31.マイルズ伯爵との面会
その後、エルマーナ王国の神殿から来ていた、帰国を促す手紙についても相談したところ、ジークベルトが対応してくれるという。
神殿は、フィーネに死の犠牲を強いるとわかって、帝国へと向かわせたのだ。フィーネが犠牲にならずに呪いが解けたからと、戻って来いというのは、いささか横暴ではあった。
そういったやりとりがあったとはいえ、フィーネの生活はほとんど変わらない。
ジークベルトの浄化の時間がなくなった代わりに婚約者教育が増えたものの、推し活や慈善活動などを行いつつ、穏やかな日々を過ごしている。
婚約者教育については、以前の夜会の時に教えられたものがその一部だったようで、今はより知識を増やす方法で進められていた。
そんなある日のことだった。
ジークベルトからマイルズ伯爵と会ってみないかと声をかけられた。
残念ながら祖父母にあたる前伯爵夫妻は既に亡くなっているそうだ。
マイルズ伯爵はフィーネの母の兄にあたる。
思ってもみなかったが、嬉しい提案だ。
一度だけでもお願いしたいと、頷いた。
以前から準備を進めていたのか、ジークベルトから話を聞いた翌週には、マイルズ伯爵夫妻が宮殿を訪問することとなり、フィーネもマナーのおさらいなどをして過ごした。
そして約束の日。
伯爵夫妻到着の報告に、応接室へ向かう。
ジークベルトも一緒だ。
婚約者の親族に会うからと、彼は同席を申し出てくれた。
「マイルズ伯爵夫妻、本日はご足労感謝する。私的な件で呼んだのだ。楽にしてほしい」
「本日は、どういったご用件で……」
言いかけたマイルズ伯爵と目が合う。
「フィリア姉上……?」
口からこぼれた母の名に、フィーネの方も目の前の男性が伯父だと理解した。
それに何より、伯爵に母の面影を感じた。
会ったことがないはずなのに、どうしてか懐かしいという感情があふれてくる。
伯父の側には優しげな女性が寄り添っており、彼女が伯爵の妻なのだろう。
見つめ合うフィーネ達に、ジークベルトが咳払いをする。
「彼女の存在を伯爵に知らせたくてな。まずは、紹介しよう。マイルズ伯爵。彼女はフィーネ。私の呪いを浄化するため、エルマーナ王国から来てくれた月の女神の加護を持つ聖女だ」
「フィーネと申します」
国をまたぐこともあり、まだ婚約の手続きは完了していないため、婚約者としての紹介はない。
「そしてフィーネ、こちらはマイルズ伯爵夫妻だ」
「ドミニクです。隣は妻のマーガレットと申します」
紹介を受けながらも、伯爵はじっとフィーネを見つめていた。
「陛下、お教えください。なぜ、他国の聖女様に姉の面影が……。今日私達がお呼びいただいたことと、関係があるのですか」
「きちんと説明するから、落ち着いてほしい。ただ、その前に確認だが、マイルズ伯爵は、姉君の事情をどこまで聞いている?」
「父からは詳しく聞いていないのですが、姉はお仕えにあがった宮殿で何事かに巻き込まれ、国を出なければならなかったと伺っております」
「そうか……。その理解で正しい。信じられないかも知れないが、彼女は元マイルズ伯爵令嬢が他国で生んだ子だ。もし不安なら、後で神殿の血縁鑑定を利用するといい」
「信じます。目元が本当に姉にそっくりで、私も彼女と血のつながりがないとは思えません……」
懐かしげにフィーネを見つめるマイルズ伯爵に、認めてもらってほっとする。
「姪と知って、陛下は聖女様を帝国にお呼びいただいたのですか」
「いや、彼女が来たのは、全くの偶然だ」
「そうだったのですか……。姉は、今は……?」
伯爵の期待がにじむ眼差しでフィーネを見る。
ジークベルトがフィーネを心配げな眼差しで見つめるが、大丈夫だと首を振ってフィーネは自分で答える。
「母は、私が五歳の頃に父と共に事故で亡くなりました」
「なんと……では、聖女様は、どうやって今まで……」
「神の加護があったため、エルマーナ王国の神殿にひきとられ、そちらで育てていただきました」
「ご苦労を、なさったのですね……」
神殿での暮らしを思い返せば、苦労していないとは言えない。
ただ、今まで生きてこられたのは、神殿で保護してもらえたからでもある。
肯定も否定もできないままに、フィーネは言う。
「私のことは、どうぞフィーネとお呼びください。両親の死後、私は天涯孤独で血の繋がった家族や親戚はいないと思って生きてきました。こうして、国を超えた先で、伯爵様にお目にかかることができたのは、奇跡のようだと思います。伯父様と、伯母様とお呼びしても、よろしいでしょうか」
「もちろんです……! なぁ、マーガレット!」
「はい……!」
「今度は是非、我が屋敷に足をお運びください。若い時のものですが、姉の肖像が残っています」
「……! お母様の肖像画……!」
両親が亡くなった時、幼かったために、ネックレスくらいしか形見の品は残っていないと思っていた。
思わぬ申し出に、フィーネは涙をこらえながら頷いた。
「ぜひ、今度伺わせてください」
「お待ちしております」
そうして、お茶をいただきながら姉との思い出話などを聞かせてもらい、充実した時間を過ごすのだった。




