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生け贄聖女は推し活したい~呪われた皇帝のために「死んでこい」と言われましたが、推しを愛でられるならかまいません!~  作者: 乙原 ゆん


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14.慈善活動

 公開演習翌日。

 フィーネのもとにやってきたカレンは、一目見てわかる程に浮かれていた。


(ミットフォート卿と、何か進展があったのかしら……?)


 聞いていいものだろうか。

 どうしようと思っていると、カレンは興奮した様子でフィーネに言う。


「フィーネ様! 昨日はありがとうございました! あのうちわのおかげで、ウィル様と沢山お話ができました!」


 あの後、さらに終業後にも話はできたのだろうか。

 そう思って尋ねると、カレンは頷く。


「そうです! エスコートしてくださった時に、終業後にご飯をと誘ってくださったのです。こんなこと初めてです! しかも、うちわと同じように『ウィル様』って呼んでいいって……。今日も、また仕事が終わったら迎えに来てくださるんです」


 赤く染まった頬を押さえるカレンは、フィーネから見ても可愛らしい。

 フィーネも自然と微笑みが浮かぶ。


「推し活の知識が役に立って、よかったです!」


 カレンはハッとして表情を引き締めると、フィーネを見る。


「そのことで、フィーネ様にお願いがあるんです」

「……何でしょう?」

「フィーネ様にしかできないことです。実は今朝、私があまりに浮かれていたせいで、侍女仲間が推し活に興味を持ったみたいなんです。それで、私の時みたいにまた、推し活グッズを作る教室を開いていただけませんか?」


 その申し出は意外だったが、とても嬉しい。

 フィーネは笑顔で頷いた。

 しかし、カレンにはまだ不安があるようだ。

 ためらいがちに続ける。


「……フィーネ様。それはうちわ以外でも可能ですか?」

「もちろんです! でも、どうしてですか?」

「今回、フィーネ様の推し活教室を希望している侍女の中には、婚約者が文官の者がいるんです。なので、うちわは使い時がないかと思いまして」

「なるほど! 確かにそうですね。なら、今度はうちわ以外のグッズを作る教室にしましょう!」


 そう言うとカレンも嬉しげな様子だ。


「何を作られるのですか?」

「そうですね。折角だし、ぬいはどうでしょう?」

「ぬいというと、フィーネ様が飾られている、あの?」


 カレンの視線が三神のぬいの方に向かう。


「そうです! 材料の手配はカレンさんに頼んでもいいですか? こちら、素材は普通のぬいぐるみと一緒なので、布と糸、中に詰める綿があったら大丈夫です! あ、でも、こだわりがある人は、使いたい布を持ってきてもらった方がいいかもしれないですね」

「わかりました。フィーネ様の分も含めて、準備はお任せください!」

「え? 私の推しぬいはあちらに……」


 祭壇の方を見るが、カレンは首を振る。


「あちらは陛下のぬいではありませんよね。折角ですから、フィーネ様も陛下のぬいを一緒に作りましょう! 材料は最高級のものをご準備いたします! それに一緒に作っていただいた方が、私達もわかりやすいですし」

「そ、そうですか? だったら、私も作りますね」

「はい! では、日程の調整をいたします」


 カレンは嬉しげに手配に向かった。



 その数日後。

 フィーネは宮殿を出て、帝都の町へと来ていた。

 ようやく、慈善活動の準備が整ったのだ。


(太陽神様が祝福を与えてくれていそうな、いい天気ね……!)


 雨のなか怪我人や病人に並んでもらうのは厳しいだろうと、雨天の場合は延期となっていたため、晴れ渡った空を見ると推しに応援されているようだと思う。


 活動を行う広場に到着するまでは、スケジュール通りに進んでいる。

 手早く最後の準備を進めていると、外の様子を見に行っていたカレンが、顔色を青くして戻ってきた。


「フィーネ様、既に順番待ちの行列が出来ているようです……!」


 フィーネもテントの端からこっそり窺うと、帝都の治安を守る騎士が列を整理してくれていて、かなりの列ができていた。

 皆、具合が悪い様子なのに順番を守ってくれている。


「えっ、本当ですね。時間前ですが、もう始めましょうか」


 カレンと、テントの中で護衛につく騎士が頷いたところで、外に出る。


「皆様、お待たせしました。エルマーナ王国から来ました、聖女のフィーネと申します。これから一人一人、治療を行っていきますので、順番を守ってお待ちください」


 早速治癒魔術を希望する人を呼んでもらう。

 一人目の患者は足首を骨折しているのか、騎士に支えてもらいながらやってきた。

 注意して見ると、左足首が赤黒く腫れている。


「ほ、本日は、よろしくお願い、しますっ!」

「そんなに緊張なさらなくて大丈夫ですよ。話しやすいように話してください。本日はいかがなさいましたか?」

「ほんだ、ありがたく。足をお願いしますだ。工事現場の階段で転げて、医者には見せる金がなくて、そのまんまにしてたが、腫れが引かなくて困ってるで」

「わかりました。一度、状態確認の魔術を使った後、治癒魔術をおかけしますね」


 そう言って、体の状態を確認して患部に治癒魔術をかける。


「これで、大丈夫です」

「いっ、……痛くねぇ!? 足も腫れが引いてるだ!?」

「本日一日は、できたら動かさないようにされてください。魔術で治癒能力を上げて直しているので、無理をすると痛みが出ることがあります。あと、今日はとてもお腹がすくと思うので、たくさん食べてください」

「わ、わかっただ! あ、ありがとうございました、ですだ!」


 一人目の男性が、並んでいた時と打って変わってしっかりと自分の足で歩いていく様子に、待っている人からどよめきが上がる。


 二人目がすぐに通され、フィーネはまた一人目と同じように対応するのだった。


 昼休憩を挟むことなく魔術をかけていくが、治癒魔術をかけられた人が帰ってから話をしているのか、列は長くなるばかりだ。

 騎士が途中で気づいて本日はこれ以上は並べないと言ってくれている様子だが、残念そうに帰っていく人は多い。


 そうして、並んでいた人全員に治癒魔術をかけ終わることができたのは、日が完全に落ちてからだった。

 途中、切り上げて帰ろうと言った護衛の言葉を断ってしまったからだが、後悔はない。


(噂を集めるどころではなかったけど……。こんなに期待されているのなら、次もできるだけ早く開きたいわ)


 ただ、考えていた以上に遅くなってしまったので、帰ったらジークベルトに何か言われるかもしれないのが少し心配だ。


(いえ、危険なことはしていないし、無茶もしていないから、大丈夫よね。終わったと思ったら、お腹が減ってきた……)


 気が付いた時には、この時間だった。

 エルマーナ王国にいた頃は、今日のように治癒魔術を必要とする人が多かったり、貴族の家に出かけていて昼ご飯を抜くことも多くあった。


(今日の人達はみんな嬉しそうにお礼を言ってくれて、私も嬉しかったな……)


 そんな風に思いながら、護衛の騎士に促され馬車に乗ろうとしていた時だった。


「フィーネ!」


 聞こえるはずのない声に、振り返る。


「え、陛下!?」


 広場の入り口に、馬に乗ったジークベルトの姿が見える。

 その場にいた騎士に馬を預けると、ジークベルトは一目散にフィーネのところにやってきた。


「無事でよかった。連絡は受けていたが、あまりにも帰りが遅いから、やはり何かあったのかと……。心配した」


 ジークベルトの顔色は悪く、心からフィーネを心配してくれていたのが伝わってくる。


(あ、違うわ。私が倒れたりしたら、陛下の瘴気の浄化をする者がいないから……)


 そう思って、フィーネは言う。


「も、申し訳ありません……。明日の陛下の浄化には、影響はありませんのでご安心ください」

「そのような意味ではない。フィーネは帝国に来てから一日も欠かさず浄化をしてくれたのだ。一日、二日、浄化を受けなかったところで、私に大した影響も出まい。三年、耐えたのだ。今更そこは気にしない」

「え……? では、どうして……?」

「事故や事件に巻き込まれたのかもしれないと思ったからだ。フィーネが無事で、本当によかった」


 心底ほっとしたように言うジークベルトに、フィーネは固まる。

 そんな風に心配をされたのは、神殿に入る前、両親が生きていた頃以来だろうか。


(そんな風に私を心配してくれていたんだ……。なんだか、胸が……あたたかい……)


 本心で伝えてくれているというのは、表情や雰囲気から伝わってくる。

 そのことが、どうしようもなく嬉しい。

 ただ、心配をかけたのに頬を緩ませれば、ジークベルトに失礼だろう。


「今度からは、気を付けます」


 気を引き締めながら口にしたフィーネを安心させるようにジークベルトは頷く。


「私も、フィーネの行動を制限したいわけではない。……ただ、今後は少しやり方を考える必要があるかもしれないな」


 そうして、今日の警備を行っていた騎士に、ジークベルトは尋ねる。


「今日はどれくらいの人数が来ていたのだ?」

「百人以上いらっしゃっていました」


 町の人の順番を整理していた騎士が口にする。

 そんな人数を治療していたのかと、一々魔術をかける人の数を数えていなかったフィーネは驚き、ジークベルトも目を見張っている。


「そんなに集まっていたのだな……。色々と、私の方でも考えが甘かったようだ。後日、やり方を一緒に考えよう」

「はい!」

「ひとまず、宮殿へ帰ろうか」


 馬車よりも速いと、そのままジークベルトの馬に乗せられ、遅れてやってきた彼の護衛と共に一足先に宮殿へと帰るのだった。

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