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寒がり聖女と巻き込まれ系辺境伯の婚姻~溺愛の方は努力するんで、ざまぁフラグは回収しなくてもいいですか?~  作者: 砂臥 環
第六章:聖女嫁と王家の呪い

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⑥子供の成長と大人の責任

※ちょっと長めです。

 

「で、殿下……?!」

「マジョレーヌ……!」


 人工ダンジョン内で引き合わされたふたり。

 しかし、カールハインツの顔を見た途端に、マジョレーヌはフードを深く被りながら走り出した。


「待ってくれ!」


 奉仕活動に精を出していただけでなく、貧乏令嬢であり実家の庭が畑と化しているマジョレーヌは、令嬢らしからぬ健脚の持ち主である。しかも今日はパンプスではなく、柔らかな革が踝を覆うかかとの低いショートブーツ。

 男女差があるとはいえ、真面目さ故に脆弱な肉体であるお坊っちゃま(カールハインツ)には追いつけない、なかなかの速さ。

 だが、道は一本道である。

 行き止まりには三つの扉。


「──あっ?」

「マ、マジョレーヌ!?」


 中央を開けた途端に発光した扉は、奥へとマジョレーヌを吸い込み、無情にもパタンと閉まった。


 まさかの時間差──だが案ずる勿れ。

 勿論想定の範囲内であり、魔道具の術式は変更済だ。今回はその後の警備もバッチリなので、不審者や魔獣や動物も入っていないとしっかり確認している。

 当然ながら、そんなことカールハインツには一切教えてないけれど。


「……クソッ!」


 なのでカールハインツは焦りに焦り、渾身の力で駆けた。切れた息で悪態を吐きながら、ようやく扉を開ける。


「こ……ここは……?」

「うわぁっ?!」

「きゃあ! 殿下?!」


 ふたりが飛ばされたのはかつて貴族牢だった場所。部屋は綺麗に清掃し整えられ、お茶と軽食も用意してある。話し合わせるにはもってこいである。


「ここは……? あっマジョレーヌ!」

「くっ!」


 カールハインツが戸惑っている隙に、逃げようとしたマジョレーヌだが。


「あっ……開かないわ!?」


 当然扉は開かず。

 代わりにアナウンスが響く。


『定員に達した為、魔術が発動しました。 協力し、一定の条件をクリアするまで出られません』


「ええぇぇぇぇ!?」

「…………なんだコレ」


『ミッションを開始しますか?』


 まずは腹を割って話し合わせることが重要なので、今回は段階を上げていくミッション方式としたらしい。勿論今回もキスをすれば出られるけれど、それは最後である。

 話し合いが決裂(ミッションが失敗)した場合も考え、時間制限付き。だが、拘束時間は24時間と充分に設けられている。


「うう……お姉様ったら……」


 嵌められたと気付くも、時既に遅し。


「マジョレーヌ、なんかよくわからないが……その、会いたかった」

「そんな場合じゃないでしょう……」


(っていうか、私は会いたくなかったわ! こんな顔、見せたくないのに……!)


『ミッションを開始しますか?』


「くっ……わかったわよ!」


 催促するようなアナウンスに切れ気味にそう言いながらも、マジョレーヌは両手でフードを引き極力顔を隠そうとする。

 しかし告げられたミッションは、そんな彼女の心情を慮ってはくれなかった。


『それではミッションを開始します。 第一ミッション:ソファに座り、互いの顔を見て話す』


「「!」」





 ──その頃、外では。


「騎士様方、差し入れです~」


 心配し、外の警備を買って出たマジョレーヌの騎士ふたりとカールハインツの側近護衛ギディオンに、辺境伯邸のメイド達から差し入れが届けられていた。


「あっこれはどうも……!」

「わ~い! ありがとうございますっ」


 組み立てられたテーブルに、次々と菓子や軽食が並んでいく。

 席を用意されたが動く気配のないギディオンに、アードルフが声を掛けた。


「ギディオン様も食べましょう」

「いや……私は」

「あまり気を張ってても仕方ありませんよ、私達にはもう何もできないんですから」


 真っ先に焼き菓子に手を出したハルトムートはそう言って笑い、調子よく「手伝いますよ~」と言いながらメイドの方へ行く。


「……上手くいきますかねぇ」


 気の利いたことも思いつかず、会話のきっかけ程度にそう口にしたアードルフに、意外にもギディオンは「それは大丈夫でしょう」とアッサリ返した。


「おや」

「ふ……実のところ、心配は然程していないのですよ。 ただ自分が情けなくて」


 ギディオンは茶を一口飲むと、昨日のユリウスとカールハインツの話を語り始めた。





 カールハインツが『自分の望み』という、他人に委ねられない正解に辿り着くまで、かなりの時間を要した。


「夫人は……浄化をする気がないのか……?」


(仕方のない坊ちゃんだな)


 助け舟を与えるつもりはなかったが、どうやら質問の本質が理解できていない。ユリウスは仕方なく、少しだけヒントを与えてやることにした。


「マルケル嬢、本人が望まぬ限りは。 そして、彼女は別にエディトに会いに来たわけではありません」

「!」


 それだけ言って、ユリウスは席を立つ。


 これで答えが出ないなら、それはそれでいい。王宮まで丁重に送り届け、王家に恩を売っておく。

 その後の第三王子などどうでもいい。精々王宮で、王太子()の都合のいい娘とでも婚姻させられてしまえばいいのだ。


「待ってくれ! マジョレーヌに会わせて欲しい!」

「彼女は会いたくないでしょうね」

「わ、わかっている……! それでも……いや……」


 ダメだな、とユリウスが思ったその時。

 立ち上がったカールハインツは、ユリウスの方ではなくクローゼットに向かいそこから上着を取り出した。


「殿下?」

「大変世話になった。 悪いがこの礼は後日必ず」

「殿下、別邸に行くおつもりで?」

「ああ。 頼ってばかりで情けないところを見せた」


(駄目だ、全くわかってない)


「……お座りになってください」

「大丈夫だ、もうこれ以上迷惑は──」

「頭を冷やせ、と言っているんです」

「!」

「殿下、今の貴方がなにをしようと迷惑以外の何物でもない!」

「閣下──」


 今まで黙って壁際に控えていたギディオンだったが、ユリウスのあまりの言い様につい口を挟んだ。しかし、


「ギディオン殿、貴方も悪い! 何故諌めないか!」

「「!」」

「質問の意も捉えられない、事象の裏も読めない、周りの迷惑も考えられない王子を作ったのは周囲の大人の責任だろう!」


 返ってきたのは容赦ない言葉だった。


「ギ、ギディオンは子爵家出身で歳もまだ」

「そんなのは関係ない。 彼の立場なら自分では無理だと感じれば、上に報告することで間接的に諌めることも可能だった筈だ」


 庇う言葉を発するカールハインツに向けてではなく、ユリウスはギディオンに返しながら彼に近付く。


「ギディオン殿、貴方の主は誰か(・・・・・・・)

「──!」


(疑われている? そんな、そんなつもりでは……)


 ただ側近らしい教育というのを然程施されていないだけの、子爵家出身の騎士ギディオンだが。ユリウスの発する言葉の圧とそれまでの話から、唐突に理解した。

 自分が何故、第三王子の側近護衛としての役目を授けられたのかまで。


「私の主は、第三王子カールハインツ殿下ただひとり!」


 ユリウスを睨みつけるようにハッキリとそう言うと、ギディオンはカールハインツの元へ跪く。


「殿下……閣下の仰る通りです。 私が未熟なあまり……これまでの不明、お詫び申し上げます」

「ギディオン……わ、私は……」


 間接的に割と酷いこと(※でも事実)を言われただけに、もうカールハインツの自尊心はボロボロだった。

 上背はそれなりにあるが、ただでさえ華奢で中性的なカールハインツが情けない顔をすると、年齢よりかなり幼く見える。

 ユリウスは溜息を吐いた。


(『庇護欲を唆る』って、ヒロイン風美少女だけの特権じゃないんだなぁ……)


 今も、なんか虐めたみたいで嫌だ。

 本人の言う通りギディオンに裏がないにせよ、甘やかしちゃった気持ちもわからないでもない。言わないけど。


(……やれやれ)


 もう考えるどころじゃなさそうなカールハインツ。結局ユリウスも甘いので、『足掻いてるうちはいいか』と更にヒントを与えてやることにした。


「……殿下、エディトの力を使いマルケル嬢の痣を消して、王宮に戻る……それは貴方の自己満足ではないですか?」

「卿……」

「いや、自己満足であれわかっているならまだいい。 貴方のは『それが彼女の幸せだ』という決め付けの、押し付けがましい卑怯な大義名分がある。 なにかをするなら根本を覆してはいけない」


 ただし、言葉は厳しい。

 極め付けに「今の貴方はただの我儘なクソガキです」と言い残し、ユリウスは部屋を辞した。





「殿下はそれで、答えに行き着いたと。 まあそうでなければここにいないでしょうが」

「……そこからがまた長かったですけどね」


 考えては行き詰まり、時に癇癪を起こしたカールハインツ。

 マジョレーヌに会いに行く為、脱走を企てようとしたりもしたが、それは反省したギディオンが力づくで止めた。『どうせ捕まる』『きちんと考えて自分なりの答えを見付けないと、その場で王都に戻されるのがオチ』──というもっともな説得付きで。


「殿下はご自身の弱さをなかなか認められなかったのでしょう。 結局半日かかりましたが、今までを思うと答えを受け入れる(・・・・・)にはあまりに短い時間です。 ……本当に自分が情けない」

「そう、責めることはありませんよ。 立場や環境が人を作るというなら、我々も同じです」


 アードルフは「実際、王族になど、そう簡単に意見できませんしね」と苦々しく言って、主家の令嬢の名によく似た名前の焼き菓子に手を伸ばすと、それを三口程で食べた。


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〇〇しないと出られない部屋……!!!
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