計算違いの闇に呑まれる王妃
結婚から五年が過ぎてもミラに子どもは出来なかった。
「「金の魔法」がかかっているのに」
「アリシアさまの所には、何人も子どもがいるのにね」
「やはり、アリシアさまと結婚されたほうが、よかったのではないかしら」
ヒソヒソと囁くのは貴族も使用人も同じ。
違いはミラに耳に届くか、届かないか、だけのことである。
「側妃さまはご懐妊なさるのにね」
「ええ。ペドロさまが原因で子どもが出来ない、ってわけじゃないことだけは確かだわ」
「でも側妃さまは、流産なさったでしょ?」
「えっ⁉ また⁉」
「そうなのよ。側妃さまは三人いらして、どなたもご懐妊されるけれど、流産されてしまうのよ」
「あぁ、それはきっとアレよ」
「アレって?」
「ミラさまの呪いよ」
「ええっ⁉」
側妃たちが懐妊しても流産を繰り返すので、ミラの呪いではないか、とまことしやかに噂されていた。
(そんなことするわけないじゃないっ!)
ミラは反論したかったが、それを言葉にするわけにもいかない。
彼女の味方は誰一人いなかった。
後ろ盾であるシェリダン侯爵家からも嫌味を言われ、ペドロも側妃たちにとられ。
ミラは全く立場を無くしていた。
(側妃の子でも、ペドロの子どもがいれば、私の立場も安定するのに)
未だ王太子妃のミラは焦っていた。
国王が側妃との間に男児をもうけた、という噂はあったがお披露目はない。
隠されたままの男児は、ペドロにとっての脅威だ。
(どこにいるのかが分かれば、手の講じようもあるというものを……)
今のミラにとって、暗殺など簡単なことに思えた。
そんな時に、ようやくペドロの側妃の1人が、男児の出産を果たした。
(よかったわ。これでペドロの立場は守られる。私は晴れて、王妃よ!)
ミラは歓喜に包まれた。
だが出産に耐えきられなかった側妃は、亡くなってしまった。
(だからって、なぜ私に育てろと⁉)
ミラの計算違いは、より大きくなった。
「実際に育てるのは乳母だ。お前は、この子の後ろ盾になればいい」
ペドロは冷たく言うと、子どもを置いて出ていった。
既に二人の間は冷え切っていて、子どもが出来たからといってペドロがミラのもとに戻ることはなかった。
「お前なんかに「金の魔法」を使うんじゃなかった……」
ペドロがボソリと呟く。
(それは私のセリフよっ)
あれほど努力をして、ペドロの心を得ようとしたのは、幸せになるためだ。
ミラは、ベビーベッドの中で眠る子どもの姿を見た。
(あぁ、鬱陶しい。子どもなんて、ちっとも好きじゃないわ)
育てるのは乳母だ。後は放っておけばいい。
そう思ったミラだったが、後ろ盾であるシェリダン侯爵の考えは違った。
「次期国王となる男児だ。今から取り入っておいて損はない。もっと積極的に関わって養育するように。あの側妃が、お前の代わりに産んでくれたんだ。せいぜい可愛がりなさい」
シェリダン侯爵に言われてしまえば、ミラは頷くしかない。
子どもが出来たのを機に、ペドロは王位を継いだ。
ペドロが国王となったことで、ミラは念願の王妃となった。
しかし、その地位はミラの思惑とは大きく違っていた。
ペドロが華やかな公務に伴うのは、側妃の仲の誰かだ。
ミラではない。
「お前には育児があるだろう?」
そう言って、ペドロはミラを放置する。
それでいて書類仕事や育児など、裏方の仕事はたくさん回ってくるのだ。
(私の幸せはどこ⁉)
ミラの悲痛な心の叫びに、応えてくれる者はなかった。




