15.ぬい活教室も始めます
ジークベルトとも話し合った結果、フィーネの慈善活動は、週に二、三度、午前か午後のみと時間を区切って行われることになった。
当日は、何時からと決められた時間に整理券を配り、配布する整理券がなくなれば、次回以降に改めて並んでもらうという方式だ。
整理券には大体の目安時間が書いてあるので、整理券をもらった人はその時間に来てもらう。
やり方を変えたのは、待つ人に対してもよかったかもしれない。
並んで待っていた人も体調が悪いのに、広場まで列ができると、雨ざらし、吹きさらしのなかで長時間待つことになるからだ。
早速、運用が開始されたが、今のところはうまくいっている。
そうして、慈善活動も軌道に乗ってきたある日。
皇宮のサロンで、以前カレンが提案してくれた他の侍女に向けた推し活教室を開くことになった。
参加者は五名。
フィーネの教室開催の話が広まるにつれ、参加したいと申し出てくれた人も増えていったが、参加希望者が最終的に十名を超えてしまい、今回は最初にカレンに聞いて参加を表明してくれた五名のみということにした。
フィーネとしても一度に多くの人に教えた経験がない。満足のいく教室にするためということで、納得してもらっている。
また、今回、参加を申し出てくれた人の中にはうちわのグッズ作成教室も開いてほしいという人もいたので、うちわを作る教室も別で開催することになっている。
今日の反応がよければ、どちらも定期開催していくことになるだろう。
「皆様、お集まりくださりありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
フィーネの言葉に、皆が挨拶をしていく。
今日は、カレンの同僚が集まっているので、参加者同士は顔見知りのようだ。
なごやかな雰囲気でほっとする。
「まず、本日作成するぬいですが、完成イメージはこちらです。こちらは、私の推しの一人、太陽神様です」
フィーネが掲げたぬいは、説明するまでは皇帝に見えていたようで、皆がざわつく。
手のひらに乗るくらいの大きさが作りやすいので、そのサイズの型紙を持ってきている。
「作り方はそれなりに複雑ですが、推しのために頑張りましょう! 手順を簡単に説明すると、型紙を作った後、お顔と体を作ります。また、お洋服も別に準備します。こちらが、太陽神様のぬいを作った時の型紙です。目の形などを変えたら、共通で使える部分は多いので、こちらを参考にしてください」
型紙に使うための紙も全員分持ってきている。
「もちろん、独自で型紙を起こしていただいてかまいません。大事なのは髪色や瞳の色を、できるだけ推し――皆様の婚約者様に似せていただくことです! それだけで、完成度が上がります! では、皆様、頑張りましょう!」
皆が頷き、作業に入った。
「どうしましょう。婚約者様のお顔がうまく表現できませんわ」
「絵師を呼ぼうかしら……。いえ、でも、自分の手で完成させないと……!」
「まぁ! カレン様、お上手ですわ!」
「フィーネ様、コツはございませんの? 私にも教えてくださいませ」
そんな感じで賑やかに進んでいく。
(みんな、一生懸命ね。それに、カレンの侍女仲間とはいえ貴族のご令嬢がやって来るって聞いて身構えていたけど、みんないい人みたい)
カレンが、そういう人を集めてくれたのかもしれない。
聞いたところによると刺繍サロンなどの手芸系サロンでは、作業よりもおしゃべりに花が咲くことが多いと聞くが、今回はそれどころではないようだ。
時々フィーネに質問が来るくらいで、真剣に作業を進めている。
(今日はお顔の刺繍まで進められたらいいな)
始まる前はそんな風に思っていたのに、フィーネは他の参加者から遅れて、まだようやく型紙を仕上げたところだ。
フィーネ以外は全員お顔を作り終わり、髪型を作る作業に入っている。
(太陽神様の型紙を流用しようと思っていたのに、改めて考えると細かいところが太陽神様と違うもの。陛下らしさを出すには……やっぱり強い意志を感じつつ、にじみでる優しさを表現したいから……)
そんなことを考えて微調整をしていく。
そうして、やっと納得のいくものに仕上がって、刺繍を始めようと針に金色の糸を通した時だった。
今日の参加者の一人、クロス子爵家のシャルロットから、控えめに呼び止められた。
「あの、フィーネ様」
「どうしましたか。シャルロット様」
彼女のぬいは順調で、髪の縫い付けまで進んでいる。
何か問題があるようにも見えなかった。
シャルロットは声を落として言う。
「実は、こちらをぬいに使えないかと思いまして持ってきたのですが……。使えそうになくて。何かいいアイディアはございますか?」
手のひらにのせられたのは、色とりどりの魔石だ。
フィーネの爪くらいの大きさで、カッティングもされ、窓から差し込む光にキラキラ輝いている。
「……魔石ですか? こちら、どうなさったのですか?」
「領地で採れるのです。帝国内ではこれと同じ物でもっと質の良い魔石が採れる場所があり、うちの家の物はあまり売れていないんです。何かに使えればと思って持ってきたのですが、私には何も思いつかず……」
シャルロットはそう言って、フィーネの手に魔石を乗せてくれる。
(あら、これ……)
なんとなく馴染みのある感覚に、じっくり見つめる。
(やっぱり……。この石、神殿で作っていた『聖女の加護石』に使われていた物と同じだわ! 色が付いているところが違うけれど……、他は変わらないみたいね)
『聖女の加護石』は、聖女が魔術を込めた魔石として神殿が販売しているものだ。
色は透明で、治癒魔術や障壁魔術など、人々が必要とする魔術が込められている。
治癒魔術は軽い風邪や、擦り傷程度の傷を癒し、障壁魔術は旅行者のお守りとして人気で、魔獣の攻撃一回分を防ぐ効力がある。
中に込められた魔術を使えば石が割れてしまうので、毎日結構な数が売れていた。
神殿の財源の一つでもあった。
色とりどりの石達を眺めていると思いつくことがあり、シャルロットに尋ねる。
「あの、一つお借りしてもよろしいですか?」
「はい! お好きなものをどうぞもらわれてください。何か思いつかれたのですか?」
「まずは試してからになります……。うまくいくかわからないので、シャルロット様は作業を進められてください」
そうして、青い色の石を選び、材料として用意してもらっていた銀色の紐を手に取る。
「これを、こうして……」
石を包み込むように紐を編み、最後、石に合わせて編み目を閉じる。
そして、余った紐をネックレス状にして、ぬいの側に並べる。
(うん、大きさもいいみたい)
フィーネが何をするか気になっていたのだろう。
シャルロットが、フィーネの様子を見て声を掛ける。
「もう、出来上がられたのですか?」
「はい。このようなぬい用のネックレスを作るのはいかがでしょうか」
「とても素敵ですね! ぬい用のアクセサリーなんて思いつきませんでした! ぬいと、自分の色のアクセサリーを合わせるなんて、ロマンチックですし、恋が叶いそうです」
「あっ……!」
言われて気が付き、フィーネは頬を染める。
無意識に自分の瞳と髪の色を選んでいた。
だが、シャルロットはフィーネの動揺に気が付いていないようだ。
ほっとしつつ、平静を装って口を開く。
「き、気に入っていただけたのなら、こちらの作り方もお教えしますね!」
「感謝いたします。あっ、皆様も、どうぞ好きな石をお選びください」
「シャルロット様、フィーネ様、ありがとうございます」
「嬉しいです」
口々に言う侍女達に、シャルロットも嬉しそうだ。
そうして、作業を続けていると、あっという間に、時間となってしまった。
「そろそろ片付けの時間のようです。残りは個人で進めていただいて大丈夫ですし、わからないことがあれば聞きに来てください。次回も開催しますので、その時に聞きに来ていただいても大丈夫です」
「わかりました!」
そんなことを話していた時だった。
「邪魔をする」
「陛下!?」
全員が、さっとその場で礼を取る。
やってきたのは、ジークベルトだった。
「楽にしていい。フィーネがそろそろ部屋に帰る頃だと聞いたから顔を出したのだが……。少し早かったようだな。控えの間で待たせてもらおう。フィーネ、終わったら声をかけてくれ」
ジークベルトはわざわざ時間が空いたからと様子を見に来てくれたようだ。
胸がドキリと鳴る。
慈善活動に出た日、ジークベルトが心配して迎えに来てくれた時から、フィーネの心臓は、おかしくなっていた。
(陛下はもともと太陽神様みたいと思っていたけど、最近特にきらめいて見えてしまうわ……)
そんな風に戸惑っている横で、他の令嬢達の声なき悲鳴が聞こえる。
(ともかく、陛下をあまりお待たせしないように、お片付けをしないと)
道具に手を伸ばすと、シャルロットが言う。
「フィーネ様、私達は大丈夫ですわ」
「そうです! 陛下をお待たせしてはいけません!」
「またよろしくお願いします」
他の令嬢も頷いている。
確かに、皇帝を待たせて片付けをするなど、皆も気が気でないだろう。
「……そうですね。お言葉に甘えさせていただき、少し早いですが、私はこちらで失礼させていただきます。皆様。本日は来ていただきありがとうございました」
令嬢達にキラキラした瞳で見送られ、部屋を後にするのだった。




