17.夜会準備
翌日から早速、夜会のマナーの教師が遣わされた。
「フィーネ様は、所作の基礎はできておられます。少々ご指摘はさせていただきましたが、後は堂々と立ち振る舞われることが何より大事かと」
神殿で聖女は、貴族や、場合によっては王族の治療を求められる可能性があるため、厳しく礼儀作法を教えられていた。
フィーネ自身も「女神様ならどんな風に振る舞われるだろうか」なんて考えて研究したりもしていたので、神殿内でも所作で怒られたことはない。
(これも推し活のおかげね……!)
基本は問題ないからと、あとは王国と帝国で違うルールがないかの確認を重点的に行っていった。
問題は、夜会の華とも言われるダンスである。
(ス、ステップが難し過ぎる……!)
遣わされたのは女性の教師だが、男性のステップも習熟しているからと、ステップを覚えた後はもっぱら彼女と踊っている。
帝国の夜会のしきたりで、皇帝が必ず一曲は踊る必要があるのだという。
そのため、パートナーであるフィーネも練習に励んでいた。
しかしあまりうまくいっておらず、つい弱音が零れる。
「メイリーン先生……。私、踊れるようになるでしょうか」
「一番簡単なステップで一曲だけなので大丈夫です。きっと本番までにはフィーネ様も踊れるようになられます」
「ほ、本当ですか……!」
「はい! きっと……! お、おそらく……!」
何度踊っても音楽からずれていくステップに、リズム感がないのかもしれないと思ってしまう。
正直に言って出来が悪い生徒だとは思うが、メイリーンは投げ出すことなく何度でも付き合ってくれる。
頑張っているのに上達が見られない。
そんなある日のことだった。
いつも通りにメイリーンと練習をしていると、ジークベルトが顔を出した。
「陛下、どうしてこちらに……?」
「本番は私と踊るのだし、私も練習に付き合おうと思ってな」
「まだ陛下と踊れるほどに上達しておりません……」
「足を踏もうが、何をしようが、フィーネであれば気にしない。それより、相手に慣れておくことも大事だと思うぞ」
「そうです! フィーネ様。是非、陛下とご一曲踊られてみてください」
ジークベルトの言葉に、メイリーンも頷いている。
「で、では。よろしくお願いします」
差し出された手に、自分の手を重ねる。
剣も扱うからだろう。
固く、筋張った手は、フィーネのものよりも大きく、あたたかい。
(な、なんだか気恥ずかしいのだけど……! 陛下が推しになってしまったせいかしら……?)
浄化の際に触れるのには気にならないのに、なんで、こんなに心臓がドキドキするのだろう。
頬を上気させたフィーネに、ジークベルトが言う。
「うまく踊ろうとしなくていい。音楽を感じるだけで十分だ。後は私がフォローする」
頷くと、演奏が始まった。
(あ、あれ……? 踊れている……?)
いつもであれば、振り付けが大ぶりになってリズムに遅れ、崩れていく。
そんな場所でも、ジークベルトのフォローで、なんとか見られるようになっている気がする。
(それに、いつもより踊りやすい……)
そう感じるのは、それだけ彼がフィーネに気を遣ってくれているのだろう。
ジークベルトを見上げると、視線が合う。
「少し余裕が出てきたな」
「は、はい……!」
微笑まれ、さらに鼓動が早まった気がした。
けれど、その理由を深く考えている場合ではない。
折角忙しい合間を縫って、ジークベルトも手伝ってくれているのだ。
踊るのに集中しなければ失礼だろうと、フィーネは気合いを入れた。
気がつくと、一曲が終わっていた。
「私、踊れたみたい、ですね……!」
「聞いていたより、遥かに踊れていたではないか!」
「陛下のおかげです!」
その後も何度か練習を行うと、コツを掴んだのかメイリーン相手でもかろうじて踊れるようになったのだった。




