②第三王子カールハインツの矜恃
「幸いなことに魔力も多く産まれた、第三王子の私は、この役目を誇っていた」
だからこそ、と彼は言う。
今まで『受け皿』となり、この呪いを終わらせるべく日々離宮で祈り励んでいたカールハインツは、14の歳に引き合わされたエディトの力を目の当たりにして驚愕したと言う。
「……両親が良かれと思ってしたことなのはわかる。 だが、私の矜恃は砕けた」
呪いを引き受け、浄化するところまでが受け皿であるカールハインツの役目。
だが国王夫妻はおそらく当代一である聖女の強い力を知り、息子の為に早期の浄化を願ったのだろう。
若くして離宮に籠り、祈るだけで人生を終えることになるのは可哀想──ましてやそれが、美貌と高い魔力量を備えた可愛い息子なのだから、将来を憂うのは当然といえばそう。
他人のユリウスだって『気の毒だな』と思ってしまったくらいなのだから。
しかしそれは、まだ少年であった彼の自尊心や誇りを著しく傷付けた。今までの日々の努力や覚悟を考えれば、それもわからないことではない。
カールハインツがエディトを嫌っていたのはそんな己の立ち位置への反発と、生来の豊富な魔力量とそれを研鑽してきた日々すら敵わない、圧倒的な彼女の力への嫉妬から。
ついでにエディトの常に飄々とした態度や、王子妃教育だけでなく一部の奉仕活動などに対し著しく不真面目であることも、それを増幅させた模様。
「そもそもの話、夫人との話が出る前まで、私は自身の魔力量から婚姻相手を選んでいいことになっていた。 勿論、ある程度力のある聖女という枠の中ではあるが」
「!」
(だからマルケル嬢は目溢しされていたのか……!)
エディトとカールハインツ、双方の意に沿わない婚約だったにしても、あまりにも神殿と王家から叱責がないのでは、と些か疑問ではあった。
容易に婚約の破棄と変更が許されたのも。
「……元々エディトと殿下の婚約は、対外的なモノに過ぎなかったのですか?」
「いや、近いが違う。 王家は夫人と私との婚姻を望んでいた。 呪いのことは別としても、彼女の力を考えれば当然だろう」
最初からそうだったのなら、自分も夫人を粗雑になど扱わなかった……と彼は言う。
「言い訳のように聞こえるかもしれないが、本心だ。 私は『第三王子』として真面目に生きてきたからこそ、夫人を受け入れられなかったのだから。 その場合、私の役割と責務は彼女を愛し慈しむことだった筈だろう? だが所詮は仮の話で、実際の前提は違う」
そう、実際の前提──それはまず、呪いの浄化ありき。
本人も語った通り、カールハインツは変更を余儀なくされた己の責務も含め、エディトを受け入れられなかった。
そんな時、マジョレーヌと出会った。
彼女に好感を抱くのはすぐだった。
あざとさや見た目の可愛らしさに騙されたワケではない。マジョレーヌの欲望やあざとさには気付いていたものの、目的からブレない彼女の行動は常に真っ直ぐで。
ひねてしまったカールハインツには、それが眩しかったのだ。
「マジョレーヌに惹かれた私だが、最初から婚約を破棄するつもりでいたわけではない。 だが夫人がそれをどうでもいいと思っているのは明らかだった。 なんなら役割を一部マジョレーヌに押し付けている節さえあった」
(そういえば『社交嫌い』みたいなこと言ってたもんなぁ)
ユリウスは腹落ちのあまり、遠い目になった。
こちらに来たばかりの頃ならともかく、マジョレーヌと混同された報告書を見ているユリウスに、もうその辺の誤解はない。
「マジョレーヌとの婚約は副次的なモノだ。 既にその前には元の呪いを鑑みて『夫人と婚姻すべきでない』という結論に至っていた私は、陛下に解消を願い出ている」
説得するまでもなく話は通ったという。
(国王夫妻にしてみれば、元々『ふたりが上手く行けば』程度のものだったのかもしれないな……)
カールハインツも『元の呪いを鑑みて』と言った通り、いくらエディトに力があるとはいえ、道理を考えたら聖女との不本意な婚約はこの件で適切とは到底言えたものじゃない。
「そなたとの縁組みが王命なのでもわかるだろう。 一番いい相手が卿だった」
婚約を破棄するにあたり、王家はエディトにとっていい相手を見繕った。結果、ブラシュール辺境伯であるユリウスに白羽の矢が刺さった。
それは利用しようとした罪悪感からもあるだろうが、カールハインツの訴えにより、改めて原因である呪いの経緯を重く受け止めたが故。
『今の』にはなるが、『聖女』に対して王家ができる最大の計らいがコレだった。
なにしろ今の聖女は社交が嫌い。だが辺境では、そんなこと滅多に求められない。それに辺境伯家は裕福で権力もある。
若き辺境伯であるユリウスは極めて温厚であり、真面目で浮気はしなさそうな、長いものに巻かれるタイプ。王命で受け入れた嫁を決して蔑ろにはしないだろう。
ついでにまだ強い権力を持つ両親は息子の嫁を探しているのだから、まさにユリウスはうってつけの人材だったに違いない。
鴨がネギ背負ってきたとエディトを歓迎した両親と家人だが、王家的にもユリウスは鴨葱だったと言える。
「それでも両親は改めて夫人に呪いの浄化を、正式に神殿から頼むつもりでいたようだ。 だから私は急遽マジョレーヌに相談・協力して貰い、追い出すように婚約破棄をした」
発覚した新事実もいくつかあるが、それよりも。どうやら起きた事柄の時系列が大きく違っていた模様。
「これが私の我儘であったことは否定しない。 だが、道理を通すならこれが正しい。 方法は褒められたモノじゃないが」
カールハインツはテンプレ的だらしない王子どころか、むしろ潔癖であったと言える。
「殿下のお話ですとこれまで同様、呪いは引き受けるつもりだったと取れますが」
だったら何故、今になってエディトの力が必要なのか。
ユリウスは答えをわかりながら、敢えて尋ねる。
「ああ。 ただ……予測していなかった事態が起きた」
(……マルケル嬢か)
──マジョレーヌは呪いを肩代わりしたのだ。
自分の意思で、カールハインツの同意なく。




