「見ていろ、盗め」と言って連れていったのと同じ二人だ)


 「ガルドだ。今日から二区間目の準備に入る」


 「あの——」


 ニルが言いかけた。


 「何だ」


 「昨日の道を、見ていいですか。コルダ親方に言われて来た前に、一区間目の路面を——」


 「昨日見たはずだ」


 「見ました。でも今日また見たいんです」


 ガルドは少し間を置いた。


 (昨日一度見た。今日また見たい。——理由を聞いても仕方がない。見たければ見ればいい)


 「二区間目の現場に移る前に、一区間目の出口を確認する。一緒に来い」




 農地への道の出口——排水溝が既設の側溝に接続している場所だ。


 三十間の路面が南から北に向かって続いている。ガルドはその出口を確認しながら歩いた。昨日来た時と変わらない。水の跡が溝の底に残っている。乾いた跡だ。二日間晴れが続いたから、水は既に流れ終わっている。


 「傾斜を感じるか」


 ガルドがニルに言った。


 「……え」


 「道を歩いている。傾斜があるのはわかるか」


 ニルが路面に目を落とした。足を踏み直した。


 「わかります。少し、端が低いです」


 「それがカマボコだ」


 「カマボコ——」


 「中央を高くして、端に向けて傾斜をつける。傾斜が水を端に流す。端の溝が水を南に出す。この三つが揃って初めて雨で沈まない道になる。ただ石を並べても雨には勝てない」


 「でも、その傾斜はどうやって決めるんですか」


 ガルドは歩きながら答えた。


 「路面の幅と、使う荷車の重量と、路盤の支持力を計算する。数字が出る。その数字が傾斜を決める」


 「計算で——」


 「出る」


 ニルが「なるほど」と言ったが、その声に「理解した」という色はなかった。


 (わからないのは当然だ。「計算で出る」と言っただけで、計算式を見ていない。見ていないものはわからない)




 二区間目の現場は農地への道の一区間目から折れて、主街道との交差点に向かう区間だ。


 長さは三十五間。幅は一区間目と同じ四間半。ただし途中に低い場所がある。雨のたびに水が溜まって、農家が避けて通るほど悪い区間だ。


 ガルドは現場に立った。


 「段取り八分、仕事二分だ」


 言い慣れた言葉だった。シオが横で小さく繰り返した。聞こえていたのかは言わなかった。


 「まず地盤調査から入る。三十五間を五間刻みで杭を打つ。シオ、測量紐を出してくれ」


 「はい」


 シオが測量紐を取り出した。北端に杭を立てた。ニルとオーカが少し後ろで見ていた。


 (二人が立っている位置が面白い。邪魔にならない場所を選んでいる。視野が広い証拠だ——それとも、ただ怖いだけか)




 地盤調査は一区間目と同じ手順だった。


 五間ごとに杭を打つ。打ち込む深さ、抵抗の強さを確認する。シオが深さを測って読み上げ、クルトが記録する。


 三本目の杭を打ったとき、杭がすっと入った。


 「——浅い」


 シオが言った。


 「何分入った」


 「一尺ちょうどです。抵抗がほとんどなかったです」


 「ここが水の溜まる場所だ」


 ガルドが地面に手をついた。土魔法を通す。水分が多い。深さ一尺以下のところで粘土層が詰まっている。水が逃げていない。


 「ニル」


 「はい」


 「ここを踏め」


 ニルが恐る恐る踏み込んだ。足が沈んだ。三分ほど。


 「——沈みます」


 「そうだ。このくらいなら悪い方ではない。水が来るたびに少しずつ悪くなる。放っておけば一区間目と同じになる」


 「地盤改良をするんですか」


 「する。深さ八分まで締め直す必要がある。手を当ててみろ」


 「え」


 「地面に手をついてみろ」


 ニルが手をついた。


 「何か感じるか」


 「……柔らかいです。冷たい。水が近い感じがします」


 ニルがもう一度手のひらを地面に押し当てた。指先で表面をすうっと撫でた。土が細かく崩れた。


 「それだけわかれば十分だ」


 (土魔法がなければ感触しかない。石工はそれで判断してきた。感触を言葉にできるなら、数字に結びつけるのはそう難しくない)


 オーカが隣でじっと地面を見ていた。何か言いたそうだったが、言わなかった。




 「なんで傾斜の角度は七分なんですか」


 杭打ちの合間に、オーカが聞いた。


 ガルドは杭から手を離して振り向いた。


 「一区間目と同じ角度を使う、という意味か」


 「それもあります。でも——なんで七分なのか、最初に決めるとき、どこから出てくるのかが、わからなくて」


 ガルドは少し黙った。


 (いい質問だ。「七分」という数字がどこから来たのかを聞いている)


 「路面の幅が四間半ある。中央から端まで二間二分。その距離で水を確実に端まで流すには最低でも五分の傾斜が要る。しかし路面が石材で固まっているから水の動きは早い。荷車の通行で路面が微妙に動くことも考えると、余裕を持って七分にした」


 「それは——計算で出ますか」


 「数字と、施工の経験が合わさって出る。この世界で実際に道路を作った経験は——俺には前例がなかった。だから最初は計算を優先した。今は施工の結果も手元にある。次の設計では修正できる」


 オーカが「そうか」と言った。


 シオが横でその話を聞いていた。


 (シオも最初に同じことを聞いたはずだ。あのときは一言で片付けた。オーカの方が聞き方が具体的だ)




 「教えてもらえますか」


 ニルが言ったのは昼を過ぎた頃だった。


 杭打ちが半分終わって、水を飲んでいた時間だった。


 「何を」


 「地盤がどうなっているかを、手で触ってわかる方法です。ガルド様は触っただけで中がどうなっているかわかってる——それをどうやって覚えたのかを」


 「施工の中に答えがある」


 ガルドは短く返した。


 「でも——」


 「教えることはできない」


 ニルが少し顔を曇らせた。


 「それは——」


 「手の感覚は教えられない。同じ地盤を百回触って、杭を百回打って、施工した結果を百回確認した後で初めて指先に入ってくる。俺が言葉で説明しても、お前の手には残らない」


 (前世でも同じことを言った。言葉で伝わったためしがなかった。伝わったのはいつも、現場で隣に立っていた時だけだ)


 「じゃあどうすれば——」


 「見ていろ。やってみろ。盗め」


 ニルが黙った。道具袋をわずかに握り直した。視線は路面に落ちていた。


 (コルダが昨夜言った言葉と同じになった。意識したわけではない——が、それしか言いようがない)


 オーカが手帳のようなものを取り出した。ちゃんとした手帳ではなく、ぼろい紙を折って綴じたものだ。そこに何かを書き始めた。


 「何を書いている」


 「今聞いたことを」


 「書いてもわからない」


 「でも書いておくと、後でわかったときに繋がります」


 ガルドは少し黙った。


 (シオと似たことを言う。違う経路でそこに来た)


 「好きにしろ」


 「はい」




 シオがガルドの隣に来た。


 「ガルド様」


 「何だ」


 「ニルさんとオーカさん、最初から聞き方が違いますね」


 「そうか」


 「私が最初の頃は——なんでそうやるんですかって聞いてました。でもニルさんは「どうやって覚えたのか」って聞いた。オーカさんは「なぜその数字なのか」って聞いた。聞き方が最初から違う」


 (それはシオの観察が正しい)


 「気づいたことは記録しておけ」


 「手帳に書きますか」


 「書け」


 シオが手帳を出した。


 「ガルド様も最初から教えませんでしたよね。私にも「見ていろ」って言いましたか?」


 ガルドは少し考えた。


 「言ったかもしれない」


 「そうだと思いました」


 シオが何かを書いた。何を書いたかはガルドには見えなかった。




 午後の後半に、コルダが来た。


 今度は一人だった。道具も持っていなかった。現場に入って、二人の若い職人を確認してから、ガルドのところに来た。


 「二区間目の地盤はどうだ」


 「三十五間中、地盤改良が必要なのは五間ほど。一区間目より軽い。ただし中間に水が溜まる低地がある。そこだけ排水溝の設計を変える必要がある」


 「排水溝の設計を変える——」


 「低地で水の流れが止まらないように、溝の断面を少し大きくする。計算は今夜出す」


 コルダが「そうか」と言って現場を見た。ニルとオーカが杭打ちの補助をしていた。シオの隣で測量紐を持っていた。


 「使えるか、あの二人」


 「まだわからない」


 「正直だな」


 「昨日今日来た人間の腕はまだわからない。動きを見ていれば一週間でわかる」


 コルダが「そうか」と言った。少し間があった。


 「ニルは三年目だ。オーカは二年目。二人とも手は速い」


 「それは現場で確かめる」


 コルダが「当然だ」と言った。




 「コルダ親方」


 オーカがコルダに近づいた。


 「聞いていいですか」


 「何だ」


 「ガルド様に、地盤の感触は教えられないって言われました。施工の中で盗めって」


 「そうだろうな」


 「コルダ親方も、そうやって覚えたんですか」


 コルダが少し考えた。腕を組んだ。


 「俺は石の目を覚えた。石のどこを叩けば割れるか、どこを合わせれば面が出るか——親方の背中を見て覚えた。言葉では教えてもらえなかった」


 「じゃあ——」


 「おんなじだ」


 コルダが短く言った。


 「見ていればわかる。見て手を動かせばもっとわかる。それだけのことだ。言葉で教わった技術は浅い。体で覚えた技術は抜けない」


 オーカが「……はい」と言った。


 ニルは黙って聞いていた。手帳は出していなかった。しかし聞いた顔はしていた。


 (コルダが「おんなじだ」と言った。コルダが自分の修行の話をするのは珍しい。——この二人の前でするとは思わなかった)




 夕方、地盤調査が終わった。


 三十五間、七点の杭打ちが完了した。クルトが数値を読み上げて確認した。


 「南から五間、入り七分。南から十間、入り八分。南から十五間——入り一尺三分。これが最も浅い区間です」


 「一尺三分か。この区間が低地と重なっているか」


 「はい。現地を確認すると、道がわずかに窪んでいます」


 (一尺三分。一区間目の最悪区間と同程度だ。地盤改良は必要だが、それほど深くまで手を入れなくていい。排水の設計を先に決める)


 「この区間の溝の断面を大きくする。幅八分、深さ七分。他の区間は標準の幅八分、深さ五分で行く」


 クルトが記録した。


 「了解です。断面が変わる区間は南から十二間から十八間——六間分と記録してよろしいですか」


 「六間と半分だ。もう少し余裕を見る」


 「承知しました。南から十二間から十九間、七間分で記録します」


 ニルが「なんで溝を大きくするんですか」とガルドに聞いた。


 「水が一箇所に溜まる場所は、溝に一度に多くの水が入る。溝が小さいと溢れる」


 「それは——計算で出ますか」


 「出る。今夜出す」


 ニルが「計算で全部出るんですね」と言った。感想の言い方だった。


 「出す。出した数字を現場が確認する。数字と現場が合えば設計が正しい。合わなければ設計を直す」


 「失敗することもあるんですか」


 「ある」


 ニルが「なるほど」と言った。今度の声は少し違った。「理解した」という色があった。




 ガルドとシオとクルトが今夜の計算の確認をしていた。


 ニルとオーカはまだ現場に残っていた。帰らなかった。


 二人は完成した一区間目の路面を見ていた。日が落ちる前の、斜めの光が石材の面に当たっている時間だった。ニルが路面に手をついた。さっきガルドがやったように、地面に手を当てていた。オーカが端の排水溝に顔を近づけた。溝の底を見ていた。


 「——何をしている」


 ガルドが声をかけた。


 「見てます」


 ニルが答えた。


 「路面の石の目地、一分以内ですか」


 「そうだ」


 「どこを見ればわかりますか」


 「指を差してみろ」


 ニルが目地に指を入れようとした。入らなかった。爪先も入らなかった。


 「……入らない」


 「それがわかれば十分だ」


 ニルが「ありがとうございます」と言った。


 オーカが排水溝から顔を上げた。


 「溝の中が、まだ濡れています」


 「昨夜の雨の跡だ」


 「溝の底の石が——丁寧に並んでいます。ルゴさんの仕事ですか」


 「そうだ」


 「ルゴさん、どのくらいで覚えたんですか。こういう並べ方を」


 「知らん。聞け」


 「ルゴさんに直接聞けばいいですか」


 「それ以外に聞く方法があるか」


 オーカが「……そうですね」と言った。


 (コルダの「見ていろ、盗め」に対して、直接聞きに行こうとした。それはそれで正しい。見るだけでは足りないと判断したのだろう)




 日が落ちる直前、コルダがニルとオーカを連れて帰った。


 帰り際に一度だけガルドを振り向いた。


 「明日も来る」


 「わかりました」


 「二人を見ていてくれ」


 「施工の邪魔にならなければ」


 「邪魔はさせん」


 コルダが言った。若い二人が後に続いた。ニルがもう一度路面を振り返った。オーカは足元を見ながら歩いていた。


 (コルダが「見ていてくれ」と言った。二人の面倒を見ろということではない——施工の中に置いてくれ、ということだ)


 シオが三人の後ろ姿を見ていた。いつの間にか手帳を開いていた。何かを書いていた。


 「ニルさん、また来ますね」


 「そうだな」


 「オーカさんは溝の底を見てました。ルゴさんに聞きに行くって」


 「聞き方が早い」


 「そうですね」


 シオが手帳を閉じた。


 「私も最初、早く聞きすぎてましたか」


 ガルドは少し考えた。


 「遅くはなかった」


 「じゃあ——早くもなかった?」


 「お前は答える前に自分で試していた。それでよかった」


 シオが「……そうですか」と言った。手帳をまた開いて、何かを書いた。




 夜、計算をまとめた。


 二区間目・三十五間の設計数値が出た。


 路面石材の必要個数、八百七十個。排水溝の小口石、六千五百個。ただし低地区間の溝断面が標準より一・四倍になるため、小口石の数量は変わる。計算をやり直した。六千八百個になった。


 石材の発注量はコルダと明日確認する。一区間目の実績が記録にある。コルダは数字を持って来る人間だ。この数字を見せれば話が進む。


 施工の段取りは一区間目と同じ順番だ。地盤改良から入る。ただし今回はニルとオーカが最初から現場にいる。二人をどこに入れるか——路面石材の敷設は、一区間目と同様に職人の仕事だ。トトとルゴが経験した工程をニルとオーカが引き継ぐ。


 (段取りは変わらない。人が変わるだけだ。それでも段取りは変わらない)


 「段取り八分、仕事二分だ」


 誰もいなかった。前世では夜間に設計書を広げた。ここでは紙一枚だ。それで足りている。




 翌朝、ニルが早く来た。


 ガルドが現場に着いた時、農地への道の入口にニルが立っていた。シオより少し遅い時間だったが、早かった。


 「来たのか」


 「来ました」


 「早い」


 「見たいものがあったので」


 「何を」


 「朝の路面です。露が降りた時に、傾斜がわかると思って」


 (朝の石材に露が降りれば、傾斜通りに水滴が端に向かっているはずだ——そこまで考えてきたのか)


 「確認できたか」


 「——見えました。水が端の方に偏っていました。中央の方が少なかった」


 「傾斜が効いている証拠だ」


 「はい」


 ニルが手帳を出した。スケッチが描いてあった。路面の断面図のつもりらしかった。傾斜の角度が正確ではなかったが、形はわかった。


 「——描いたのか」


 「昨夜」


 「数字を入れろ。形だけでは設計にならない」


 「数字は——どう入れるんですか」


 「傾斜は一間に七分上がる。断面の幅は四間半。数字を書き込め」


 ニルが書き込んだ。字が小さかった。


 「合っているか」


 ガルドがスケッチを見た。数字の位置が一箇所ずれていたが、内容は正しかった。


 「悪くない」


 朝の光が石材の表面を斜めに照らしていた。路面の端の方が少し暗かった。水が偏っている方向と同じだ。


 (今日初めて断面図を描いた人間の図としては、悪くない。明日はもう少し良くなるだろう)




 オーカはルゴのところに行ったらしかった。


 昼にクルトが報告してきた。


 「今朝、オーカさんがコルダ親方の工房を訪ねて、ルゴさんに小口石の並べ方を聞きに行ったそうです。ルゴさんが「聞かれたので見せた」と」


 「そうか」


 「ルゴさんが「変わった若いのがいる」と言っていたとのことです」


 (ルゴが「変わった」と言うのは悪い意味ではない。ルゴは理由を聞けば教える職人だ)


 「オーカは今日午後から来る予定だ」


 「はい。コルダ親方から連絡がありました。午後の刻に現場に来させると」


 「わかった」


 シオが「行動が早いですね」と言った。


 「見るだけでは足りないと判断したのだろう」


 「聞きに行くのは正しいですか」


 「正しい。見て、聞いて、やってみる。その順番でいい」


 シオが「なるほど」と言った。次の瞬間に「——あ、自分もそれをやっていたのかもしれない」と言った。


 ガルドは答えなかった。


 (シオはとっくに気づいている。ただ言葉にするのが遅い)




 午後にオーカが来た。


 石鑿が四本になっていた。一本だけ少し色が違った。オーカがそれを腰から抜いて、刃先を確かめた。重さを測るように持ち替えた。満足した顔でもなく、不満の顔でもなかった。


 「——増えたのか」


 「ルゴさんに一本もらいました。溝の内壁作業に向いているやつだって」


 (ルゴが道具を渡した。教えた上で道具まで。——ルゴは気に入ったのだろう)


 「使えるか」


 「まだ慣れてないですが——やってみます」


 「二区間目の排水溝の内壁は、お前に入ってもらう。実際にやってみてから慣れろ」


 オーカが「わかりました」と言った。緊張した顔だったが、嫌な顔ではなかった。


 ニルが横で「オーカが内壁か」と言った。少し羨ましそうだった。


 「ニルは路面の敷設だ。オーカと分けて入ってもらう」


 「はい」


 「二人とも、手順は見てから入る。最初の一間は確認してから進め。速さより精度を優先する」


 「わかりました」


 「段取り八分、仕事二分——手を動かす前に、何をやるか全部頭に入れてから始めろ」


 二人が「はい」と言った。声が揃った。




 夕方、シオが「次はいつから始まりますか」と聞いた。


 二区間目の施工のことだ。


 「石材の発注を明日コルダと確認する。搬入に十日前後かかる。その前に地盤改良だけ先に入れる」


 「一区間目と同じ流れですか」


 「基本は同じだ。ただし今回はニルとオーカが最初からいる。二人がどう動くかによって段取りを微調整する」


 「微調整——」


 「経験の少ない職人が入る時は、一間ごとに確認しながら進む。ペースが読めない分、余裕を持たせる」


 「じゃあ施工は一区間目より少し長くかかりますか」


 「なるか、ならないかは——」


 ガルドは少し考えた。


 「ニルとオーカ次第だ」


 シオが「そうですか」と言った。手帳に書いた。


 「ガルド様」


 「何だ」


 「橋の話は——まだですか」


 ガルドが振り返った。


 「橋?」


 「主街道の橋です。クルトさんが、雨季に一度ひびが入ったって記録を見せてくれました。そろそろ気になります」


 (シオが橋を気にし始めた。クルトの記録を読んでいた。——クルトが記録から橋の問題を引っ張り出した。それをシオに見せた。クルトはそういう役割になった)


 「二区間目が終わったら、橋の調査に入る」


 「計算で橋も設計できますか」


 「できる」


 シオが「……また計算か」と言った。呆れたのではなく、楽しみにしている声だった。




 帰り際、クルトが手帳を閉じながら言った。


 「本日の記録をまとめました。二区間目の地盤調査結果七点、設計数値の仮計算、ニル・オーカの初日記録——コルダ親方への報告にも使えます」


 「ありがとう」


 「ニルさんが断面図を描いていましたね。スケッチを手帳に貼らせてもらえますか。記録として残したい」


 「本人に聞け」


 「はい」


 クルトが少し間を置いた。


 「ガルド様、一つ確認していいですか」


 「どうぞ」


 「コルダ親方が「二人を見ていてくれ」と言っていましたが——ガルド様はどう見ていますか。ニルとオーカ、二区間目の施工に向いていますか」


 ガルドは少し考えた。


 「一日では判断できない。だが悪くはない」


 「悪くない、ですか」


 「ニルは見た後に手を動かす。オーカは聞きに行く。どちらも、施工の中で伸びる型だ」


 クルトが「なるほど」と言って書いた。


 「記録しておきます。二人の第一印象——施工の中で伸びる型、と」


 (クルトは全部書く。全部書いてくれている。だからこちらは施工に集中できる)


 「頼む」


 クルトが「はい」と言って手帳を閉じた。




 現場に一人残った。


 三十五間の道になる予定の、まだ何もない地面だ。


 南の端に立って、北を見た。遠くに一区間目の路面が見えた。石が夕日を受けて、灰色から橙色に変わっていた。


 (一区間目が終わった。二区間目が始まる)


 この道が終われば橋がある。橋が終われば城壁の基礎がある。城壁の基礎は——前世で言えばそれだけで半年かかる工事だ。


 急がなくていい。ただし手は抜かない。


 (段取りが全部だ。手を動かす前に、全部考えてから始める)


 地面を一度踏んだ。ぬかるんでいた。まだ何も始まっていない地面の感触だった。


 (次の話だ)



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