⑧ミッションの裏では
ロマンスっぽくなってきたふたり──
「あっ切れたわ! 故障ですか?」
その動向は、映像通信機で別邸で待機するエディトとユリウスに筒抜けだったりする。
完全な出歯亀のようだが、それは一応違う。マジョレーヌの気持ちを無視し、カールハインツが暴走しないとは限らなかったので、あくまでもこれは配慮である。(言い訳がましい)
「いや、終了みたいだね」
「マジョレーヌはさして話してませんよ?」
「受け入れた頷きが『本音』と見なされたんだろう」
ただ監視も『第二ミッションクリア』まで。
流石にそこまで野暮じゃないのだ。
「ふふ、カールハインツ殿下が自覚を持ったようなのは意外でした。 ユリウス様はどんな魔法をお使いに?」
「大したことはしていないよ。 殿下も別に愚鈍じゃない、真面目すぎて視野が狭かっただけさ」
実際、ユリウスが彼に決断を迫ったことは『呪いを含めたマジョレーヌとの今後の関係性』でしかなかった。
とはいえ、カールハインツが思いのほか色々なことに気付き、悩んでくれているなら話は早い。
──まだまだ認識は甘いにせよ。
「さて……これからどうするかだな」
そう、カールハインツの認識はまだ甘い。
今後ふたりが共に生きる選択をした場合、少なくとも裏で手を回すぐらいのことはしておかないと、王宮へは戻せない。
カールハインツから痣がなくなった以上、マジョレーヌの身が危険だ。
マルケル伯爵家は宮廷での立場は強くないものの歴史があり、王都の社交界では目立ちはしないがその評判は貴族平民、共にいい。
王都よりも、伯爵領から近い北の辺境ブラシェールの方がその評判を耳にする。
清貧を掲げているものの、人材を大切にし出すところに金は惜しまない。領内には派手な物こそないが、広くインフラ整備が整い、領騎士団はしっかりと統制が取れており、領民の識字率も高い。
王子妃の生家として不足はないが、手駒として使いづらい家である。
マジョレーヌ一行に監視はついていなかった。王太子とて、わざわざ伯爵家を敵に回してまでマジョレーヌを排除しようとは、おそらく思っていないのだろう。
ただ、呪いを受けているのが彼女だけで、浄化されずに戻ってきたとなると話は別だ。
王太子にしてみれば、最早マジョレーヌは聖女のいる辺境と繋がりを持たず、有用な弟を拘束するだけの邪魔者でしかない。
離宮の神殿とはいえ、王宮内。ましてや呪いのせいにできる分、排除される可能性は高い。
「想いが通じ合ったことで、君を頼ればいいんだが」
マジョレーヌが浄化を望めばそれで済む。
この先違う苦労は多いだろうし、完全に安全とも言えないが、元々ふたりが望んでいた理想のかたちではある。
「……頼らないでしょうね。 先の様子からだと、絶対」
何度も言うが、マジョレーヌは決して察しが悪いわけではない。しかし王宮向きではないのだ。
彼女は自身のことだけに、カールハインツよりも危険を理解している。素直に気持ちを告げられなかった理由のひとつには、当然そこへの葛藤もあった筈だ。
しかしカールハインツの告白は、彼女に覚悟を決めさせた。
『もうこうなると、まず間違いなく、マジョレーヌは殿下の為に黙って王宮に戻るだろう』──そうエディトは語る。
それにはユリウスも同意だ。
「あれでは無理もない。 戦場で受けた傷を評価されたようなモノで、それ自体が誉のようになっているのだから」
云わばあの痣は、『愛』と『献身』の証明である。
間違いではないが、それが全てではない。
それでもマジョレーヌは、カールハインツの告白によりそれを事実とすることを選んだ。
だからあれ以上なにも言う気はなく、それが本心だからこその『第二ミッションクリア』なのだろう。
カールハインツもそんなことを望んでいるわけではないのだが、圧倒的に言葉が足らなかった上、誤解を招く表現をしてしまった。
だがあの場で彼が理路整然と説明できたとしたら、マジョレーヌの心は動かなかったのでは……とユリウスは思う。
本気であるかどうかを示すのに、必ずしも冷静さが説得力や真実味を増すとは限らない。
逆もまた然りだが、今までカッコつけていたカールハインツだけに、感情的に訴えるのはこの場合正解だったと言える。
また彼がもっと先を読めたとしたら、結局無力さに打ちひしがれ、きっとなにも言えてはいない。
だから、一先ずふたりはこれでいい。
それだけに、唆した大人として。
頑張って大人になろうとしている子供達を守ってあげねばならない。
少なくとも、彼等が成長するまでは。
「俺達には会えなかったことにし、伯爵家を経由し、ウチの両親に王宮へふたりを送り届けて貰おう。 第三王子殿下の婚姻祝いと共に謁見を──っていう流れで、辺境伯家がマルケル嬢の為に動けば手は出しづらくなる」
「まあ……おふたりに?」
「その方が圧が強いし、呪いの浄化ができていないのも自然だ」
王太子へのざまぁは、望み通りの展開を与えない程度のプチざまぁだが、別にいいだろう。
それに、なにより。
まだエディトを連れて王宮に行くのには抵抗がある。
(いずれ夫婦で顔見せもしなきゃならないが……その前に『エディトは辺境伯家でがっちり囲っている』とわからせておくにも、あの人達を行かせた方がいい)
「ふふ……それを考えたら渡りに船だったな……まさに情けは人の為ならず……」
「? ユリウス様?」
「ん? なんでもないよ」
ふたりを無事保護しただけに、イニシアチブはこちら。しかもあの両親──
ユリウスは、ここぞとばかりに今回の件につけ込む気でいた。
綺麗なばかりが大人ではないのである。
「しかし、遅いですね……?」
「ん? あ、ああ……」
ユリウス達と入れ替わりに父は、ゲルトルートのところに追いやった母の元へと向かった。
ようやく別邸でエディトとふたりきりになったユリウスは、妻を膝に乗せ餌付けしたりとイチャイチャに忙しく、あの後はすっかり時間の経過もふたりのことも忘れていたのだが。
気が付けば、第二ミッションクリアから、結構な時間が経っていた。




