002話 イワレヒコとアクナ
失われた神殿都市 大ジャガーの神殿 周辺の村
ティカル1号神殿『大ジャガーの神殿』は、西暦700年前後にティカルを再興した偉大な王「ハサウ・チャン・カウィール1世」の霊廟として建築された。
神殿の地下からは、王の遺体とともに精巧な翡翠の装飾品や副葬品が発見されている。
この大ジャガーの神殿を守るべき使命を負った部族があった。それが『マヤ族』である、名前からも判るとおり、彼らは原初の一族である。紀元前にこの地に住み着いた最初の部族でもある。
またティカル王、カウィール1世の命により1,000年近くもこの神殿を守護してきたのである。
1,000年の間には6万人いたティカルの人口も、マヤ族だけの僅か800人に減った。
彼らは東西南北に分かれて集落を持ち、それぞれ最寄りの神殿守護を担当していたのである。例えば1号神殿と2号神殿は東の集落が、4号神殿は西の集落が担当していた。
この1,000年は巫女を出した集落を除いて、助祭(巫女見習い)を残りの三つの集落で出して来たが、現在は一人欠員の状態である。
理由は素質の無い者に巫女は務まらないからである。『ピラミッドの巫女』とはただの神職ではない、特別の資格者なのである。
イワレヒコと阿久利は東の集落に案内された、巫女のラ・マヤの実家があると言う。途中で巫女について説明されたが《ラ・マヤ》は実名ではなく役職名だと言う。
本来、巫女頭に付ける名であるらしい、最も現在は複数の巫女が居ないため有名無実化していると言う。
集落に入りどんどん奥に行くとそこには村で一番大きな建物があった。ラ・マヤは家の中に入るといきなり声をかけた。
「ただいま、お婆ちゃん」
「お帰りニクテ、今日は早かったねぇ...おや、お客さんかい?」
「粗末な家ですがどうぞお入り下さい」
「粗末で悪かったねぇ」
婆さんが憎まれ口を叩く。イワレヒコとその婆さんの目が合ったとたん、二人は凍結した。
「婆さん、どこかで遭ったことはないか?」
「おやおや、先ほど霊力が大量に吸われたかと思えばあんただったのかい? 誰のせいでこんな皺くちゃババアになったと思ってるんだい?」
「婆さん、まだ生きていたのか?......昔はあんなに美人だったのによ」
「契り合った仲だったというのに酷い言葉だね」
そこへ阿久利がいきなり尋ねた、契り合った仲だったというのが気にかかったらしい。
「殿、この方はどなたでしょうか?」
「現地妻さね、子供もできたしね」
「おっ? 婆さん子供なんていたか?」
「これだから男はね......そこの別嬪さん、気を付けることだね......あんたが来なくなって生まれたんだよ」
「それでその子供はどうなったんだ? 幸せになれたのか?」
「ああ、男の子でね、立派な王になって人生を全うしたよ。1,000年も前のことさね」
イワレヒコは突然宙に向かって呼びかける
「おい孔明、応答しろ。計算脳の記憶セクターを調べてくれ。オレの子供についてだ」
『了解です、しばらくお待ち下さい............我が君の子供はティカルで王になりました。ティカルを再興した偉大な王《ハサウ・チャン・カウィール1世》となりティカルの勢力を拡大させています』
「おい、婆さん。あんたの髪の毛をくれ、それと遺骨の欠片も頼む、ピラミッドの中にあるだろう? 孔明、やることは解かっているな、頼むぞ」
『お任せ下さい』
「あんたどうする気だい? 息子の骨など拾って......」
「オレは息子に遭いてぇ、生き返らせるんだよ」
「そんな事が出来ると思って......いやあんたは曲がり成りにも神だったねぇ」
大ジャガーの神殿前
翌日、大ジャガーの神殿の前に供え付けられた祭壇で神事が執り行われた。
重大な神事があると聞いて、マヤ族のほぼ全員がここ1号神殿と2号神殿に挟まれた広場にやって来た。まさに老若男女が集合する。
遺骨の欠片はイワレヒコがピラミッドの墓室に入って回収して来た。常人では入れないらしい。
婆さん...もとい名はアクナと言うのだった......
「女性戦士、あるいは村を守る長老」と言う意味だそうだ。
そのアクナの髪と遺骨を一つの小箱に入れ祭壇に置く。そして3人の巫女による祈りが始まった。
アクナ、ニクテ、そして阿久利による祈祷である。一瞬小箱が光り輝いたと思ったら、突然消え失せたのである。
「おおー、小箱が消えたぞ」
周りから驚愕の声が聞こえた。
するとその場に居合わせた700人以上が一斉に平伏したのだ、子供達も両親に頭を押さえ付けられて強制土下座である。
彼らにとっては平伏は最上級の礼であり、普通は跪いて頭を下げるだけだ。それだけにこの神憑り的な現象は平常では有り得なかったのである。まさに伝承通りの神が起こした奇跡であった。
「よし、これで一月待ってくれ。あとは婆さんに長生きした褒美をやろう」
「おや私に何かくれるのかい? 何をくれるのか知らないけど有り難く貰うことにするよ」
「まあ楽しみに待っていろ、その時が来れば解かる」
イワレヒコはそう言うと、身に付けた袋からある物を取り出し頭に被った。
「うおぉぉぉぉ、ジャガー様だ。ジャガー様が我らの元に帰還なされたぞ!」
「今よりオレはジャガーと名乗る」
日本国 野貝原山 地中の拠点 (ピラミッド遺跡)
『内蔵助殿、我が君から大切な依頼品が届きました。これを生体処置室に持って行って係の者に渡して下さい』
「これは何でしょうか?」
『我が君の、現地妻の髪の毛と息子の遺骨です』
「某としましては、何だか複雑な気持ちですが...」
『慣れて下さいとしか言いようがありません。《過去によくあった事》と記憶セクターには記録されています。天皇家もその一つです』
「殿はこれをどうなされるお積りでしょうか?」
『それはですね...ひ...み...つ...です。さあ、忙しくなりますよ』
一方、その生体処置室では大盛況であった。メソアメリカに渡る張飛隊と許褚隊の催眠教育を既に開始していた。マヤ語と中世スペイン語をインプットする作業である。
現状の設備では一度にできるのは10人と限られており、約8時間かかる。24時間で30人だ、つまり60人のホムンクルス部隊の処置が完了するのは2日後の予定である。




