第54話 拘束となる
メルダさんが突然、近衛兵に呼び出され連れて行かれてしまう。
ボクは慌てて王室執事長さんのところへ行った。
「いったい、どういうことですか⁉」
近衛兵にたずねても「守秘義務がある」と言って、何も教えてくれなかった。しかし、王宮全般を取り仕切っている執事長なら何か理由を知っているだろう――という考えからだった。
「ヒロト君、実はな――」
執事長の話では――
メルダさんと帝国側がつながっていて、魔盾の情報を流出させた――そういう、情報が衛兵本部から近衛兵側に入ったそうだ。
「そ、そんな……」
たしかに、メルダさんは帝国で働いていた。だからって――
「証拠はあるのですか?」
「衛兵本部からは、そういうタレコミがあった――とだけしか聞かされていない」
衛兵側はメルダさんの拘束と引き渡しを要求してきたらしい。しかし、彼女が王宮内で暮らしていることを理由に、彼女の引き渡しまでは応じていないようだ。
だとすれば、まだ、彼女は王宮内にいるってことになる。
「だが、ひとつ良からぬ話が――」
そう言って、執事長が小声で話しかける。
「メルダが魔族ではないかという話を衛兵がしていたんだ」
「――えっ?」
それって――
「彼女の髪の色が魔族と似ている――そういうウワサが立っているらしい。それで、衛兵が疑っているみたいだ」
これはマズいことになった――もし、彼女が魔族だとバレてしまったら――
ボクが黙ってしまったので、執事長が気になったようだ。
「ヒロト君、何か知っているのか?」
「えっ? いや、ぜんぜん! まさか、彼女が魔族だなんて、きっと間違いですよ」と慌てて否定する。
「うむ、私もそう思うのだが、万が一、彼女が魔族だなんてわかったら、厄介なことになる」
厄介なこと?
「魔族を王都、しかも王宮なんかに入れてしまったなんてわかったら、私たちやキミにも責任を追及されるだろう」
「ボクにも――?」
魔族はいわば王国の敵だ。それをやすやすと王宮に招き入れてしまうような体制では、国王を守る立場として、問題となるのはわかる。
「それだけでない。陛下自身も責任を問われる」
「へ、陛下にも⁉」
魔族が王国領土へ侵攻して以降、陛下は帝国との共闘し、魔族と戦う意向を示している。しかし、それによって有力貴族側との亀裂が生じているらしい。
王国は長らく帝国と戦っていた。魔族の侵攻後、事実上の停戦状態だが、今でも帝国を敵視している国民は多いのだ。
「そして、厄介なことに、今の衛兵総司令官は貴族派の中心人物、ブルームハルト侯爵が推薦した人物なのだ」
「――えっ?」
今回のことが騒がれ、しかも、魔族が王宮内にいたとなれば、きっと、ブルームハルト侯爵が出しゃばってくることだろう。そうなれば、陛下の権勢は落ち、侯爵がよりいっそう政策に口を出してくるのは間違いない。
「つまり、衛兵は侯爵からの口添えで、メルダさんを罪人に仕立てあげ、侯爵が優位になるよう企てていると――」
ボクの質問に、執事長ははっきりと答えることはしなかった――しかし、そうゆうことなんだろう。
ボクは少し考えたあと――
「すみません、少しだけでも、メルダさんと話せる時間がもらえないか、近衛兵と取り合ってもらえないですか?」
*
執事長の口添えもあり、メルダさんと会えたボクは、あることを頼んだあと、工房へ戻ってきた。
そして、みんなに状況を説明する。
「まさか、メルダさんがスパイだったとはなあ――」
タバサが頭を抱えながらそんなことを言う。
「おい! まだ、メルダさんが犯人だと決まったわけではないだろ?」とボブさんがタバサを小突く。
「いてえ! なにするんだよ! だって、捕まったということは、そういうことなんだろ?」
まだ、事情を聞いているだけだ――と、ボクは改めて言うのだけど、まあ、タバサみたいなのが、普通の市民の反応なのだろう――
つまり、これが公になれば、市民はボクたちのことを疑ってくる――そういうことだ。
「おお! 美しい女性が、虜になっていると思うと、このムネが痛みます」と、ディーノさんが大げさに言うので、ボクは苦笑いになった。
「だとしても、魔盾の情報が帝国へ流れたのは間違いないのだろ? まいったなあ――」
タバサはヤレヤレという表情で頭を掻く。
「なんで、オマエが困るんだぁ?」
「だって、帝国でも魔盾が作れるということだろ? オレたちの仕事が減ってしまうじゃないか」
まあ、タバサの心配もわかる。しかし――
「それは大丈夫だ。なんたって、この治具のことはまだ知られていないみたいだからな」
ボクは手にしていた治具を見せる。
「なんだぁ? 魔盾には、まだ秘密があったんですか?」というサムさんの質問に、ボクはうなずく。
「魔石を取り付けるためには、この治具が必要なんだ。だから、ニセモノの魔盾は魔石が外れてしまっただろ?」
「おおう!」という声があがる。
「それじゃ、その治具の情報が洩れない限り――」
ボクはうなずく。
「この工房以外では、ちゃんとした魔盾は作れない」
そういうと、タバサがホッとした顔になる。
「そうなんだ。なら、安心だな!」
「まあ、それよりもタバサの腕が上がらないことで、魔盾の生産が増えないことのほうが心配だで」
ジャックの意見に、みんなが笑う。
「なんだよ! オレ、そんなにみんなの足を引っ張っているのかぁ?」
「さあ、仕事を始めるぞ! 自分の仕事に戻って!」
ボクはさりげなく、話を遮った。
「なあ、どうなんだよぉ!」




