23.ジークベルトとのお茶会
お茶会から戻ると、フィーネはレガット伯爵令嬢の自宅へと訪問の手続きを進めた。
間にメイダー侯爵夫人が入ってくれたこともあり、お茶会の数日後には訪問することができた。
無事に治療が終わると、レガット伯爵家からだけではなく、メイダー侯爵夫人からもお礼状と贈り物が届いた。
メイダー侯爵夫人からは、お礼の代わりにとオーギュスト公爵について教えてもらったが、それ以上の働きだと思ってもらえたようだ。
レガット伯爵夫人の病をフィーネが治療したという話が広まったのか、それ以後、貴族からの依頼が増えた。
怒濤のように寄せられた手紙になんとか対応し、一段落ついたところで、ジークベルトからお茶に誘われた。
部屋に迎えにきてくれたジークベルトにエスコートされ、中庭へと向かう。
「今日は天気がいいから、中庭の方に席を準備している。フィーネが気に入るといいが」
「楽しみです」
そんな会話をしながら庭の東屋へと向かった。
香りのよいお茶を侍女が目の前で淹れてくれて、可愛らしく美味しそうなお菓子が並べられていく。
「こちらを全部いただいてよろしいのですか?」
「もちろん。まだ好みがわからないから、色々揃えさせたんだ。好きなのを選ぶといい」
侍女に食べたい物を伝えると、皿に取り分けてもらえた。
「プチシュークリームと、苺のタルトでございます」
「うわぁ! 食べるのがもったいないくらい、かわいいですね!」
「ありがとうございます。シェフにフィーネ様が喜んでおられたとお伝えいたします。あちらの、桃のゼリーもおすすめでございます」
侍女は嬉しそうに教えてくれる。
「では、こちらを食べたら、そのゼリーもいただきます!」
フィーネの言葉に頷いて侍女が下がると、シュークリームを一つ口にする。
「これ……! なんて美味しいの!」
驚きで、シュークリームを見つめる。
聖女であった時は、神殿の聖女へと甘味の差し入れをもらうこともあった。
しかしそういう時は貴族聖女から、好みのお菓子を取っていく。
フィーネに甘味が回ってくること自体が少なく、そういう時もクッキーやラスクなど日持ちするお菓子が中心で、今回用意してもらったようなお菓子は食べたことがなかった。
「フィーネは甘い物が好きなのだな」
目を閉じて味わっていると、ジークベルトが和やかな声で言う。
慌ててそちらを見ると、彼は優しげな微笑みを浮かべていた。
「お恥ずかしいところをお見せしました」
「いや。こんなに喜んでもらえて嬉しいよ」
シュークリームを食べ終わったが、このままイチゴのタルトを食べてしまってもいいだろうか。
(なんだか、今日は一生分の贅沢をしているようだわ……!)
艶やかなイチゴが乗ったタルトは宝石のようで、口をつけるのがもったいないくらいだ。
十分に眺めた後、フォークを進める。
もちろんこちらも絶品だった。
結果的に侍女がおすすめしてくれた桃のゼリーまでいただいてしまったところで、そういえばとフィーネはカレンに預けた物を持って来てもらった。
「町の人々だけではなく、貴族の病にも対応してくれていると聞いた。感謝する。ただ、この国の医師でも充分対応できる病でさえフィーネを呼ぼうとする者が多かったため、少々口を挟ませてもらった」
最初は数多く寄せられていた依頼が、ある時から急に本当に聖女でなければ治療ができない人に減っていった。
それはジークベルトのおかげだったのか。
「陛下が手を回してくださったのですね。感謝いたします。今日は、それをお伝えくださるために……?」
「朝晩、顔を合わせる機会はあるとはいえ、なかなかゆっくり話をする時間をとれなかったからな。それと、もう一つ話がある」
どのような用件だろうと尋ねたフィーネに、ジークベルトは言う。
「以前、見せてもらったフィーネの母君の形見のネックレスが贈られた経緯と、母君の生家がわかった。フィーネの母君は、帝国に属するマイルズ伯爵家のご出身だ」
「母は、貴族の出身だったのですね……」
肖像画に描かれるような由緒ある宝石を持っていたのだ。
貴族かもしれないとは思っていたが、実際そうだったと話を聞くと、衝撃は大きい。
確かに、朧気に記憶にある母は所作なども美しかった。
ジークベルトが補足してくれたところによると、マイルズ伯爵家は、古い血筋を持ち、帝国の南の地方を治める家なのだそうだ。
先日の夜会にも来ていたそうだが、公爵位や侯爵位の貴族の挨拶を受けるのに手一杯で直接顔を合わせてはいない。
「フィーネの母君は、私の母の侍女をしていたらしい。そこで、功績を立て、そのネックレスを下賜されたそうだ」
そうして、当時の話を、ジークベルトが話しだした。




