第3話
ボイジャー1号から送られてきた、一見、無意味な信号の羅列。
当時は、それが大きな話題になった。
「地球外知的生命体からの返信だーとか、暗号化されたメッセージだとか」
「ボイジャーが自我に目覚めた証だ! なんて話もあったみたいですね」
「結局、ただの故障だったんだろ?」
中嶋は冷静だった。
「コンピュータの一部、AACS……AACSってなんだ?」
「『姿勢制御システム』だって。アンテナの向きとかを制御するやつ」
「なるほど。そのシステムのメモリが故障したとかで……」
「当時、200億km以上も離れて飛んでた探査機に向かって、
地球から何度も命令を送って修正したってのも凄い話だよなぁ」
「命令を送信して、その結果を受け取るのに2日掛ったって書いてありますね」
「それを何度も繰り返して……直したのかぁ」
「その件も、展示するパネルに盛り込まなきゃだね」
レポートをまとめていると、山本が何かを見つけて首をかしげた。
「謎の信号に関してだけどさ、ニュースになったのは2022年のそれだけなんだけど、公式の情報としては、何度か受信していたみたいだ」
「へぇー」
「そりゃあ、50年以上も前の機械だから、あちこち壊れてもいくだろ」
「まぁ、そうなんだろうけど……」
「一応、年表みたくして盛り込んでおこう」
山本が見つけた情報を並べてみた。
「2026年にボイジャー2号から、
2029年にボイジャー1号から異常なデータが送られてきて、
『ノイズ』として処理されたみたいですね」
「2029年の通信を最後に、ボイジャー1号との通信は沈黙した」
「……兄ちゃん、ついに寿命か」
「そして今年──2031年、ボイジャー2号から、最後の『ノイズ』が届いて」
「弟も寿命を迎えた──」
なんとも寂しい気持ちにさせられる。
「なんかさ……真帆劇場のせいで、すっかり親近感が湧いちゃってる」
「それな、わかるわ」
「えへへ」
「ノイズとして処理されたっていう謎の信号もさ、もしかしたら兄弟で何か通信してたのかもって思っちゃう──」
山本の、そのひと言で、みんなが顔を見合わせた。
「それ、あるかもー!」
「そうだったらなんだか嬉しいなぁ」
「俺たちでさ、そのノイズ、解析してみないか?」
「いいね!」「やろうやろう!」
最初は、まったくやる気の無さそうだった中嶋と山本。
一番盛り上がってる。
どんな結果になるにしても、俺たちの最後の文化祭だ。
やる気になってくれて、本当に良かった。
「でも、ネットで拾える『ノイズ』って加工済みのデータしかないよなぁ」
「受信したまんまの生データが欲しいとこだな」
「そんなの、一般人が入手できるのか?」
さっそく頓挫しかけた、その時──
「あの、もしかしたらですけど、『受信したまんまの生データ』、
入手できるかもしれません」
真帆が手を上げて、そう宣言した。
◇
──数日後──
部室で待ち構えていた真帆は、自慢げにメモリチップを掲げた。
「お約束どおり、入手しちゃいました!」
「え!? まさか、本物!?」
真帆はニヤリと笑う。
「もちのろんです。正真正銘、ボイジャー1号と2号から受信して『ノイズ』として処理されていた生データです!」
「まじか! なんで!?」
中嶋は素手で触れて良いのかどうか戸惑うように、手を伸ばした。
「大きな声では言えませんが、父がJAXAで働いているので、極秘ルートで──」
真帆は声を潜めて、凄いことを言い出した。
父親がJAXA職員だなんて、初耳だった。
二年近く一緒に活動してきたけど、プライベートなことは語り合ったことないし、知らなくても当然か。
「ボイジャー2号の最後の通信データも、今日明日には届く予定です」
「おおー」と拍手。
「じゃじゃじゃあ、早速、見てみよう!」
山本がノートパソコンを立ち上げながら叫ぶ。
「壊すなよー」「手汗やばっ」「データ、バックアップ取っておこうぜ」
興奮気味にあれやこれやと操作を繰り返したあと、俺たちは深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「さて、それじゃ、まずは……2022年にボイジャー1号が送ってきたデータから、開いてみよう!」
────
11001010 01101100 10101010 00011100 ...
────
「…………」
謎の扉が開きかけたと思ったら、バタンと音を立てて閉じてしまったような、
そんな空気が流れた。
「だよなぁ。当時、世界中の専門家が解析を試みたってんだろ?」
「何の知識もない俺たちに解読なんてできるワケないよなぁ」
「とりあえずさ、AIに読み込ませてみようよ」
AIが解析できるなら『ノイズ』なんて扱いになってない……と思いながらも、一縷の希望を託して──
────
まず軽くほどいてみますね。
これはフレーム構造をもったビット配列で、かなり反復パターンが強いです。暗号文というより、バイナリデータの一部っぽい並びです。
────
その後、『思考中』の表示がしばらく続き……
色々な可能性が提示され、小難しい専門用語が並んだが、最終的には『解析不能』という答えだった。
唯一、怪しいと思ったのは「画像のピクセルデータ」という線。
何通りか変換を試してもらったが、やはり不発に終わった。
「やっぱダメかー」
「諦めるのは、まだ早いですよ」
「とは言ってもなぁ」
「最新のAIで解析できないなら、俺たちの頭をいくつ並べたところで……」
『最新のAI』──ふと、引っかかるものがあった。
「あ、そういえばさ、顧問の雨宮先生──」
「ん? 最近、顔出さないね」
「どうせ冷蔵庫に籠ってるんでしょ?」
中嶋も山本も、すっかり心が折れてしまったようだが、まぁ無理もない。
「なんだか、次世代のAIを独自に開発してるって言ってたんよ」
「「次世代?」」
やはり食いついた。
「なんか、よく分からないけど、とにかくスゲーAIらしいんだわ」
「それは、試してみても良いんじゃないか?」
「だよね、だよね?」
こうして俺たちは、雨宮先生がいるサーバールームへと向かった。




