19.夜会2
夜会が始まると、ジークベルトとフィーネに挨拶をしようと高位貴族が列をなした。
挨拶を受けていくが当主夫妻だけではなく、妙齢の娘を連れてくる人が多い。
ジークベルトはその全てに無関心を貫いていたが、彼女達は婚約者候補なのだろう。
(陛下は結婚される必要があるから当然のこと、よね……。なんでモヤっとするの……?)
彼女達は、ジークベルトと揃いの衣装に身を包んだフィーネを見て、ひるむものや嫉妬の視線を向けてくる者、嬉しげに微笑む者と様々だ。
(陛下の幸せのために応援するのが、私がやることなんじゃない……?)
そんなことを考えていると、一組の夫婦がやってきた。
男性は四十代くらいだろうか。
連れている妻はジークベルトと同じくらいの年齢に見える。
そこまで年齢差がある夫婦は少ないとはいえ、貴族ではたまに見かける。
違和感なく、フィーネはジークベルトと共に挨拶を受ける。
「陛下が元気を取り戻されて、本当に喜ばしく思います。臣下として、ご回復を心よりお喜び申し上げます」
「祝いの言葉、感謝する、クラッセン侯爵」
ジークベルトから聞いた名前に、はっとする。
侯爵夫人は彼の元婚約者だ。
「陛下のおかげで、よき妻を得られました。陛下におかれましては、思うことがおありかもしれませんが……」
心配げに口にする侯爵にジークベルトは穏やかに笑みを浮かべる。
「当時のことは、お互い納得してのことだ。わだかまりはない。心から夫妻の幸せを祈っている」
「感謝いたします」
ほっとしたような表情を浮かべる侯爵に対し、侯爵夫人が潤んだ瞳でジークベルトを見つめているのが気になった。
(婚約解消後、前妻を亡くされた方へお嫁入りなさったのよね……)
家庭教師から聞いた話を思い出す。
クラッセン侯爵は出産時に、妻と生まれてくるはずだった子を同時に亡くされたのだそうだ。
喪が明け、侯爵が妻を探しているところで、ジークベルトとの婚約解消を行った現侯爵夫人――エリーゼとの婚約が決まったと聞いた。
当時のジークベルトは、何をやっても体調が良くなる様子もなく、このまま儚くなるのではないかと思われていた。
婚約した状態でジークベルトが亡くなって、その後嫁ぎ先を探すとなると、相手が見つかるかどうかすらわからない。
高位貴族との婚姻ができるのならばと、婚約解消を選んだのも頷ける。
ただ、まだジークベルトに未練がありそうなエリーゼの表情を見ると、彼女ではなく、家の判断であったのかもしれない。
(夫人は、まだ陛下にお心を残されているのかしら……)
ジークベルトが呪いに倒れなければ、今頃はエリーゼと結婚していたのだ。
呪いに倒れてからの三年という月日を思えば、子供だって生まれていたかもしれない。
そう思うと、先程までの婚約者候補の女性達を見ていた時以上に胸が痛んだ。
(なんでこんなに胸が苦しくなるの……?)
推しの幸せを応援するのが、フィーネにとっての推し活だ。
ジークベルトはこの国の皇帝であり、呪いが完全に解けた後は、誰かと結婚を決めるだろう。
それは、先程挨拶をした誰かかもしれない。
なのに、そのことを考えただけで、涙がにじみそうになる。
(まさか、私、陛下のことが好き、なの……?)
ようやく気がついたその思いに戸惑っている間に、侯爵夫妻は立ち去っていた。




