32.これからも推し活に邁進いたします!
伯父夫妻との対面のなかでフィーネにジークベルトとの婚約の話が出ていることを伝えると、伯父夫妻は帝国での後見になると申し出てくれた。
フィーネに聖女という肩書きがあった方が、立場が安定するという考えもあり、エルマーナ王国の聖女として嫁ぐことになったが、マイルズ伯爵の血縁であることは間違いないため、彼らの姪という立場は社交界に広めてもらえるそうだ。
オーギュスト公爵については、死ぬまで幽閉されることになった。
彼を処刑する案も出たそうだが、死を望んでいた公爵にとって、罪を償いながら生き続ける方が罰になるのではないかということらしい。
彼の余命が、もう長くはないというのもあるだろう。
長年人を呪い続けた結果、彼の体には聖女の魔術をもってしても決して癒えない傷がついている。
神殿も人事が刷新され、神官長はジークベルトの母方の親戚へと入れ替えられた。
風の便りでエルマーナ王国の神殿にも監査が入り、神官長が入れ替わり、聖女達にもそのあり方を今一度見直すようにという指導が入ったという話を聞いている。
ジークベルトが神殿でのフィーネの扱いを知って、あちらの王族を通じて働きかけてくれたようだ。
次の神官長は平民聖女にも平等に接する方のようで、もうフィーネのような思いをする聖女はいなくなるのだと思うと、心は晴れやかだ。
そうしてフィーネは結婚までの期間、婚約者教育はあるものの、相変わらず推し活や慈善活動を行っている。
今日も、フィーネは王宮のサロンでは推しぬい教室を開いていた。
作るのは、ぬいのお着替え用の服だ。
もうすぐ冬を迎えるため、皆、それぞれのぬいに似合うコートや冬服、防寒具などを作っている。
「フィーネ様は何を作っていらっしゃるのですか?」
「あっ、これは……」
フィーネは冬服ではなく、別の服を作っていた。
「まぁ! それはご結婚式のご衣装ですか!」
「ご結婚が近いですものね! ご結婚おめでとうございます!」
「お祝いに駆けつけますわ」
「ご成婚の日が楽しみですね」
「ぬい様も一緒にお祝いするなんて……! あぁ、私も結婚式をしていなかったら、真似させていただいたのに!」
作っていた物について言い当てられ、途端、サロンの中がわっと盛り上がる。
フィーネが作っていたのは、結婚式で用いられる男女の礼服だ。
ジークベルトの分も一緒に作っていた。
「皆様、ありがとうございます。これからも、仲良くしていただけると嬉しいです」
「もちろんですわ!」
「今後も推し活について色々教えてくださいませ」
そうして、終わりの時間になるとサロンの片付けをして、皆を見送った後、部屋へと戻る。
婚約者となったタイミングで、フィーネの部屋は客室からジークベルトの隣の部屋へと変わっていた。
途中、ふと思いついて、礼拝堂へと寄り道をした。
この礼拝堂の太陽神の神像をフィーネが殊の外気に入っていると知って、ジークベルトがいつでも好きな時に見られるよう出入りの許可をくれているのだ。
(ふぁぁぁぁぁ……! 今日も、本当に最高に麗しいお姿ね!)
心ゆくまで堪能し、祈りを捧げる。
そうして、ひとしきり祈った後、ふと思う。
推しの一柱である創世神は「すべての巡り合わせには意味がある」という教訓を、その神話で残している。
創世神は世界を生み出し、神々を生み出した後は、ただ見守ることが多いものの、彼の神話には挫折や失敗、不幸な出来事さえも、別の意味が隠れていることがあると示唆をするものばかりだ。
ただ、月の女神のように、わかりやすくヒントを与え人々を導くことはしない。
未来を選ぶのは、人であるべきだと考えておられるからだ。
(私が、エルマーナ王国で生まれ、聖女として生きてきたことに……、神々を推していたことにも、意味があったのかしら……)
両親を亡くし、神殿で辛い思いをしてきたが、それらの巡り合わせがなければジークベルトを助けることはできなかったかもしれない。
全てを知った上で、望んで同じ経験をしたいかと言われたら頷けないけれど、それでも全てが今に繋がっていると思うと、不思議な感じがしてくる。
そんなことを考えていると、不意に声がかかった。
「フィーネ、ここにいたのか」
「ジーク様、どうなさったのですか?」
婚約を結んで以来、愛称で呼ぶようにと言われている。
「サロンが終わって、部屋に帰ったと聞いたのだが、戻ってこなかったから探しにきたのだ」
「よくここにいるとお分かりでしたね」
「フィーネは、時間があればこちらへ来ているだろう」
そうだっただろうかと思い出すが、心当たりしかなかった。
ジークベルトはそんなフィーネを見て、自覚がなかったのかと笑みを浮かべている。
ふと、フィーネは気になったことを尋ねた。
「そういえば、陛下は、いつ私に好意を抱いてくださったのですか?」
「どうしたんだ、急に……」
「その、気になったので」
そんなフィーネに、ジークベルトは耳を赤くしながら言う。
「……この場所で、呪いが太陽神のものではないと言い切ってくれただろう。あの時だ」
「えっ――!?」
あの時のフィーネは推しのことで頭がいっぱいだったというのに、どこに好意を持つ要素があっただろう。
驚くフィーネに、ジークベルトは言う。
「フィーネは、真っ直ぐに神の在り方を信じ、自ら傷つくことを恐れることなく私に手を伸ばしてくれた。その姿に、私は救われたのだ」
惚れない方が無理だろう、と言われ真っ赤になったフィーネに、ジークベルトは微笑む。
「これからの人生を、フィーネが隣にいてくれると思うと、今までのことは全て太陽神の試練だったのかもしれないと思うことができそうだ」
「でしたら、その試練を乗り越えられたジーク様は、後は幸せになるしかないですね」
「フィーネも一緒にな」
目を瞬かせ息を呑むフィーネに、ジークベルトは手を差し出す。
「さて、そろそろ戻ろう。まだ元気があるなら庭に寄って帰らないか。珍しい花が咲いたそうなんだ」
「――喜んで」
そうして、差し出されたジークベルトの手に、フィーネも己の手を重ねるのだった。
こちらにて、完結いたします!
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