28.オーギュスト視点
公爵位をもらう以前、オーギュストがまだ第二皇子だった頃。
全てに優れた兄にただ一点、欠点があると知った。
「第一皇子殿下と第二皇子殿下の加護が反対であったならば、立太子もつつがなく決まっただろうに」
「おい、滅多なことを言うな。まだ皇太子殿下の指名がないのは、お二人の成長を見て決められると、陛下が言われていただろう」
よくわからないことばかりを言う家庭教師の授業をさぼって抜け出した先で耳にした大人達の会話は難しかったが、つまりは兄は太陽神の加護がオーギュストよりも劣っているのだと知った。
国の頂点に立つ者は、神の加護がなければならない。
何よりも重要な決まりだと教えられている。
後日、家庭教師に尋ねたところ、やはり皇帝は加護が強い方が国が安定するという言い伝えがあるのだそうだ。
オーギュストのやる気をだすためだろうか。「目に見えて加護の力を感じるくらいに強い加護を授かっているのだから、殿下は皇帝の器です」という言葉により、自分は兄よりも皇帝に相応しいのだと、オーギュストは思うようになった。
以降、少しだけ勉学に身を入れるようになったが、とても兄には敵わなかった。
だが、オーギュストを皇帝にさせたい者は多くいる。
その者らの「自分たちにお任せください。障害は全て取り払います」という言葉を信じ、任せたものの、兄はしぶとかった。
自分でも計画を企ててみたものの、何をしてもうまくいかない。
ことごとく失敗する暗殺に、第一皇子は目には見えずとも太陽神の加護を深く授かっているのではないかとまで言われるようになった。
(これでは、まるで兄の方が太陽神に守られているようではないか)
結局、暗殺は成功せず、兄は皇帝となり、オーギュストは公爵として神官長の位を得た。
しかし、まだ諦めたわけではなかった。
兄に子ができなければ、皇帝の地位はオーギュストに回ってくる。
だから兄の妻に不妊の毒を盛った。
しかし、そうと分からぬよう人を介していたものの、すぐに気がつかれてしまい、調査が始まった。
これまでかと思ったものの、依頼者がわからぬようにとした工作はうまくいったようで、兄嫁の側に入り込んでいた手駒が排除され、嫌がらせをするのに不便になってしまったが、オーギュストの立場は守られた。
苛立ちをぶつけようと関係者を殺し、毒を見つけたという侍女を探したが、危険を感じたのか侍女は身を隠した後で、更に怒りが募った。
妻を娶るように言われたのはその頃だった。
力を無くした侯爵家に皇帝として支援するために縁組みが必要となり、婚姻を結ぶことになったのだ。
オーギュストのことは疑われているようだったが、皇族として婚姻できる年齢の者は他におらず、兄も苦渋の決断をしたのだろう。
「皇族としての勤めだ」
苦り切った顔で呼び出され、妻になる女と引き合わされた。
大切にするようにと言われたが、鼻で笑って聞いていたように思う。
妻ジェシカは、変わった女だった。
放置しているのに、実家にいた頃よりも遥かにまともな食事と扱いをされていると笑顔を向けてくる。
気がつけば、側に置くようになり、ジェシカの笑顔を見るのが何よりの楽しみとなっていた。
(……あいつに、皇帝の妻という、最高の地位を与えたい)
そんな風に、次第に考えるようになっていた。
だが、兄の元には甥のジークベルトが生まれている。
しかもその加護は、私のものより遥かに強いものを授かっているようだ。
これまで散々兄の命を狙ったことを警戒しているのか、ジークベルトへの警護はぬかりない。
だから、今までは手を出さなかった呪いに手を出した。
見つけだした呪術師からは、散々、失敗した時のリスクを解かれたが、構わなかった。
呪いはあえなく失敗し、返ってきた呪いで、片足が動かなくなった。
心配して泣くジェシカに、もう無茶をしないと誓わされた。
しかし、その後すぐにジェシカは命を落とすこととなった。
「なぜ、なぜ神は、私には、地位も、名誉も、幸せさえ与えないのだ――!」
加護を持たないジェシカにとって、呪いを返され瘴気をまとうオーギュスト自身が毒だったのだと言った愚かな呪術師は、その場で処分した。
「加護などではない。これは、太陽神の呪いの証だ――」
オーギュストはそう、固く信じるようになった。
「太陽神が私に背を向けるのなら、私も背を向けるだけだ。ジェシカを、なんとしても取り戻し、皇妃とする」
新たな呪術師を探すところから始め、満足行く術者に巡り会う頃には、気がつけば、兄は事故で死んでいた。
あれだけ命を狙っていたのに、何故今なのだというあっけないタイミングだった。
そうしてようやく見つけた呪術師が言うには、人を蘇らせるには、別の命が必要なのだという。
証明せよとやらせてみたが、呪術師がどこからか連れてきた者の命と、片目を贄に差し出したのに、ジェシカは蘇らなかった。
役立たずの呪術師に責任を取らせた後、ふと思いつく。
――太陽神に強く加護を与えられている甥ならば、役に立つかもしれない。
どうせ、甥も後々殺すのだ。
その命を役立たせようと、忌々しい太陽神の像を媒介に呪いをかけた。
呪いに即効性はないものの、じわじわとその命を削っていた。
順調だった。
もう、目的まで後わずかだったのだ。
なのに、何故このようなことになるのだろう。
甥が呼んだという聖女の浄化の光で、ジェシカの体が、灰となって崩れていく。
「うそだ……。うそ、だ――――!」
オーギュストは、ただその場に膝をつき、涙を流しながら灰になっていくジェシカをかき集めることしかできなかった。




