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3-1

「あ、今日の体育だが先生が急病になったので、隣の3組と合同で授業することになったぞ。3限から2限に変更だから注意するように」


 朝のホームルームの知らせに、私のクラスは浮き足立っていた。


『3組ってことは、黒川君がいるってこと?』

『待って瀬戸君もいるじゃん』


 私のクラスの女子のほとんどは、黒川君と瀬戸君の話で持ちきりだった。みんなそんな話をしながら、化粧直しをし始める。

 体育の内容は男女同じくバレーボールだった。性別で分かれて授業は進んだけど、自分の出番でなければ、女子はみんな男子の試合を見ていた。理央も例に漏れず、見やすい位置をキープして座っている。瀬戸君や黒川君がボールを取ると、歓声が上がる。


「そういえばさ、瀬戸君と委員会はどう?」


 季節は6月に入ろうとしていて、委員会で顔を合わせた回数もその分積み重なっていった。


「どう……って特に言うこともないよ。普通に作業して、終わってすぐ解散!って感じ」

「へぇ、意外。なんか瀬戸君がテキトーで、詩織が大変な思いしそうだと思っていたのに」

「ちゃんと毎週来てくれるし、仕事もキチンとしてくれてるよ」


 どちらかと言えば、瀬戸君本人よりも、瀬戸君と一緒にいる女の子が厄介だった。

最初のような委員会を代わらせろと言う子はいないけど、瀬戸君を引き留めている子もいた。他にも司書室の前で待ち伏せしている子など、思い返せば瀬戸君に会いに来る女の子は沢山いた。

 いつの間にかそういう子はいなくなって、今は何もなく瀬戸君と私で仕事をする日々だ。


「黒川君派から瀬戸派に乗り換え?」


 私が瀬戸君の批判をしなかったのが意外だったのだろうか。理央は冗談を言う。内心その発言にヒヤリとした。


「な、何言っているの。別に黒川君派でもないし」


ーー私は理央にまだ過去のことを話せていなかった。最初は黒川君の邪魔になりたくなくて黙っていた。先日時効なんて言われても、どのタイミングで打ち明けるべきか迷っていた。


「え〜そう?」


 理央の顔は少しニヤついている。

幸いにもタイミング良く笛が鳴り、選手交代の時間となる。次は理央と私のチームの番だった。



 バンッとボールを弾く音が体育館に響く。お互いのチームに経験者がいて、接戦だった。

バレー経験のない私は、とにかくラリーを繋ぐことで手一杯だ。結構時間が経った気がするが、勝敗はなかなか決まらない。


「早見さん…!」

「と、取ります!」


 バレー部所属の相手のサーブボールは、私の方向へ飛んできた。


「…っ!」

「ナイスレシーブ!」


 なんとか飛んできたボールを跳ね返す。ボールが当たった時の衝撃の後、手首がじんじんと痛んだ。

経験者のボールの重みは、他の人とは全然違った。


 ピーッと笛がなる。ゲーム終了の音だ。授業時間の終わりが迫り、勝敗はつかずに中断となった。


 みんな落ちたボールを拾い、片付けが進んでいく。私も足元に転がったボールを拾おうとすると、ピキッと手首の痛みが一段と大きくなった。

思わず顔を歪めてしまう。

痛みを堪えてボールを掴むが、ひょいっと誰かに奪われた。ボールが消えた方向を見ると、目の前に黒川君がいた。


「無茶するな」

黒川君、と名前を呼ぶ前に彼は行ってしまった。ちょうどすれ違ったタイミングで、囁かれた声が耳に残って離れない。

 私にしか聞こえない、小さな声だった。それだけのことで、私の頭は黒川君でいっぱいになる。


ーー私、まだ好きでいても良いのかな。

 手首の痛みより、上がった心拍数の心臓の音がどくんどくんと私の中で大きく響いた。


<瀬戸side>


 今日の体育が2組と合同だと聞いた時、真っ先に浮かんだのは図書委員で一緒の早見さんだった。

体育の授業中に見かけた彼女は、普段と違って髪を一つに束ねている。走る度に長い髪がゆらゆらと揺れていた。


 チーム対抗でバレーの試合が進む授業では、出番じゃなければ自由時間だった。早見さんは友達に付き添っているようで、隣の男子チームの試合を見ている。

 彼女を見てみると、時々誰かを目で追っていることに気がついた。一方で無意識に早見さんの様子を見ていた自分とは、一度も目が合わなかった。


 時間が終わり、片付けに入る。


 ほとんどの人が帰り始める中、早見さんは目の前にあるボールを拾おうとしている。

その時だった。

黒川が彼女の手からひょいっとボールを取り上げた。それだけのことだった。

だけど早見さんは振り返って、黒川の背中を見つめたまま動かなかった。


 ……あぁ、そうか。

今日一度も目が合わなかったのは、彼女はずっと黒川のことを目で追っていたからだ。


(瀬戸side end)








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