4.意外といい人?
光が収まると、フィーネはジークベルトの様子を確認する。
(うん、呪いに変化はないけど、陛下がまとっていた瘴気は浄化できたわね)
「これで、ご納得いただけましたか?」
そう言ってしまった後、はっと気が付く。
(やばい。やってしまったわ……!)
つい怒りの感情にまかせて、衝動のままに振る舞ってしまったが、勝手に腕を掴んで強引に浄化をかけるなどジークベルトは怒っていないだろうか。
(神殿でも、つい周りが見えなくなって、怒られていたのに……)
これがエルマーナ王国であれば、フィーネの言動は間違いなく叱責案件だった。
しかしジークベルトにフィーネを咎める様子はない。
ただ、不思議そうに自分の体を見下ろしているばかりだ。
(怒っては、いなさそうよね……)
ジークベルトはどこか呆然とフィーネの顔を見つめている。
「呪いが、解けたのか……?」
「いえ、今のは陛下に集まっていた瘴気を浄化しただけで、呪いが完全に解けたわけではありません」
そうして、慌てて付け加える。
「あっ、ですが、太陽の光を浴びたり、誰かに触れたりしても、しばらくは大丈夫のはずです! そちらは陛下の周りにある瘴気が原因のようでした。毎日浄化をかけて様子を見た方がいいと思います」
ジークベルトは驚いたようにフィーネを見つめ、そしてまだジークベルトの腕を掴んだままのフィーネの手を見て顔をしかめる。
「……その手の傷は治さないのか?」
「後で治します。それより陛下、約束を果たしてください」
「は?」
まさか忘れたのかという思いを込めてじっと見つめると、彼は瞬きをしてフィーネとの約束を思い出したようだ。
「それは、先程の私の発言の訂正のことを言っているのか?」
フィーネが頷くと、ジークベルトは怪訝な顔をしながらも口を開く。
「訂正をしよう。呪いは、人の手によるものだった。決して、太陽神によるものではない。これで、いいのか」
「はい! ありがとうございます!」
「満足したなら、早く手の傷を治せ」
上機嫌に頷き自分の手を治してみせたフィーネに、ジークベルトは不思議なものを見るような目を向ける。
「……ところで、名前をまだ聞いていなかったな」
「フィーネと申します」
「そうか。フィーネ、私はジークベルトだ。先程の浄化、感謝する」
お礼を言われ、フィーネの方こそ戸惑ってしまう。
(私が失礼な言動を取ってしまったのに怒らないし、意外といい人なのかしら……?)
そんな風に思っていると、気遣わしげにジークベルトがフィーネを見る。
「疲れただろう。ひとまず、今日は休むといい。明日詳しい話を聞かせてもらえるか」
「もちろんです!」
「では、部屋まで送ろう」
歩き出したジークベルトだったが、ふと足を止めフィーネを振り返る。
なんだろうと思っていると、ジークベルトが手を差し出した。
「失礼した。もうエスコートをしても問題はないのだったな」
「……恐れ入ります」
ジークベルトは何でもないように言うが、その一言にエスコートの習慣を忘れるほどに、彼が長い期間苦しんで来たのだと気がついた。
月光に照らされた横顔からは、彼が何を考えているのか想像もつかなかった。




