18.夜会
そうして、夜会に向けての準備や、奉仕活動、推し活に邁進していると、あっという間に夜会の日がやってきた。
朝早くから、少量のパンと水を口にしただけで、時間いっぱい使って磨き上げられる。
(夜会に出るって、とんでもなく大変なのね……)
神殿にいた頃、貴族出身の聖女達が夜会の翌日はぐったりしていたのが思い出される。
当時のフィーネには大変さがわからなかったが、一日がかりで支度をした後、夜遅くまで夜会に出るのだ。翌日に響くのは頷けた。
(でも、綺麗に装ってもらえるのって、なんだか嬉しい……。まるで自分じゃないみたい)
鏡に映るフィーネは、金細工の髪飾りを付け、青いドレスを身につけている。
どちらもジークベルトから贈られたものだ。
カレンの手で化粧も施され、鏡に映る自分の顔はまるで別人のようだ。
「いかがでしょうか?」
「とても素敵です……。こんなに綺麗にしていただき、皆様、ありがとうございます」
「フィーネ様がもともとお美しいからです。夜会、楽しまれて来てください」
最後に、もう一度夜会での注意点などを確認してもらっていると、ジークベルトが迎えに来た。
「フィーネ、迎えに来た。支度は調ったか?」
「皆様に手伝っていただいたので、つつがなく。陛下、素晴らしいドレスを贈っていただき、ありがとうございました」
何も反応がないジークベルトに首を傾ける。
「――す、すまない。フィーネがあまりにも綺麗で、言葉が出なかった。本当に、美しい」
「……あ、ありがとうございます」
うっとりとした眼差しで見つめられ、なんだか心の奥がそわそわする。
「陛下もとても素敵です」
「フィーネにそう言われると嬉しいな」
ジークベルトもフィーネと同じ青色の生地に金糸で刺繍の施されたジャストコールで、揃いで仕立てたものだと一目で分かる。
真っ赤になったフィーネにジークベルトは手を差し出す。
「慣れない中、準備を頑張ってくれて感謝する。私もできるだけのフォローはするつもりだ。今日は安心して、楽しんでほしい」
「頑張ります」
そんな話をしながら、会場へと向かった。
夜会の行われる大広間では、きらびやかに着飾った男女がフィーネ達を出迎えるために膝を折り、視線を下げて待っていた。
(すごい人……。帝国は大きい国だと知っていたけれど、貴族の数も多いのね……)
ひるみそうになるが、隣を歩くジークベルトが気遣うようにフィーネを見ていて、大丈夫だと頷いてみせる。
(陛下も側にいてくれる。それに、沢山練習してきたのだし)
だから、この夜会を乗り切ろうと気合いを入れる。
所定の位置に立ったところで、ジークベルトが言う。
「面を上げよ。本日は、よく来てくれた」
貴族達の視線は、単純に尊敬の眼差しから、フィーネを興味本位で見つめるものまで様々だ。
そんな視線に気が付いたのだろう。
ジークベルトが言う。
「長い間このような催しを開くことができず、皆には随分心配をかけた。今日は存分に楽しんでいってほしい。また、私が死の淵から生還し、この場に立つことができているのは、全てここにいるフィーネのおかげだ」
会場中の視線を浴びて、一礼する。
「彼女は私の恩人だ。彼女へは、私に対するものと同等の敬意を払ってほしい」
そうして、夜会が始まった。
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