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寒がり聖女と巻き込まれ系辺境伯の婚姻~溺愛の方は努力するんで、ざまぁフラグは回収しなくてもいいですか?~  作者: 砂臥 環
第六章:聖女嫁と王家の呪い

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③飛び交うブーメラン

 

「うぅん……──はっ?! ユリウス様……?」


 ようやく目を覚ましたエディトだったが、隣にユリウスはいない。


(『ここにいてくれる』って言ったのに……やはり私がお気に……)


 ──召さなかったのか、と思いきや。

 目に入った時計の針を見てあらビックリ。


「……ああっ?! もうこんな時間?!」


 もう時間は昼過ぎ。

『そりゃおらんわ!』という脳内ツッコミと共に、エディトは慌てふためきながらベッドから起きようとしたが。


「ッいっ……!? 痛ぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 身体中がミシミシいう。

 全身……特に脚の付け根から下が、これまで味わったことのないレベルの筋肉痛になっている。


「くっ……ぎゃん!」


 それでもなんとか起きようとしたエディトは、短い雄叫びと共に無様にベッドから転げ落ちた。


 よく転げる嫁の人である。

 全て転げる理由が違うあたり。


 侍女長に助けられた後、とりあえず滅茶苦茶腹が減っていたエディトがベッドで軽食を食べていると、神妙な面持ちでユリウスがやってきた。


「ユリウス様、お話はどうなりました?」


(うっ……可愛い……!)


 神妙な表情をしていたが、閨事の最中『名前を呼んで欲しい』と言ったユリウスの睦言を守り、急に名前を呼ぶようになった妻に思わずヤニ下がる。

 今更だが、新婚夫婦なので仕方ない。


 そして今なら、膝に乗せて物を食わせる男の気持ちも理解できる。

 あれはとにかくイチャイチャしたいのと、美味しそうに飯を食う表情が可愛いからだ。


(その魅力の前には、イケメンのハードルなど割り箸程度の存在……ッ!)


「ユリウス様?」

「いやっその、ゲフンゲフン……起きて大丈夫かい?」

「ええ。 すみません、話し合いに参加できなくて」

「いやその……昨夜は無理をさせてしまったから……つい夢中で……すまない」


 頬を赤らめ、なんかゴニョゴニョ言いながら謝罪するユリウスに、エディトは安堵した。


(あら、大丈夫だったみたい! 良かったわ~)


 コホン、とわざとらしい咳払いをひとつ。

 ユリウスは最早割り箸となったハードルの先にある欲望を抑えつつ、軽食を摂取するエディトの傍の、ベッド端に腰を掛けた。





 王命から入り、ようやく上手く行きだしたユリウスとエディトだが──

 相思相愛な筈のカールハインツとマジョレーヌの関係は、エディトがいなくなってから難しいことになっていた。


「マジョレーヌとは三年、かたちばかりの婚姻をするつもりでいた」

「三年……『白い結婚での離縁』をするおつもりで?」

「……卿は察しがいい」


『三年で、かたちばかり』と言えば『白い結婚』である。前世のテンプレWeb小説的に。


「何故そんなことを……」

「夫人との婚約破棄に協力させてしまったからな」


 受け皿にも婚姻は許されている。むしろ相手が聖女の場合、推奨されていると言っていい。

 しかし還俗しない、或いはする期間までの間に、身体を重ねても子を成すことは許されない(・・・・・)


 これは教義上の問題ではなく、王家の決まりだそう。過去になにかあったのかもしれないがその記録はなく、ただそう決まっているのだと言う。


「だから『婚約者を選ぶ権利があった』というようなことを言ったが、元より私はひとりで生きると決めていた。 両親と同じ(・・・・・)ような気持ちから……ましてや私には第三王子としての矜恃があるが、彼女にはない。 他の者も同じだ」


 受け皿の妻となる者は子を成せず、表舞台からも姿を消すことになる。カールハインツは自分の責務と慰めの為に、そんなことを他者に強いるのは嫌だった。


 カールハインツは確かにマジョレーヌに恋をした。

 だが元々誰とも結婚などするつもりはない彼にしてみれば、俗世の想い出としてマジョレーヌと健全なお付き合いをしていたに過ぎない。

 勿論、彼女には別れの際にいい縁談を用意するつもりだったそう。エディトが代わらせた王子妃教育も、高位貴族家に紹介するにあたって都合が良いと思っていたようだ。


 しかし婚約破棄に協力させた為、マジョレーヌは婚約者となってしまった。

 美談を装い『偽りだった』とするには、エディトとユリウスがまだ上手くいく確証のないこの時点では難しかった。

 マジョレーヌとの婚約を、彼女に瑕疵が付かないようになくすのも。


「……少し考えればわかることだったが、あの茶番劇に高揚していたのかもしれない。 いや、都合のいい展開に酔っていたのだろうな……自分の愚かさを恥じても、後の祭りだった」


 だから、せめて(・・・)

 結婚することで困窮している伯爵家に充分な支援をし、マジョレーヌの次のいい縁(・・・・・)の為に円満に離縁をしよう──そうカールハインツは決意した。

 マジョレーヌの気持ちを無視して。


(ブーメラン過ぎる……)


 カールハインツは『美しくまだ若いマジョレーヌが神殿に封じられるのは、あまりに不憫だ』と思ったのだ。

 それでは思い遣りから責務を奪われ、矜恃を砕かれたカールハインツ自身と同じなのに。


「彼女には『白い結婚』だと?」

「勿論告げた……その時の私は、それが最善だと思っていたんだ」


 若さ故の身勝手さと潔癖さ。そして王族故の傲慢さからの、先走った行為。


 しかしそこには、愛も情もある。

 ──マジョレーヌの方も、また。



 ユリウスは自身が聞いたことや、父ルートヴィヒを介して聞いたマジョレーヌの話を思い出し、なんとも言えない気持ちになった。


 マジョレーヌは、ユリウスにこう話していた。


『暗に『略奪女』と言われるのはいいのです、事情がなんであれ事実ですし。 ただ……『顔と身体で篭絡した』と言われるのには、少し思うところはありました』


 白い結婚を提案された彼女は、どんな気持ちでこう述べていたのだろうか。


(全く、居た堪れないな……だが)


『ですが結局この顔ですもの、さぞかしご令嬢達にはいい気味でしょう』


 この時の、自嘲だけではない妙にサッパリした表情の意味は、今ならわかる気がする。


 きっと──

 相手に願っていたことは、ふたりとも同じなのだ。



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― 新着の感想 ―
ままならないですね( ˘ω˘ )
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