①テンプレ鬱展開バッドエンドによる呪い
「まず──私は婚約者だった夫人を嫌っていた」
「……存じております」
話は意外なところからの始まりだった。
「私がマルケル伯爵令嬢であるマジョレーヌに惹かれたのは事実だが、それは婚約破棄の発端ではなく、夫人を嫌っていたのも本当は彼女の出自が問題なのではない……この婚約そのものに不満があったんだ」
魔力量の多い第三王子、カールハインツの役目は神殿との繋がりを保つ為に、神に仕えること。やることは市井で庶民と交流することを含めた奉仕活動と、日々の礼拝。
加えて──次代の国王となる者の盾。
この『盾』の役目こそ呪いの話である。
『神殿との繋がりを──』等と言ってはいるが、実際はこれも呪いに関わるからこそ。
「先にこの『呪い』についての話をしよう」
「私がお聞きしていいのですか」
「構わない」
──女神リーベリンデを祀る国教、エーヴィクリーベ教。
この宗教は、元々国が統一される前から一般市民に広く根付いていたもの。
統一前にいくつかの小国に別れていた頃、そのうちのひとつが人心を掴み民衆を纏める為に、教義や神殿などを整え宗教として擁立した。
国教とはなったもののそんな経緯もあり、今の国として統一後暫くの間、神殿と王家との間には軋轢があったらしい。
ある時、とても力の強い聖女が貴族家から輩出されたのを機に、王家は聖女を娶り王太子妃として遇することで神殿との不和をなくそうとした。
だが王太子妃になる筈だった彼女には、質の悪い妹がいたそうで。妹は姉の手柄を横取りし、王太子を篭絡したのだ。
王太子は見た目が可憐で嫋やかな妹の虚言を信じ、聖女との婚約を破棄し追放した。
悪評を流され孤立無援の中、王宮を追い出された彼女だが──神殿にも戻ることはなく、行方を眩ましたまま。
聖女が失踪して暫く。王太子と聖女の妹の顔には、見るも無惨な醜い痣が現れた。
『呪いによるもの』と診断されたそれはやがてふたりの精神と肉体を蝕んでいき、死に至らしめた。
しかし呪いはこれで終わりではなく、次に王太子となる予定の第二王子に痣が現れたのだ。
それを救ったのは、早くから神殿に入り神官となっていた王弟子息。
彼のおかげでそれから神殿と王家は強く結びついたものの、問題は解決したわけではなかった。
聖女の呪いは強く、深かった。
聖女の憎しみは特に、妹を優遇し自分を虐げた生家と、王太子の暴挙を許した王家に向けられた。生家の者は全員死亡し、今その貴族家はない。
王弟子息は魔力量が多く魔術に長け、信仰心も厚かったものの、解呪することはできず。分散するのがやっとだったという。
高位の魔術師や神官も協力し力を尽くしたのだが、やはり解呪はできず。分散した呪いの仕様を解析し、やり過ごす方向に舵を切ることとなった。
そして分散した結果、今も王家への呪いは続いている。
「受け皿となる者は段階的に術式を刻まれ、ゆっくりと呪いを引き受ける。 最初は目印を、間口となる為の扉を、と言うように。 呪いを引き受けた後は、北の離宮に作られた神殿で国の安寧を祈り、かつての聖女の魂の救済を願いながら呪いの浄化をして過ごす」
離宮ではあるが封じられるのは神殿。その際には神職に就いたことになり、公務などは勿論、俗世とは関わらない。
浄化が終われば還俗できるが、最初の頃は皆短命で生涯を終えたそう。それでも呪いは徐々に弱くなっていっているらしく、還俗した例は滅多にないものの、ここ数代では皆平均寿命くらいまで普通に生き、死因も呪いではないとのこと。
(……想像してたより重いな)
呪いの話がテンプレ聖女追放モノ(※性悪妹付き)スタートだっただけに油断していたが、鬱展開からの結末はバッドエンドざまぁ(※継続中)である。これはなかなか後味が悪い。
「過去を遡ればわかることだが、我が国の国王陛下は側妃か愛妾を迎えてでも、必ずふたり子供を産む。 これはスペアが必要だからではなく、呪いの受け皿が必要だからだ。 勿論スペアはいた方がいい……全て男児であり第三子が産まれた以上は、その役目は私が担うことになる」
受け皿である者は、婚姻可能な範囲で最も力を持つ聖女、或いは神官と婚約することが定められていると言う。この国の信仰神であるリーベリンデは愛の女神である為、聖女は勿論、神官も婚姻可能だ。
ユリウスはカールハインツの語ったことが、てっきり『役目が不服だった』というモノだと思ったのだが。
「役目が不服だったわけではない」
「え」
どうやら、それは違っていたようだ。




