21.お茶会の招待状
夜会の後。
フィーネの元には貴族からお茶会のお誘いが届くようになった。
今までは声をかけていいか、貴族達も判断を迷っていたようだ。
夜会でジークベルトに恩人として紹介されたから、興味を持たれたのかもしれない。
ジークベルトからは放置していいと言われていたが、流石にそんなことはできなかった。
(それに、陛下の呪いが解けるまではこちらでお世話になるのだし……)
呪いが解ければ、フィーネもエルマーナ王国に帰ることになるだろう。
死んで来いと言われて国を出されたけれど、ジークベルトの呪いが解けた後は帝国に残る理由もなく、他に行く場所もない。
(神殿での暮らしが嫌いなわけではないのだけれど……)
フィーネは推し活があれば、どこででも楽しく生きていけると思っていた。
けれど、今はもうそれだけで幸せとは思えなくなってしまったのだ。
フィーネの心は、ジークベルトの隣で生きたいのだと訴えている。
はっきりと自覚したのは、夜会の時だ。
でも、振り返ると、ずいぶん前から気持ちが育っていた気がする。
ジークベルトは呪いのせいで孤独に過ごすことを強制されながらも、誰も恨んだ様子を見せず、ただ国のためにとその身を削っていた。
その姿は、知れば知るほど手を差し伸べたくなるのだ。
それに何より、慈善活動で宮殿の外に出たとき、帰りが遅れたことを心配して迎えに来てくれた姿が忘れられない。
(あんな風に誰かに心配されたことなんて、ずっとなかったから……)
忘れていた温もりをそこに感じてしまっただけなのかもしれない。
でも、傾いてしまった気持ちは、もう戻しようがなかった。
ただ、夜会で血筋も確かで美しい令嬢達がジークベルトにアピールする姿を見た後では、自分が皇帝である彼に相応しいとは思えない。
だから気持ちを伝えるつもりはなかった。
(陛下はこの国でお立場がある。きっと相応しい方を選ばれるわ……。私は、ここでの陛下との思い出があれば生きていける)
ジークベルトに推しの神絵を見せてもらったり、カレン達との推し活で、一生分の楽しいことは経験したはずだ。
(月の女神様も、たとえ実らないとしても、恋する気持ちを大事にしなさいと言われていたし……)
神話には、恋する相手のためにその身を犠牲にした若者の魂があまりに美しく、死した若者の魂を星座として天に招いたという話もある。
その神話をなぞるつもりはないが、ジークベルトにとってはフィーネの気持ちは知る必要がないことだ。
だから何も告げず、生まれた気持ちは胸にしまい、思い出として生きていくことに決めたのだ。
「――本当にすごい数のご招待ですね。仕分けのお手伝いをいたしましょうか」
招待状を見て黙り込んだフィーネに気を遣ってか、カレンが言う。
その言葉に現実に引き戻され、フィーネは目を通した招待状を彼女に渡した。
「そうですね……。私だけではわからないのでお願いします。こちらの中に、招待を受けた方がいいお招きはありますか?」
カレンは少し考えて、一通の招待状を手に取る。
「お名前を拝見する限り、メイダー侯爵夫人のお茶会でしょうか。夫人はこの帝国の社交界で一番影響力を持っていらっしゃる方ですから。用もないのにご招待される方ではないですし、一度、顔を出されてみた方がよろしいかもしれません」
そうしてカレンは帝国社交界の状況を教えてくれた。
本来であれば、前皇帝夫妻が亡くなった後、帝国社交界は前皇帝の弟であるオーギュスト公爵夫人が牽引するべきところだが、公爵は社交に出ず、公爵夫人も既に亡くなっている。
そのため、メイダー侯爵夫人が、その手腕で社交界をまとめ上げ、牽引しているようだ。
(そんな方が、どうして声をかけてくださったのかしら……? でも、社交界に詳しい方なら、オーギュスト公爵についても何かご存知かもしれない)
夜会で聞いた話が、無性に気になるのだ。
帝国の貴族のことを学ぶようにとつけたれた家庭教師が公爵についてどうして簡単な話しかしなかったのかはわからないが、知らない方がいいと思われているかもしれない話をカレンにも聞きづらい。
お茶会の日程は三日後だ。
フィーネはその日までそわそわと過ごすのだった。




