⑦素晴らしい夜が明けて
ロマンス的に言えば非常にガッカリなスタートの初夜だったものの、いざ始まってしまえば割と盛り上がった。
若いって素晴らしい。
「すまない、無理をさせてしまった」
「い……いえ……」
愛だの恋だのの実感よりもまず、夫婦としての任務をようやく成し遂げたことにふたりはとても満足していた。
行為自体にも。
ユリウスは切羽詰まらせたことへの罪悪感(※誤解)もあり、前世の朧気な記憶を駆使し大変丁寧に行った。そのおかげかエディトも初めてなのに悪くなかったようだが、それも含め最終的に夢中になったのは彼の方だったと言える。
ただし、エディトはもうぐったり。
コトが終わり彼女の身体を清めてやっている最中も、もう起きているのが精一杯の様子。
「もう眠るといい」
「ユリウス様……ここにいてくれますか……?」
「ああ、勿論」
(可愛いことを言うなぁ)
身体を重ねたからか、それとも眠いからか。
これまでになく、妙に素直に甘えてくるエディトに胸がキュンとなる。
優しく乱れた髪を撫でていると、エディトは安心したようにすぐ眠りについた。
それから暫く。既に賢者タイムに入ってからかなり経っているユリウスに訪れているのは、穏やかな多幸感。
名実共にようやく妻になったエディトを見つめ、込み上げてくる恋愛的な情と素晴らしい一夜の余韻に浸りながら、幸せを噛み締めていたのだが──
「──……え? えぇぇぇぇぇ……?」
ユリウスはようやく自らの異変に気付いた。
(やっばい……! なに……ナニコレ?!)
この、力が全身に漲る感じ──以前、エディトに祈られた時と似ている。
ただ、それはあの時とは違い弱く緩やかなものの、代わりに深いところにジワジワと染み渡るような、そんな感じだ。
(繋がったからか!? ……聖女の力って、こんなところにも出るのか?)
魔力ならばまだわかる。体液を媒介とし、自身の魔力を効率よく相手に注ぐ方法はあるから。
だがそれだって、ただ相手と交わればいいわけではなく、注ぐ側の術式かそれに代わるものが必要になる。ましてや聖女の場合、持つのは『祈りの力』であって、魔力とは力の根幹が違う筈だ。
「……」
エディトは幸せそうに寝ている。
「…………ま、いっか」
今までのユリウスなら色々考えて勝手に不安になったり謎の決意を固めたりと、無駄に右往左往してしまったところだが、身体を重ねた余裕からかそんなこともなく。
むしろ、妻の寝顔に再び幸せな気持ちになりながら寄り添うように隣に横たわり、瞼を閉じた。
──そして翌朝、寝坊して焦ることとなった。
「旦那様、そろそろ起きてください!」
「──はっ!」
寝過ごしたユリウスが起きたのは『流石に不味い』と感じたトマスが夫婦の寝室の扉を叩いて声を掛けたからである。
尚、事後(※細かく言うと一回目)に夫婦の寝室に移ったのもあり、当然なにが起こったか知っている家人達が気を利かせたのもあって、かなりの寝坊。既にカールハインツは朝食を摂った後だったりする。
(ヤバッ……なんも話してない……!)
衝撃から始まり、夢中になり、幸せを感じながら寝てしまったので、話す隙どころか全く思い出しもしなかった。
「うう~ん……」
エディトを見ると少し反応はしたものの、まだ夢の中の様子。
(とりあえず殿下から話を聞くだけだし……エディトは寝かせておいてもいっか)
ユリウスは大分雑になっていた。
それもその筈、既に心配していないエディトは勿論だが、ぶっちゃけ今のユリウスにとっても似たようなモノ。
彼にとって心配なのは『エディトを王家に奪われること』だったのだから。純潔を捧げてもらい、たとえ強権を奮われようと強く抵抗できる立場となった今、もう割とどうでもいいっちゃいいのである。
「──それで、殿下は如何なるご用事でこちらにいらっしゃったのでしょう」
挨拶もそこそこに話を切り出すと、カールハインツはそれを待っていたかのように、がばりと頭を下げた。
「エディト……いや、失礼! ブラシェール辺境伯夫人のお力をお借りしたい……!」
「──」
どうでもいいと思っているユリウスだが、逆を言うと『裏表なく親身になれるようになった』とも言えるわけで。
(どう転ぶかは、カールハインツ殿下次第だったが……まあ)
頭を下げ名称を変えたあたり、及第点である。
臣下としては不遜だが、エディトの力にはそれくらいの価値があるのだから。
「まずはお話をお聞きしましょう」
「少し長い話になるが──」
予め纏めていたらしく、カールハインツは淀みなく話す。
それはルートヴィヒを介してマジョレーヌが話してくれた『王家の呪い』についての詳細であり、本人以外知らない、何故エディトと彼が婚約し、何故彼女を嫌ったかという理由でもあった。




