13.騎士団の公開演習
当日、間違っても遅刻することがないように、早めに出発する。
応援うちわは完璧な物が出来上がっており、目立つこと間違いないだろう。
(どうか、カレンさんの頑張りが実を結びますように……! 女神様、見守っていてください)
祭壇で祈ってから部屋を出た。
「演習場は、結構遠くにあるのですね」
「そうですね。騎士団の設備は、外門に近い場所にありますから。皇族やそれに近しい方は、奥の方に配置してあるのです」
なるほどと頷いていると、見えてきた石壁をカレンが指さす。
「あっ、見えて参りました! あちらの壁が演習場との境界になります」
カレンの説明に頷きつつ、つい目の端で太陽神様にまつわる装飾がないか、探しながら進んでいく。
(宮殿内とはいえ、全ての場所に太陽神様をモチーフにした装飾が飾られているわけではないのね)
この辺りには立ち入ったことがないが、実用的な建物が多く配置されていて、建物内の装飾は控えめだった。
普段、フィーネが滞在している区画は来客のために装飾を多用しているのだろう。
演習場では、護衛によって皇族席に誘導される。
自分などがいいのかと思ったが「フィーネは大事な客人だから」とジークベルトから指示があったようだ。
話には聞いていたが、公開演習の見学者は多かった。
騎士の家族以外にも、華やかな装いの貴族のご令嬢の姿が目に付く。
彼らの方もフィーネの存在が気になっているようで、視線を感じた。
「あの方は?」
「見かけない方ね。あの席にいらっしゃるということは、聖女様じゃないかしら?」
しかし、そんな周囲の声が聞こえたのも騎士達が出てくるまでだった。
演習場に騎士の姿が見え始めると、皆、そちらを向いて黄色い声で陛下や騎士の名を呼んでいる。
「カレンさん、頑張って!」
「は、はい! ウィ、ウィル様ー!」
カレンは声を上げて手を振るが、ウィリアムは気がついていない。
「カレンさん、作ってきたうちわを使いましょう!」
「そうでした! ウィル様ー!」
カレンが『ウィル様』と書かれたうちわを胸元に掲げると、騎士達の注目が集まり、ウィリアムもカレンを見つけたようだ。
動きが固まり、こちらを凝視している。
「まだ演習は始まっていないので『手を振って』も今、使ってみたらどうでしょう?」
カレンがうちわを持ち変えると、ウィリアムもそれを見てぎこちなくだが手を振り返してくれる。
今度はフィーネが何も言うことなく、カレンは『手を振って』の裏の『がんばって』を掲げていた。
(すごいわ! カレンさん! 少し教えただけなのに、使いこなしているわ!)
そんなことをしていると、一段と大きな歓声が上がる。
騎士達と同じ服を身につけたジークベルトが出てきたところだった。
「まさか、本当に皇帝陛下がお出ましになるなんて!」
「あら、案内にあったじゃない」
「でも、信じられなくて……ご回復なさったというのは、本当だったのね!」
「あぁ、なんて麗しいの……!」
「私、婚約を、早まってしまったかもしれないわ……!」
「あら、あなたが選ばれるとは限らないわよ」
どうやら、ジークベルトはご令嬢方にとても人気があるようだ。
「フィーネ様も、こちらを使ってください!」
カレンに『手を振って』のうちわを渡される。
そんなやり取りをしている間に、ジークベルトはウィリアムと何か話した後、フィーネ達の方を見る。
「ご期待されているようですよ?」
フィーネは、『陛下』『手を振って』のうちわを二つ掲げた。
すると、笑顔を浮かべたジークベルトが手を振り返してくれた。
『手を振って』の裏の『がんばって』も掲げると、了解というように手を掲げてくれる。
「フィーネ様。この推し活うちわ、とても素晴らしいものですね!」
キラキラした目でカレンに見つめられ、フィーネも頷いた。
「あんなに喜ばれるなんて、思わなかったです」
気がつけばご令嬢達の視線も、フィーネ達に集中している。
話しかけたそうにしているが、皇族席にいるうえ、護衛もついているため近づけないようだ。
流石に演習が始まると、邪魔になってはいけないのでうちわはしまう。
大人しく見ているが、騎士達はフィーネ達が次は何をするのかと気になっているようだ。
時折こちらを見る視線を感じた。
そうしている間に、準備運動と基礎練習が終わる。
「今から、対戦形式の稽古だそうです」
今日は特別にジークベルトが全員と剣で打ち合う形式を取るらしい。
剣は流石に真剣ではなく、木剣を用いるらしい。
一人一人、ジークベルトの前に騎士が進み出て、一礼すると剣で打ちかかる。
新人から、年長者へという順番になっているようで、演習はだんだん見応えのあるものになっていった。
今回の演習は、ジークベルトが健康を取り戻したと示すいい機会になっただろう。
三十人程いた騎士との打ち合いが終わり、最後はウィリアムが前に出る。
「ようやくミットフォート卿の出番ですね!」
「何故か私の方が緊張してしまいます……」
ウィリアムより、カレンの方が緊張しているようだ。
彼らの邪魔をしないよう、静かに見守る。
何度か打ち合い、ほぼ互角のようだ。
決着がつかないまま、ウィリアムが一度距離を置き、数呼吸後、勢いを付けてジークベルトに斬りかかった。
「――っ!」
そのまま激しい打ち合いになり、ウィリアムの剣が弾かれ、宙を舞う。
(心臓に悪いわ……)
隣を見ると、カレンもほっとしたようにフィーネを見ていて、二人で微笑みあう。
「お二人とも、怪我がなくてよかったですね」
「本当に……。訓練とわかっていても、ドキドキしました」
「ミットフォート卿は陛下の側近をされていますが、頭がいいだけではなく、剣技の方もお強いのですね」
「私も、あんなにお強いだなんて知りませんでした……」
ジークベルトは飛ばした木剣を拾い、ウィリアムに渡している。
見学席からは、歓声と皇帝を讃える声が響いていた。
その後、ジークベルトが講評を述べ、演習は終了した。
騎士達は建物の中に戻っていく。
フィーネ達も戻ろうとしている時だった。
ジークベルトが、ウィリアムと共にこちらに来るのが見えて、フィーネは片付けの手を止めた。
近くまで来ると、ウィリアムはカレンの元へ、ジークベルトはフィーネの元にやってくる。
「フィーネ、応援感謝する!」
「ご迷惑ではありませんでしたか?」
「とても嬉しかった。しかし、斬新な物を使っていたな」
「はい。遠くからでも応援の気持ちが伝わるようにと作ってみました」
「見つけやすいし、確かに気持ちが伝わってきた。とてもいい物だな」
その笑顔に、カレンと一緒に応援うちわを作ってよかったと思う。
「褒めていただき、ありがとうございます。その、陛下は、とてもお強いのですね」
「体が衰えぬよう、訓練は続けていたからな」
微笑むジークベルトの笑顔が眩しくて、思わず手に持ったままだったうちわで顔を覆う。
「フィーネ……?」
戸惑った声と共に、『陛下』のうちわの文字が目に入り、慌てて後ろ手に隠した。
『大好き』の方が表になっていたようだ。
「こ、これは、推し活の定番の文字で……! た、他意はありません」
「い、いや、そうだな……。だが、嬉しい」
はにかむような笑顔を向けられ、フィーネは固まるしかない。
隣では、カレンも同じようにウィリアムに色々と話しかけられているようだ。
同じく、真っ赤になったカレンが助けを求めるようにフィーネを見てくるが、フィーネにもどうしたらいいかわからない。
(カレンさん、頑張って……!)
心の中で応援していると、ジークベルトにうちわを持っていない方の手を取られる。
「フィーネ?」
「な、なんでしょう?」
「演習も終わったし、私も一度着替えに戻るんだ。よかったら、一緒に戻ろう」
「ひゃ、ひゃい!」
断る理由もなく、フィーネはジークベルトのエスコートで、カレンもウィリアムにエスコートされて自室へと戻るのだった。




