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不運の王子と幸運の鍵  作者:
4章
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22/33

5 合流

 翌朝から、また馬車の旅が始まった。

 車輪に弾かれた石が頭に命中したり、鳥に襲われて逃げる途中で川に流されたり、馬に髪の毛をかじられたりと、アリステアの身にだけは様々なことが起こったが、道行きはおおむね平穏だ。この調子でいけば、あと数日で大橋に着くだろう。

「それにしても、あの兄妹たちは何をしたいのかしら……?」

 道の脇に停めた馬車から降りながら、シャンテルは呟いた。轍の残る来た道の向こう、ぎりぎり視界に入る距離に、同じように停まった派手な馬車が見えたからだ。

 初日に宿で目撃して以来、アルティエリ兄妹は一定の距離を保ちつつ、シャンテル達の後を付いてきていた。最初は構えていたが、数日を経た今はもう、何をしかけてくるでもない兄妹たちの追跡にすっかり慣れてしまった。目的がわからない以上、油断するわけにもいかないのだが、公爵家の紋章すら刻んだままの派手な馬車が堂々と付いてくる様子には、どうしても真剣な気分になれない。

「ほっとけ。本人たちはばれてないつもりなんだろうし、何かしてくるにしろ手の打ちようはいくらでもある。何より、下手に構うと付け上がるぞ」

「まあ、そうかもしれないけど……」

 心配性のリークにすらそう言わしめる兄妹に、シャンテルは若干の同情を覚える。

 御者台から降りたリークはシャンテルの横に並ぶと、ぐっと大きく伸びをした。馬車馬たちは、アリステアとエリカが水場へ連れて行っている。つかの間の休憩だ。

 主筋の奇行が気にはなるのか、シャンテルの視線を追って派手な馬車に目をやったリークは、そこに見えた光景に、みるみるうちに切れ長の目を丸くした。

「……なにやってんだ、あの人たちは――!」

苦々しい呟きと共に弾かれたように走り出したリークに、シャンテルも続く。足音に遅れて、マルティナの高い悲鳴が届いた。――野党に襲われているのだ。

「あんな豪華な馬車に乗ってるからよ……! 世間知らずもいいとこだわ! ちゃんと教育しなさいよね、リーク!」

「知るか! 第一、マルシリオ様は俺より年上だ!」

 走りながら、リークは腰の剣を抜いた。シャンテルも腿に仕込んだ短剣を抜こうと、足を止めてスカートをたくし上げる。そのとき、背後で風が動いた。

「僕がいく。シャンテルは馬、見てて」

 押し付けられた手綱を反射的に握ると同時に、白い影がシャンテルの横をすり抜けた。魔法使い然としたローブを纏った後姿はたちまち遠ざかり、騒ぎの大本へ辿り着く。――そして、騒ぎは一瞬で収束した。

「すごい……」

 先を行ったリークすら追い抜いたエリカが、マルシリオに剣を向ける野党を背後から蹴り倒したのは見えた。そこから先は一瞬で、遠目には何が起こったのかわからなかった。だが、追いついた先で昏倒した、あるいは腕から血を流し呻いている野党達を見るに、エリカが実質ひとりで彼らを圧倒したことは確かだった。

「……本当に、無意味に強いな、あいつは。騎士に転身すりゃいいのに」

 間に合わなかった――というより、エリカに追い抜かれたリークは、呆れと羨望が入り混じった声音で、上がった息のまま呟いた。シャンテルも無言で頷く。

「シャンテル、リーク、無事か!? エリカが急に走るからなんだと思ったが――……これはまた、ひどい有様だな」

「アリステア様……?」

 もう一頭の馬を引き、事態に遅れて現われたアリステアの声が聞こえたのだろう。車輪の外れた豪奢な馬車の中からマルティナが顔を覗かせた。地面にへたりこんでいたマルシリオものろのろと立ち上がる。見慣れない二人組――短い黒髪を持つ長身の男と、彼に肩を貸された大柄な男も、馬車の陰から現われた。大柄な男の方は、頭から血を流している。襲われた際、馬車から落下したのかもしれない。

 一同を見渡して、アリステアはうーんと唸る。しばしの間の後、朗らかに笑って言った。

「とりあえずは、一緒にここから離れよう。――俺たちの馬車まで歩けるか?」


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