⑤少年少女の若さ故の過ちと、すれ違い恋愛模様(※裏じゃない方)
(……ま、いっか)
ユリウスは突如表れしざまぁフラグの回収については、一旦思考を放棄した。
エンタメ的には最早必須となりつつあるざまぁだが、それだって前の不条理ありき。
王宮向きではないふたりがいいように使われたにしても、双方の意思も少なからず働いている上、今とりあえずどちらも保護している。積極的にざまぁをする理由は、辺境伯家にはないのだ。今のところは。
『まいっか』が増えつつあるユリウスは、エディトの食事の方を気にして謝罪する。
「ごめん、食事中にご飯が不味くなるような話をして」
「ふふ。 いつでもここのご飯は美味しいですから……それよりユリウス様はなにをお困りでらっしゃるの? 王太子殿下のお話になる前から、神妙なお顔でしたが」
「ああ……うん。 正直こういう話は苦手でね、どうしたもんかな、と」
実は王太子のことを抜かして考えても、ユリウスには割と手に余っていた。
妹のゲルトルートとかなら『尊い!』『切ないすれ違いカップル、推せる~!』などと喚き散らし、嬉々として介入しまくる案件。
しかし、ユリウスはどちらかというと『他人の恋愛に介入すると馬に蹴られる』と考えるタイプの人間である。
実際他人という圧が加わることで、コトが上手く行くか……というと、時と相手と場合によるだろう。
橋渡しすること自体は簡単だし、浄化に関してもエディトが力を貸すならそれは心配していない。
「──ただ、そうしてしまっていいのかは甚だ疑問というか。下手に介入したらまた拗れるだけでは、と思うんだよなぁ……」
「ふふ、うふふふふっ」
「ん?」
ユリウスの話に、エディトはコロコロと笑う。
(ユリウス様ったら……)
妹分や呪いが関わっているだけにこんな言い方は酷いと思うが、ユリウスの立場から見たら『他人の恋愛ごと』でしかないのだ。
ふたりは保護しているし、自分もいる。なのにそこまで親身になってやる必要など、本来全くない。それこそゲルトルートのような、恋愛話大好き人間ならともかく。
また聖女の夫として『力を使うな』とユリウスが言うのは、あくまでもエディトを慮ってのことで、報告と相談はしてくれと求められたが使用は任意。
ここぞとばかりに政治的な駆け引きに使う気など、全く見られない。
「エディト?」
「私、ユリウス様の妻で良かったなって」
「そ、そう……? そう言って貰えると、俺も嬉しい」
そこは『俺も君を妻にできて良かった』とか『愛しているよ』とか返すべきところだが、照れてしまってそう返せないあたり。
気持ちの上ではそう思っているけれど、それを言葉にするハードルは、なんでかまだ割り箸ではなかったりする。
「仰る通りですね。 それにふたりには少しおしおきが必要です」
「えっ」
「提案があるのですが──」
それは、ふたりきりで腹を割って話して貰うことのみを考えたら実に効率的な案で。
しかも周囲に迷惑を掛けたふたりへ、ちょっぴりざまぁ的な部分もある画期的なモノ。
「それは面白い」
「では私は別邸に戻り、マジョレーヌに指示を」
「わかった、殿下の方は俺が」
そして翌日──
「で、殿下……?!」
「マジョレーヌ……!」
ふたりは引き合わされた。
あの、人工ダンジョンの中で。
尚、マジョレーヌの痣はそのままだし、彼女にはカールハインツがいることを話してはいない。
マジョレーヌにはエディトにより話の聞き取りと、呪いの状態管理が行われた後、叱責と共に『皆に迷惑を掛けた罰』として薬草を採取しに行かせた。
そしてカールハインツには……
「──殿下。 実のところ、マルケル嬢は家人らと共に既に別邸で保護しています」
「ええ?! で、では辺境はこれまでのことを……」
「いえ、知りません。 たまたま旅先で妻が『似ている人を見掛けた』と言い、心配したものですから。 まだエディトとも引き合せる前で、私が事情を尋ねていたところでした」
「そ、そうか……彼女は無事で?」
「ええ。 痣の醸すものから呪いとすぐわかりましたが、それ以外の呪いの影響や旅の疲れからの体調不良といったことも特に見られません。 家人ふたりの他、知り合いの薬師女性が同行しておりました」
全身を強ばらせて尋ねた後で、力が抜けたように表情を緩め「そうか」と誰に言うでもなく呟く。 大いに安堵した様子を見せるカールハインツを真っ直ぐ見据え、ユリウスは再び口を開いた。
ここからが本題なのだ。
「今もまだ、エディトの力は必要ですか?」
「え……」
「殿下は『エディトに力を借りたい』と」
「あ……ああ。 あっ夫人にはこれまでの謝罪をきちんとする! 虫のいい話と思われるかもしれないが、どうか力を貸しては貰えないだろうか。 私の私財で賄えるならいくらでも──」
焦り、必死さを滲ませてカールハインツは言うが、ユリウスはそれに「いいえ、そういうことではありません」とピシャリと返す。
「そもそもエディトは怒ってなどおりませんし」
「では……卿が」
「確かに妻が力を不用意に使うのには承服致しかねますが、違います」
「……? ……どういう、意味だろうか」
最早王子たる威厳など微塵も感じさせない、迷子になった子供のような表情で、カールハインツは縋るように答えを求める。
しかし、答えなど出してやる気はない。
「殿下。 私の質問をもう一度よく思い出し、お考え下さい」
「──」
ふたりのことを考えたら、ユリウスがまずすべきことは、こう問うことのみ。
『今もまだ、エディトの力は必要ですか?』




