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断罪された悪役令嬢は“縁談”を仕立て直す ~あなたの婚約、条項が穴だらけですわよ?~  作者: 朝凪ことは


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第10話 縁談ギルドの女王、ご登場

 「公開縁談会」は、年に数度、王都で開かれる縁談ギルドの催しだ。


 有力な家門の縁談を、ギルドが取りまとめ、衆目の中で“格式高く”披露する。実態は、ギルドが縁談市場における自らの権威を見せつけるための、舞台装置である。


 その舞台に、私は招かれた。招待状の差出人は――縁談ギルド長、ガルニエ夫人。


「行くんですか? どう見ても、罠ですよ」と、リーゼが心配そうに言う。


「ええ、罠ですわ。けれど、逃げれば『ミルテ館は格のない素人だった』と言いふらされますの。それに――」


 私は、招待状を畳んだ。


「向こうが舞台を用意してくれたのですもの。使わせていただきますわ」


 会場は、王都の大きなホールだった。着飾った貴族たちが、ずらりと並ぶ。その最奥、一段高い席に、ガルニエ夫人が座っていた。


 美しく、冷たい女。扇の陰から、品定めするように私を見る。


「ようこそ、ミルテ館の店主どの」と、彼女は微笑んだ。「辺境で、ずいぶん評判だそうですわね。今日は、その腕前を、皆さまに披露していただこうと思いまして」


「光栄ですわ、ガルニエ夫人」


「ルールは簡単。一つの縁談を、わたくしとあなた、それぞれがまとめてみせる。どちらの縁談が、より良縁か――この場の皆さまに、判じていただきますわ」


 壇上に、一組の家門が紹介された。地方の小領主、ハーゲン家。年頃の娘がいるが、家は傾き、めぼしい縁談がない。


「さあ。まずはわたくしから」


 ガルニエ夫人が、優雅に立ち上がった。彼女が提示した縁談は、なるほど、見事なものだった。相手は王都の裕福な家。持参金は不要。条件は申し分ない。会場から、感嘆のため息が漏れる。


「いかが? これが、縁談ギルドの“格”ですわ」


 拍手が起きる。ガルニエ夫人は、勝ち誇った目で私を見た。


「さあ、ミルテ館どの。あなたは、これ以上の縁談を、お出しになれまして?」


 私は、ハーゲン家の当主に向き直った。


「ハーゲン卿。一つ、お尋ねしてもよろしくて? ――娘御は、その縁談を、望んでおられますの?」


 会場が、ざわついた。誰も、そんなことを問わなかったからだ。


 ハーゲン卿は、戸惑いながら答えた。


「いや……娘は、嫁ぎたくない、と。家のために我慢する、とは言っているが」


「ですわよね」


 私は、ガルニエ夫人の縁談書を手に取り、淡々と読み上げた。


「この縁談、持参金は不要。けれど第九条――『娘は婚姻後、生家との交流を年に一度に限る』。第十一条――『生家が困窮しても、婚家は一切の援助義務を負わない』。つまり、娘御を“もらってやる”代わりに、ハーゲン家とは縁を切れ、と書いてございますわ。傾いた家を、切り捨てさせる縁談ですの」


 会場の感嘆が、すうっと引いていく。


「これは“良縁”ではございませんわ。娘御を、家から引き剥がす取引。――格式の衣を着ているだけですの」


 ガルニエ夫人の頬が、ぴくりと動いた。


「では、あなたの縁談は」


「わたくしは、縁談をお出しいたしませんわ」


「……は?」


「その代わり、ハーゲン家が傾いた“原因”を、お持ちいたしましたの」


 私は、リーゼが調べ上げた書面を広げた。


「ハーゲン家が困窮したのは、数年前、不当に高い手数料の縁談を、立て続けに結ばされたからですわ。その手数料を取っていたのは――縁談ギルド。つまり、家を傾けた張本人が、今、その家の娘を“格安で”引き取ろうとしておりますの。マッチポンプ、と申しますのよ」


 会場が、しん、と静まり返った。


 私は、ハーゲン卿に向き直った。


「ハーゲン卿。良縁を急ぐ必要は、ございませんわ。まずは、過大に取られた手数料を取り戻し、家を立て直しましょう。縁談は、それから。娘御が、ご自分で選べるようになってから――それが、本当の良縁ですわ」


 ハーゲン卿の目に、涙が滲んだ。深く、頭を下げる。


 会場の空気は、もう、完全に変わっていた。人々の視線が、ガルニエ夫人へと注がれる。咎めるように。


 ガルニエ夫人は、扇を握りしめ、それでも笑みを崩さなかった。


「……お見事ですわ、ミルテ館どの。けれど――勘違いなさらないことね」


 彼女は、立ち上がりながら、低く囁いた。


「縁談市場は、わたくしの庭。あなたのような小娘が、一度や二度、いい格好をしたところで、何も変わりませんわ。今日この日から、わたくしは本気で、あなたを潰します。――ミルテ館に、二度と縁談が来ないように、ね」


 その目の奥に、ただの嫉妬や縄張り意識とは違う、何か――もっと大きな後ろ盾を持つ者の、傲慢な確信が見えた。


(この人の後ろに、誰かがいる……)


 戦の幕が、上がった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


中盤の大型イベント、公開縁談会。「格」を掲げるギルドの女王に、シャルロッテは“縁談を出さない”という一手で応えました。


ですが、ガルニエ夫人の宣戦布告は本物。そして、その背後に潜む大きな影とは――? 第2章、縁談市場をめぐる本格的な戦が始まります。ブックマーク・評価、お待ちしておりますわ。


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