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不運の王子と幸運の鍵  作者:
4章
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7 意外な使者

「……一体どういうことなの」

 疾走する馬車の中、シャンテルは低い声で、向かいの席で俯くマルティナに訊ねた。

「…………」

「あなたのせいでアリスが怪我をしたのよ? なんでこんなことするのよ。こんなことをしてまで、王太子妃の位が欲しいの!?」

 答えないマルティナに苛立ち、詰問するような声が出る。

 びくりと肩を跳ねさせて顔を上げたマルティナは、震える声で叫び返した。

「そんなんじゃないわよ! 王太子妃の位なんて、そりゃ、あるに超したことはないけど、でもそんなものが欲しかったわけじゃないわ! ……私はただ、アリステア様が好きなだけよ。あの人の隣に居たいだけよ。それがいけないの!?」

「……あなた、アリスを好き……だったの? 身分目当てじゃなくて、本当に?」

 思いがけない言葉に目を丸くしたシャンテルを睨み、マルティナは更に言い募る。

「あなたとアリステア様がシリエル皇女のもとへ辿り着けば、全ては解決するってアーヴィン様は仰ったわ。でも、じゃあ、あなたが魔法を解いてしまったら、そうしたらもう、婚約は覆らないじゃない。それなのに、何もせずにただ見ていろって言うの!?」

 青い目から、ぽろりと涙の雫が落ちる。

 それを見て、シャンテルの怒りはすっと冷えた。

 身勝手ではた迷惑なのは確かだが、マルティナはとても一生懸命で、ひたむきだ。

(この人は、とても真剣に恋をしているのね。……何もしなかった私とは、違って)

 少し、羨ましい。嫉妬のような感情すら生まれる。

傷付けても、傷付いても構わないくらい、手段なんて選んでいられないくらい懸命に、誰かを好きになれるマルティナに。――それでも。

「……それでも、あなたのしたこと、私は認められないわ。私は――私だって、あの人の傍にいたいもの」

 ぱちぱちと瞬くマルティナに、傲然と微笑んで見せる。

 そう、それでも、もう迷わない。覚悟はとっくに出来ている。

「私は、あの人にかかっている魔法を解くと決めた。あの人のことを、もっと知りたいと思った。――アリスのことを、好きになると決めたのよ。私はあの人の『金の林檎』になる。アリスの魔法を解くのは他の誰でもない、私だわ」

「……腹の立つ女ね、あなた」

 ぐい、と手の甲で涙を拭いて、マルティナは言った。

「よくってよ。じゃあ、どちらがアリステア様の魔法を解くか、勝負しようじゃない。私だって、あなたに負けない『幸運』の持ち主よ。勝った方があの方の妃になるのよ!」

「……まあ、もしあなたが勝っても、アリスがあなたを選ぶとは限らないけど」

「なによ! 本当に腹が立つわね、ちんちくりんのくせに!」

 甲高く叫ぶマルティナは、すっかり元の傲慢な調子を取り戻している。

 それに安心したところで、シャンテルはふと、走り続ける馬車に気が付いた。

「それはそうと……この馬車、どこに向かっているの?」

 マルティナは、問われたことに驚いたというように、きょとんと目を瞠る。

「私が知るわけないじゃない。私が命じたのはスターにだけよ? あなたとアリステア様を引き離して、私が一緒に皇女のところへ行こうと思ったの。私が魔法を解けば、アリステア様の『幸運の鍵』は私でしょう?」

「……腹の立つ計画だけど、今は置いといてあげるわ。でも、じゃあ結局この馬車はどこへ……レザックさんだって、誰の命令で?」

「やっと俺のことを思い出してくれたな?」

 幌を捲り、御者台から振り返ったレザックは、悪びれた気配もなく笑う。

「……あなたの目的は、なに」

 人の良さそうな顔の、けれども得体の知れない大柄な男を睨みつけながら、シャンテルは問う。

「そう怖い顔をするなよ、せっかくの可愛い顔が台無しだ。悪いようにはしないさ。名乗りは――あげといた方がいいのかな?」

 にっと笑みを深くして、声を厳しくしたレザックは言った。

「ユーリ=プテルス第三皇女、シリエル皇女付護衛団近衛隊隊長、レザリアン・ドイル。通称はレザックだから、そのまま呼んでくれて構わんよ。――皇女の命により、姫君方を主の館へお招きいたします」


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