28. 初手
今日から、グラディア王国第一王女の誕生祭が始まった。
明日は帝国の皇帝を招く宴会がある。
改めて王国の力を示し、帝国との絆を深める為の重要な会だ。
「準備は大丈夫ですか?」
「勿論です。指導者」
深々と頭を下げる一人の男。
その背後に控える者達も深く頭を垂れている。
青年は暗闇の中、ふっと笑った。
月明かりが青年の紅い瞳を怪しく照らす。
がらんとした空間には彼等と、ぽつんと置かれた椅子だけがあった。
曇った硝子の向こうには、ぼんやりと城が見える。
「よろしくお願いしますね、忠実な者達。我々の願いを叶える第一歩です」
「承知しております。……マギステル、どうかお元気で」
「ありがとうございます」
男達が去っていく。
きっともう、彼等と会うことはない。
青年は憂いるように俯いた。
躊躇いがあった。後悔があった。
だが、もう決めたことだ。
再び顔を上げた時、青年の顔には普段通りの笑みがあった。
「ウィカリア」
「……まさか、このくだらない計画に参加しろとは言わないだろうな?」
「そのまさかだよ」
先程よりもぐっと砕けた話し方になった青年は、妖しげな笑みを浮かべて背後を振り返る。
誰も居なかったはずの闇から、赤髪の女性が現れた。
「あの愚か者共と一緒に死ねと?」
「愚か者、とは酷い言い草だね。彼等は真剣なのに」
「質問に答えろ」
ウィカリアが翠の瞳を険しくさせると、青年はやれやれといった様子で椅子に座った。
「端的に言うと、違う。私の理解者である君には、最後まで生きてもらわないと困るからね」
「……分かった」
機嫌が悪いのを隠さずにウィカリアが頷く。
青年の口角が上がった。
「随分と素直に応じてくれるね?長期戦を覚悟していたんだけれど」
「報酬は貰う」
ぶっきらぼうな返事に、青年は益々笑みを深める。
結局、彼女は断らないのだ。
「手出しはしない。それでいいな?―――カンドル」
「ああ、構わないよ。彼等はきっと己の役目を果たしてくれる」
足音を全く立てずに去って行くウィカリアを見送ると、青年――カンドルは何処からともなくチェスのポーンを取り出した。
その拍子に彼の長い、真っ白な髪が揺れる。
カンドルはポーンを掲げると、皮肉気な笑みを浮かべた。
「――さあ、始めよう。……楽しみにしているよ、レオナ・グラディア」
ちょっと混乱するかもしれないので、本文の補足をしておきます。
マギステル→指導者という意味。呼び名みたいな感じです。
フィデレス→忠実な者達という意味。マギステルと同じで、呼び名みたいな感じです。
ウィカリア→赤髪の女性の名前です。
カンドル→彼が信頼する者に呼ばせている名前です。




