30.告白
さらに数日が過ぎた頃。
ジークベルトからお茶に誘われた。
以前お茶会をした時よりも、庭に咲く花が少しだけ変わっていて、季節の移ろいを感じる。
東屋にエスコートされ席に着くと、フィーネは気になっていたことを尋ねた。
「公爵様の件、もう落ち着かれたのですか」
「あぁ、粗方目処がついた。ここしばらくは、なかなか食事の時間も合わせることができずにすまない。明日の朝からは、またゆっくり食事ができると思う」
「嬉しいです。そうだ、遅くなりましたがこちらを。頼まれていたものです」
フィーネはジークベルトにようやくできあがった自分の姿を模したぬいを渡した。
「ありがとう。大切にする。よくできているのだな」
ジークベルトは嬉しげにぬいを撫で、卓上の花の近くに座らせる。
「こうして、花の側に置いてもとても愛らしいな」
「そうですね。私は祭壇に祀っていますが、家でお茶をする時に卓に呼んで、一緒にお茶をする人もいます」
「なるほどな」
感心したように、ジークベルトは頷いていた。
(陛下……。もしかしてぬい活の才能がおありなのかも……)
そんなことを思っていると、不意にジークベルトが真面目な顔でフィーネを見る。
「フィーネに、礼を言わなければと思っていた」
「お礼、ですか?」
「あなたのおかげで、私は、呪いから解放され、命も救われた。本当に、感謝する。ありがとう」
「いいえ。私だけの力ではありません。陛下が公爵様に向き合われると決められたからこそ、この結果に繋がりました。それに浄化には神々のお力添えをいただきましたし、……公爵様に対しては、何もできませんでした」
「気遣ってくれたことには感謝するが、それは叔父上の選択の結果だ。フィーネが気にすることではない。それに、あの時、フィーネが側にいてくれたからこそ、私は叔父上の言葉や瘴気に揺らぐことなくいられたのだ」
「え……?」
「叔父上のことは、覚悟はしていても衝撃は受けた。だが、初めて会った日、フィーネが私に太陽神の加護があると言って浄化をしてくれただろう」
頷くフィーネに、ジークベルトは続ける。
「だから、フィーネがいて、太陽神の加護もあるのなら、絶対に大丈夫だと思えたのだ」
「そのお気持ちがあったからこそ、太陽神様はお力をお貸しくださったのですね」
「さて、それはどうだろうか。フィーネがあの時に必死だったからこそ、太陽神は力を貸そうと思ったのかもしれない。かの神は、厳しさはあれど、結果を諦めず前を向く人には祝福を与えると聞く」
「でしたら、長い間、呪いを背負いながらも生きることを諦めなかった陛下にも、その資格はおありですね」
言い返したフィーネに、ジークベルトは目を丸くする。
「そう思って、いいのだろうか。私はフィーネの存在があって初めて、加護を信じられたというのに……」
「加護を信じているかどうか、そんな小さなことで、太陽神様は祝福を与えるか、判断なさいません。ただ、諦めない強い思いこそを尊ばれる神様だと思います」
「そうか……フィーネが言うのなら、そうなのだろう……」
納得した様子のジークベルトは、少し考えるように間を開けるとフィーネの方を見る。
「フィーネに、改めてお願いしたいことがある」
「なんでしょうか」
ジークベルトは立ち上がり、フィーネの側へ来るとひざまずく。
「どうかこれから先も、私の側にいてくれないだろうか。フィーネ程の実力ある聖女であれば、どこにいても引く手あまただろう。私の立場が、フィーネに不自由を強いるかもしれない。それでも、妻として、フィーネを望みたい。どうか結婚してほしい」
どこか懇願するようにも聞こえる言葉を、フィーネは信じられない思いで聞いていた。
「……私で、よろしいのですか。陛下とのご結婚を望むご令嬢は多くいらっしゃると――」
「フィーネでなければ、だめなんだ。私が、フィーネを好きだから」
強く否定する言葉に、目を瞬かせる。
「えっ……」
「伝わっていなかったか……? これでも、頑張っていたつもりだが……足りないのならば、これからもっと努力する。だから、私との結婚を前向きに考えてくれないだろうか」
必死な様子のジークベルトに、心のうちに押しとどめていた言葉が思わずこぼれる。
「……私も、好き、です」
「なんと……! ありがとう、フィーネ。あなたを大切にすると、太陽神にかけて誓おう」
指先に口づけられフィーネは顔を真っ赤にする。
だが嫌なわけではなく、ただ困っている様子のフィーネにジークベルトは「こういった触れ合いもゆっくり慣れていってほしい」と柔らかく微笑むのだった。




