29.真相
その後フィーネは護衛と共に宮殿へと返された。
事情聴取は、日を改めて繰り返し行われているそうだ。
オーギュスト公爵の話は亡き妻ジェシカにまつわることが多く、主張は一貫していなかったが、それらの話をつなぎ合わせると、公爵はジークベルトを呪い、その命を奪うことで亡き妻を生き返らせようとしていたという。
騎士の捜査で見つかった彼の手記によると、もともと公爵は皇帝になることを望んでいた。
だがその望みは叶わず、公爵位を授けられた。
それでも諦めきれなかった公爵は、兄夫妻に子が生まれないよう兄の妻――ジークベルトの母親に毒を盛るよう指示していたらしい。
当時、証拠が足りず、彼は捕まえられなかった。
そうして、皇帝を恨み、暗殺を企てる日々の中、彼の妻ジェシカと出会ったことで、わずかながら、皇帝への執着をなくしかけていたそうだ。
そのまま暮らしていくことができていれば、何事もなく過ごせただろう。
だが、彼は皇帝の座を諦めきれず、その企みが原因で妻は亡くなってしまう。
自分の体の一部と他の者の命を犠牲に妻を生き返らせようとしていたようだがうまくいかず、太陽神からの加護が自分よりも強いジークベルトを犠牲にすることで生き返らせ、妻も皇帝の座も手に入れようとしていたらしい。
眼帯をしていた右目は、その時の呪術の代償だそうだ。
そこには、長年皇帝へとなれなかったという恨みと、妻を取り戻したいという執着が延々と綴られていた。
公爵は帝都へと護送され、離宮は関係者の洗い出しと逃走防止のため、帝都から騎士団の応援が呼ばれ、調査が終わった後は封鎖されることになるらしい。
また、彼が神官長を務めていた神殿は、オーギュスト公爵が正気を半ば失っているのに知らぬふりをして副神官長が好き勝手していたとして、副神官長は罷免され、それ以下の役職者にも処罰が言い渡されたと聞く。
副神官長が、実質の支配者として腐敗が進んでいたようだ。
神殿は、神官長が皇帝を暗殺しかけるという大不祥事を起こしたものの、いたずらに民衆の不安を煽ることにつながりかねないと、皇帝への呪殺未遂については伏せることになるようだ。
次の神官長の人事には、ジークベルトが信頼できる人を据えることになるらしい。
公爵の離宮へ行った五日後。
宮殿へと戻ったフィーネは、与えられている客室でジークベルトにお願いされたぬいを仕上げながら、物思いに耽っていた。
毎朝の浄化もなくなり、またオーギュスト公爵の件でジークベルトは忙しくしているため、離宮から戻った後は食事も一人でとることが多い。
ジークベルトは時間を合わせてくれようとしているようだが、それ以上にオーギュスト公爵の件で慌ただしく、時間が作れないようだ。
(まさか、お母様がエルマーナ王国に向かわれた原因が、オーギュスト公爵にあったなんて……)
調査の結果わかった事実を聞かされて、フィーネは不思議な巡り合わせを感じてしまう。
ただ、フィーネにオーギュスト公爵を恨む気持ちは少ない。
フィーネにとって、自分がエルマーナ王国で生まれ育ったことは変えようがない。
それよりも、心配なのはジークベルトのことだった。
(陛下は、あまり落ち込まれてないといいけれど……)
呪いが残っていないか、宮殿に帰って一度確認した後は会えていないため、ジークベルトの様子はわからない。
だが、ただ一人の身内に、命を狙われていたのだ。
しかも、呪いという手段で、彼の命を生け贄に別の人物を生き返らせようとしていた。
公爵にとって、ジークベルトはただ、血が繋がっているだけの他人としか思われていなかったのだ。
調査の中、公爵が怪しいようだと思っていても、なかなか直接の調査に踏み切れなかったジークベルトにとっては、叔父の存在は疑いたくない場所にいる人だったのではないだろうか。
オーギュスト公爵は取り調べの間もずっと「皇族は太陽神に呪われている」と言い続けているようだ。
公爵にとっては、加護をもらったのに、皇帝になれなかったことも、妻が早世してしまったことも、全てが呪いなのだろう。
ジークベルトの側にはウィリアムもついている。
それに、オーギュスト公爵の呪いに三年も耐え、生きることを諦めなかった人だ。
浄化の際に太陽神の助けが得られたことが、オーギュスト公爵の言葉を強く否定する材料になればいいと思う。
そして、フィーネの心を悩ませるものがもう一つあった。
エルマーナ王国の神殿から手紙が届いたのだ。
――いつまで帝国の好意に甘えているつもりだ。皇帝の呪いが解けたのなら帰ってこい。
そんな内容の手紙に、息を吐く。
(私のいるべき場所に帰るだけなのに……なんでこんなに気が重いのかしら)
けれどいつかは、このような手紙が来ると思っていた。
だから思っていたよりは衝撃が少ない。
(……帰る前に、これだけは完成させておかないと)
フィーネは、ジークベルトから頼まれていたぬいの完成を急ぐのだった。




