003話
失われた神殿都市 大ジャガーの神殿 東の村
西暦1704年1月5日、ここ東の村・通称=巫女頭の村では幹部会議が開かれた。
大長老であり、マヤ族の長である婆さんが集合をかければ誰も逆らえない。では出席者を紹介しよう。
東の村・通称=巫女の村 アクナ 族長
南の村・通称=賢者の村 イクタン 指導者 25歳
西の村・通称=戦士の村 カバック 戦士長 30歳
北の村・通称=忍びの村 カネク 暗殺者「黒い蛇」28歳
イワレヒコ
阿久利
ニクテ 当代の巫女 20歳
以上が役職と各々の特徴である。進行役は若年ながら知性派のイクタンに任された。
「これより対策会議を始めます。若輩者ですが私が進行役を務めさせて頂きます...」
「何の対策会議だぁ?」
戦士長のカバックが無骨に尋ねる。この男は話を終わりまで聞けないらしい、つまり脳筋男である。張飛と馬が合うことだろう。
「侵略者スペイン人に対する対策を話し合う会議になります」
「その毛唐がここに来るというのか?」
「確実に来ます。現状の様子をカネク殿に説明してもらいます。カネク殿お願いします」
「マヤ最後の王朝イツァは6年前に滅びた事は知っているな? 我が手の者の報告によると、生き残りを植民地集落へと移住させ、強制的に改宗させているようだ」
「なんだと、そんな事をして統治できるのか?」
「出来ないだろうな、いずれ大規模な反乱が起きる」
そこでイクタンが追加で議題投入する
「皆さんに思い出して欲しい。7年前スペイン人の聖職者がこの密林に迷い込みました。当時は聖職者だから害は無いと思ってか開放しましたが、今考えるとこれは拙かったと思います」
「どういう事だ? その毛唐の坊さんを返したのがいけなかったのか?」
「はっきり言って、そうなります。彼は帰還すると総督府にここの遺跡と、我々の存在を報告している筈です。そうですよね、カネク殿?」
「おそらく間違いないだろう」
史実ではユカタン総督の管轄下にあったペテン地域の行政権が、1703年にグアテマラ総督領へと移管された。
そのためユカタン総督府ではティカルの件は報告を受けていたが、管轄移管のどさくさに紛れてグアテマラ総督府へ情報が共有されていなかったのである。所変われど縦割り行政は変わっていない。
結果としてティカルにはスペイン人の軍は来なかった。この行政上のミスがティカルが今まで平和であった原因である。
「それで俺らは毛唐に対してどんな行動をするんだ?」
戦士長のカバックが尋ねるとイワレヒコが答える
「イツァ族の旧首都タヤサルを攻撃する。孔明、説明は任せた」
『はーい、説明を任された孔明です。皆さん宜しく』
所変われど突然孔明の声を聞いた会議の出席者は、キョロキョロと周りを見回す。アクナとニクテ以外の者は声の主を探しているのだ。
「探しても無駄だぞ、ここには居ない。というか本国の本拠地にいる」
「と言いますと?」
「大洋の向こうの日本と言う国で鎮座している」
「えっ? 鎮座ですか?」
『私は神に仕える《スーパーバイオトロニクス》という存在です。では作戦を説明します、タヤサルの攻撃はこちらの戦力60人で行います。砦はありますがすぐに陥落するでしょう』
「それで孔明、あの人間猛獣たちはいつ到着するんだ?」
『現在、言語の催眠教育をしていますがあと1日、移動に1日かかります。遅くとも3日以内に届けます』
「了解した......と言うことでティカルの皆は戦闘に参加しなくていいぞ。観戦は自由だ」
この言葉を聞いてカバックが少し不満らしく
「イワレヒコの大将、俺は一応戦士長なんだが...」
「うん? 張飛みたいな奴だな。まあいいだろう、カバックの戦闘は許可する。戦う相手が残っていればいいけどな...」
大ジャガーの神殿前広場
西暦1704年1月8日、大ジャガーの神殿前広場にはマヤ族約700人が集まっていた。
総人口は800程であるが、病気や怪我、あるいは任務に出ている者を除いて全員集合だ。1月と言ってもここは熱帯で赤道に近いため、よく晴れていて天気は快晴である。
「イワレヒコの大将、援軍は何処から来るんですかい?」
戦士長のカバックが何気なく尋ねると、イワレヒコは黙って上空を指さした。思わず空を見上げたカバックはそこに何か小さいものが浮いているのに気づいた。
最初は米粒ほどに見えたそれはどんどん大きくなり、やがて小豆粒大になり、ボール大になるとあっと言う間に視界からはみ出たのである。
神殿前広場に現れた空飛ぶ船は静かに着陸した。いや、よく見ると船底が僅かに地面より浮いていた。
木造船に擬装された救命艇は長さ50mほどあった。船体中央部より入口が開きタラップがスライドして地面に接地する。
先頭は張飛と許褚の二人が並んで降りてくる、何故か上機嫌の様だ。続くのは副隊長の堀部安兵衛と大石 主税の二人である。そして続々とホムンクルス達が降りて来るのだ...
「やあ大将、恩に着るぜ。ここは思い切り暴れられると聞いた、今から楽しみだぜ。なあ許褚」
「うむ......」
この時、周りから大きな歓声が聞こえてきたのである。とくにマヤ族の若い女性の嬌声はもの凄かった。
「何だこの騒ぎは?」
堀部安兵衛が問いかけると、大石主税は首を傾げ
「さあ? 何なんでしょうね...さっぱり分かりませんが...」
それもその筈である、若い娘たちが騒いでいるのは、許褚隊のホムンクルス達に対してだった。
そう彼女らは顔に顔料を塗った、モヒカン頭のヒャッハー男に見とれていたのだ。
「キャー、素敵。逞しいわぁ。あの頭髪と戦化粧はまるで伝説の戦士のようだわ ♡」
これを耳にした大石主税は、信じられないものを見たかのように
「えっ? モヒカン頭がモテている?...有り得ません...」
《所変われば品変わる》のである。美的感覚も異なれば基準もまるで違ってくる。日本では「泣く子も黙る」恰好だが、ここマヤでは女性が擦り寄って来るのである。
本編「元禄の章」では許褚隊のホムンクルス達が、モヒカン頭のヒャッハー男になるのは第120話以降です。
ここで同時進行の弊害が出てきましたがご容赦下さい。
時系列的には矛盾はありません。




