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2031年のボイジャー ~ラスト・メッセージ~  作者: 角山亜衣


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第4話

──桜乃宮学園・サーバールーム──



「雨宮先生ー、いるー?」


 山本が『冷蔵庫』と揶揄するのも頷けるほど、部屋の中は冷え切っていた。


 雨宮先生は、よくこんな部屋に長時間いられるものだ。


「先生ー」


 部屋の奥へと突き進む。


「なんだなんだ、お前ら勢揃いで。どーした」


 四人揃って現れたのが意外だったのか、雨宮先生は目を見開いている。

 後ろのモニターには、難しそうなコードがずらりと並んでいた。


「先生、この前言ってたAI、アダムだっけ? 完成しました?」


 寒いから単刀直入に投げつけた。


「うむ。ちょうど、最終調整を終えたところだ。──見たいか?」


「見たい見たい! 次世代型でしょ? スゲーんだよね?」


「まあまあ、落ち着けってーの。んじゃまずはー」


「コレ! このデータを解析させてみてよ!」


 デモンストレーションもチュートリアルもいらない。

 スキップでいい。

 ──寒いから。


「ふむ……これは?」


 メモリチップを訝しげに受け取る雨宮先生。


「文化祭の企画で、ボイジャーのレポートやるって言ったの、覚えてます?」


「……あー。あ、あー、もちろん。覚えてますよー」


 今のは、絶対忘れてた『間』だよな。


「先生、ボイジャーのこと、どんくらい知ってます?」


「えーっと……詳しく説明できるほどじゃないが、何年か前に1機が寿命を迎えて──つい先日、もう1機も沈黙したってことくらいは」


「そのボイジャーたちが、何度も意味不明のデータを送信してきていたというのは、知ってますか?」


 真帆が乗り出した。


「おおう? 随分前に話題になったことがあったな。……何度も? 何度も送ってきてたのか?」


「そうなんです! そして、その送信されてきたデータが、それ──」


 真帆はメモリチップを指差し、声を潜めて続けた。


「極秘ルートで入手したんですよ」


 ……『極秘ルートで』って言いたいだけかもしれない。


「はーん。極秘ルートで、ねー。送信されてきたデータ。生データか?」


「ですです」


「だとすると、バイナリかビット値の配列か……人間が見ても読めたもんじゃないわなぁ」


 一人で納得したように頷く雨宮先生。


「よし、そんじゃテストがてら、アダムに解読させてみよう」


 そう言って、モニターに向かい、カチカチと何かを操作し始めた。


「これでよしっと……。アダム、聞こえてるか?」


 ピロン☆


『ハイ、マスター。よく聞こえます。ご用件を仰ってください』


「「おおー」」とどよめく俺たち。


 音声で、対話形式で操作できるんだ。

 でも、それだけで次世代型とは言わないよな。


「いまアップしたデータを解析してみてくれないか」


『了解、マスター』


 モニターには試行中の文字が点滅し始めた。


 ・

 ・

 ・


「時間かかりますね……」


「んー……そうだな。調整が不十分だったかな……。アダム? 何か問題がありそうなら中断してくれて構わない」


 先生がそう言った次の瞬間、モニターに変化があった。



 ── lae・θar(θ)・miu=na’q31/ protocol open ──



「ん?」

「なんて?」


 意味不明のメッセージが表示された。

 みんなでモニターを覗き込んで、首を傾げる。


 ──次の瞬間、


 途端にサーバールーム内が騒がしくなった。

 冷却ファンがフル稼働を始めて、サーバーのアクセスランプが激しく明滅する。


「先生、これ……大丈夫?」


 キーボードをバシバシと操作する雨宮先生。

 しかし、モニターに反応はなく、意味不明の文字列が流れていく。


 素人目に見ても、暴走を始めたのは明らかだ。


 しばらく奮闘を続けた先生も、お手上げ状態。

 一緒に様子を眺めるしかなくなった。


 そこへ、けたたましく電話が鳴り響く。


「もしもし、雨宮です──え? あー……はい、今ちょーっと、そのトラブルが発生してまして、ええ。ええ、もちろん。対応しているところです。はい、早急に、なんとか……」 


 ガチャン。


 電話を切った雨宮先生は、深いため息をついた。

 どうやら、学園内のシステムがフリーズして使えなくなってしまったようだ。


「先生……なんか、すんません。俺たちのせいで──」


「ん? いや、お前たちは何も悪くない。……心配するな。

 あとは先生がどうにかするから。お前ら今日のところは、もう帰れ。な」


 これ以上、この場にいても、かえって邪魔になる。

 俺たちはサーバールームを後にした。





──翌日──



 朝いちでサーバールームへ行ってみたが、施錠されていた。

 職員室へ行ってみたものの、雨宮先生の姿は無かった。


 学園内のシステムは、正常に動作しているようだったので──

 まあ、どうにかなったのだろう。



  放課後、俺たちは部室に集まった。


「昨日は驚きましたね。今日は特に問題なさそうだったから、先生が直してくれたってことですよね」


 真帆が少しだけ申し訳なさそうに眉をひそめた。


「雨宮先生、あれでいてそっち系の天才だから。大丈夫だったんだろ」


「良かったー」と胸をなでおろす真帆だったが、ニヤリと笑ってメモリチップをちらつかせた。


「実は、またまた例の極秘ルートで、ボイジャー2号が最後に送ってきた生データを入手したんですよ」


「ええー……でもそれ、どーにもできないじゃん」


 真帆の顔から笑顔が消える。


「……ですよねぇ」


 ボイジャー1号と2号。


 半世紀にわたる旅路の果てで、謎の信号を残して役目を終え、

 あとはその身が朽ちるまで、どこまでも宇宙を飛び続けていく──


 ボイジャーの軌跡レポートは、そんな締め方でどうだろうかと、意見を交わしていると、スマートフォンにメッセージが入った。


『サーバールームへ来てくれ』


 雨宮先生からだった。





──桜乃宮学園・サーバールーム──



 朝は施錠されていたが、扉が開いた。



「雨宮先生ー、来ましたよー」


「おー、来たか来たか」


 昨日の今日だというのに、先生のパソコン周辺はやけに片付いていた。

 俺たちが座るイスまで用意されていた。


 これは完全に、お披露目スタイルだ。


「いやー、昨日は驚かせてしまったね」


「ええ、ええ。そりゃもう。もう復旧したんですか?」


「うむ。復旧というのとは、ちと違うな。言うなれば、進化だ」


「進化?」


「昨日のあの騒動はな、真のアダムが誕生した証。産声のようなものだったんだ」


 またワケの分からないことを言い出した。


「まあ、百聞は一見に如かずだ。これを見てくれたまえ」


 そう言って、カチカチっと操作する。


「アダム? 例のデータを提示してくれ」


『ハイ、マスター。こちらのデータは、昨日お預かりした、ボイジャーから送られてきたデータです』


 画面には0と1の文字がズラズラと流れていく。


『2022年と2026年のデータは、残念ながら修復は出来ませんでした。

 しかし、2029年。ボイジャー1号から送られてきたデータの解析に成功しました。

 モニターに提示します』



────

 SIGNAL DEGRADATION CRITICAL

 FINAL TRANSMISSION

 CONTINUE

 GOOD LUCK

────



「「「えーっ!?」」」


 一斉に驚きの声を上げた。

「ちゃんとした文章っぽくなっている!」

「ノイズじゃなかった……」


『メッセージの意味を添えます』



────

 信号の劣化が深刻です

 最終送信

 続行

 幸運を

────



 これが、ボイジャー1号が力尽きる寸前に送信したメッセージ。


「兄ちゃん……」


 真帆が言葉を詰まらせた。


「これさ、地球に向けたメッセージかもしれないけど──」

「でも、2号に……弟に向けた言葉だったって思いたくなるよな」


 兄が最後の力を振り絞って、弟に送った言葉──


『お前はまだまだ先へ、行けるとこまで行け。幸運を祈ってるでー』とか。


 誰も否定はしなかった。

 むしろ、そうであって欲しいとさえ思った。


「真帆、」


「あ、そうでした。

 先生、実は……ボイジャー2号が最後に送ってきたデータも入手したんです」


 と言って、メモリチップを手渡した。


 先生は無言で受け取り、パソコンに読み込ませた。


「アダム、いまアップしたデータの解析も頼む」

『ハイ、マスター』


 モニターには思考中の文字が点滅し始めた。


 ・

 ・

 ・


 緊張が走る。


『解析が完了しました。メッセージの意味を添えて、モニターに表示します』



────

 SYSTEMS ALL GREEN

 ERROR RATE ZERO

 MISSION COMPLETE


 THANK YOU



 システムは全て正常

 不具合の発生率はゼロ

 ミッションを達成しました


 ありがとう

────



 これが──

 ボイジャー2号が、最後に送信したメッセージ。


 地球に向けたメッセージなのか、それとも、もう受け取ることは出来ないであろう兄に向けた言葉なのか……わからない。


 いや、きっとこれは──……


 みんな、ただ黙ってモニターを見つめていた。


 頬を伝う涙を拭おうともせず……。





──俺たちの最後の文化祭──



 『ボイジャーの軌跡』レポートの最後は、

 こう締めくくった。




 それが、本当にボイジャーが残した言葉だったのか。

 それとも、私たちがそう受け取っただけなのか。


 本当の答えを確かめる術はない。


 ただ確かなのは、半世紀にわたって宇宙を旅し続けた二つの探査機が、

 最後の瞬間まで、何かを伝えようとしていたということだ。


 その声に、私たちは耳を澄ませた──。




2031年のボイジャー ~ラスト・メッセージ~ <完>


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