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「生け贄」聖女は推し活したい ~呪われた皇帝のために「死んでこい」と言われましたが、どうやら推し活をしていていいようです~  作者: 乙原 ゆん


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5.その呪い、私が解きます!

 翌朝。

 日の出の頃にフィーネは目覚めた。

 早起きは神殿にいた頃からの習慣だ。


 荷ほどきは昨日のうちに終え、祭壇も作らせてもらっている。

 部屋に運ばれてきた朝食を食べ終わると、ジークベルトの使いが来た。


(思っていたより早い呼び出しね。もしかして、もう体調を崩されたのかしら……?)


 心配しつつ、侍女の後ろをついていった。

 案内されたのは、執務室のようだった。

 侍女がついて来たのは控えの間までで、中に入るように促される。


「失礼いたします」


 大きな窓が設けられ、明るい日差しの差し込む部屋だった。

 手前に来客用のソファが置かれ、奥に執務机が見える。


 フィーネは、ジークベルトの姿を見て、目を奪われていた。

 カーテン越しの光ではあるが、金色の髪が太陽の光に、キラキラと輝いている。


(本当に、太陽神様の化身みたい……)


 昨晩、月光の下でも思ったことだが、太陽の光を浴びるジークベルトはより一層、輝きを増しているようだ。


「フィーネ。早々に呼び出してすまない」

「いえ、ご体調に何かありましたか?」

「問題ない。むしろ、早く礼を伝えたくてな。昨日は来て早々、浄化をしてくれて感謝する。こうして日中に動けるのは何年ぶりだろうか。改めて礼を言わせてほしい」


 そしてフィーネにソファに座るよう促しつつ、自らも移動した。

 その後ろに、赤い髪の男性が静かに控える。


「フィーネに紹介しておこう。側近のウィリアムだ。この帝国に仕えるミットフォート侯爵家の出でもある。ウィリアムは私が呪いに倒れても、態度を変えることなく仕えてくれた者の一人だ。今後、フィーネも顔を合わせることが多いだろう」

「エルマーナ王国から参りました、聖女のフィーネです。ミットフォート卿、どうぞフィーネとお呼びください」


 フィーネが礼をすると、ウィリアムが口を開く。


「フィーネ様が陛下のお体を癒やされたと伺いました。感謝いたします。まさか、陛下がここまでご回復なさるとは……」

「誰かを犠牲にするような魔術を使う必要がなくなったと、ほっとしている。……まぁ、使うつもりもなかったが」

「なっ、陛下!」


 そういえばここにはジークベルトが受けた呪いを押しつけられるために呼ばれたのだったと思い出す。


(怒濤のように色々ありすぎて、忘れていたわ……)


 驚きの声を上げるウィリアムに、ジークベルトは涼しい顔をして言う。


「神に呪われる程に憎まれているのならば、誰かに呪いを押しつけたところで、結局は死ぬことになっただろう。わずかな時間を延命するため、多くの人を救う力を持つ聖女を犠牲にしてまで生き延びる価値が私にあると思うか?」

「そんなことはありません! 陛下が生きていてくださることで、どれだけ私が嬉しいか……。叶うのでしたら私がそのお役目を賜りたいくらいでした」

「お前は、私の側近だからそう言うしかないだろうな」

「そんな風に考えておられたから、昨晩は勝手にフィーネ様との会談を設定なさったのですか?」


 思わずウィリアムを見つめたフィーネに、ウィリアムはしまったという表情をした後に気まずげに説明する。


「本来であればフィーネ様へのご挨拶には私も同席する予定でした。しかし、急遽、陛下の代理として大臣との会食に呼ばれ、その間に陛下がフィーネ様を呼び出されたようです。陛下はもともと、魔術を使うこと自体に反対しておられましたから」

「その件は謝っただろう」

「だからといって、折角来てくださった聖女様をわざと遠ざけようとなさるなど――」


 その言葉に、なるほどとフィーネは納得した。


(あの態度、私を怖がらせようとしていたのね)


 それがあんな展開になり、ジークベルトもさぞ驚いただろう。


「思うことはあるだろうが、怒りをぶつけるのなら、どうか私に。ウィリアムがやったことは、私を思ってのことだ。結果的に良い方向に向かったとはいえ、フィーネを犠牲にしようとしたことに言い逃れはできない」


 ジークベルトが言う。

 しかしフィーネには彼らを憎んだり恨んだりする気持ちはない。

 そもそも、既にこの国に連れてこられた理由を忘れていたくらいだ。


(一番悪いのは呪いをかけた人だけど、太陽神様のものだと言った人も罪深いわね……)


 最初から人の手でも呪いが解けるのだとわかっていれば、彼らも犠牲を求めるのではなく聖女の派遣を望んだだろう。

 帝国に生け贄になりに行けと言われた時は落ち込んだし、悲しかった。

 でも、推しのおかげで気持ちを立て直せたし、フィーネは帝国に来ることになった経緯を受け入れている。


「私は……最終的には納得してこちらに参りましたから」

「フィーネが来てくれたからこそ、事態がここまで動いた。本当に感謝してもしきれない」


 ジークベルトとウィリアムが改めて礼を述べるものの、フィーネは首を振る。


「でしたら、その感謝は、陛下の呪いが完全に解けた時にお願いします」

「完全に……? そんなことができるのか」

「もちろんです! 時間はかかると思いますが、太陽神様の呪いだなんて不名誉極まりない呪いは、私が解きます!」

「……頼もしい。よろしく頼む」

「そんなことが本当に……。フィーネ様、よろしくお願いします」


 頭を下げるジークベルトとウィリアムに、フィーネは決意を新たに頷くのだった。

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