27. 王族
石造りの冷たい部屋に、朝の光が差し込む。
蠟燭の火がゆらりと動いた。
来たばかりのときはまだ空が暗かったから相当な時間が経っているのだろう。
天井の高い部屋の中では、司祭の低い声が響き渡っていた。
その場に居る人間の顔は皆真剣そのもので、静かに耳を澄ませている。
レオナの誕生祭一日目。
所謂祈りの儀式であった。
部屋の一番奥に祭壇があり、そこに司祭のみが立っている。
神との繋ぎ役ということらしい。
祭壇の手前には聖歌隊が居り、司祭の聖書朗読の合間に聖歌を歌っていた。
レオナ達王族が立っているのは、その更に手前である。
一番祭壇に近い場所にレオナ、そのやや後ろにレオナの母親である女王、王配であるアウグスト様、第一王子であるメディクス様だ。
何気に女王陛下を見るのは初めてなのだが、この角度からだと顔が見えない。
ちなみに私は王族の背後にずらりと並んでいる貴族達の更に後ろに立っている。
レオナの側に控えられるのは、従者の総括役であるクストスと筆頭侍女であるユリアだけなのだ。
それでも王族の式典の場に参列しているのだから、凄いことである。
何故貧民が、と貴族達からの白い目を覚悟していたが、不思議と視線は刺さらない。
まず間違いなくアウグスト様が手回ししてくださったのだ。
事前に、元貧民を参加させることで神への感謝を伝えるとかどうとか説明しているはずだ。
本当のところは分からないが、貴族達が不満を抱かないようにということだろう。
正直に言って有難い。
貴族達に目を付けられていいことなど何もない。
最悪の場合、貴族達のレオナへの信頼が無くなる可能性だってあるのだ。
「―――続いて、感謝の儀に移らせていただきます」
考え事をしているうちに、儀式はどんどん進んでいたようだ。
いつの間にか後半である。
神への奉納品として酒やら果物やらが祭壇に運ばれていく。
どうやら儀式全体の中でもかなり重要な時間らしい。
部屋全体に、緊張が満ちていた。
申し訳ない限りだが、やはり私は神という存在を信じ切れていない。
この国に生まれたのだから信じるべきだろうが、生憎今まで神への祈りをしたことがない。
縁が無かったのだ。
施療院から貰える食事は大変有り難かったが、同時に苦い思い出も多い。
こればっかりは自分でもどうにもならないので許してほしい。
司祭が長い祈りを唱え始める。
教養のない私には具体的な内容は分からないが、恐らく神への感謝などだろう。
途中でレオナの名前も出てきたので、祝福の願いなんかも入っているかもしれない。
最後に全員が祭壇に向かって跪き、深く頭を下げる。
当然私もだ。
これで一通りの流れが終了した。
じんわりと広がる余韻の中、紫の礼服を身に纏ったレオナがすっと立ち上がる。
退場だ。
本当はそれに付いて行きたいところだが、残念ながら私が退場するのは一番最後だ。
仕方が無いだろう。
護衛に守られたレオナが、横を通り抜けていく。
一瞬、こちらに視線が向けられたが、すぐに通り過ぎて行った。
レオナのすぐ後を、女王、セレナ・グラディア陛下が優雅に歩いていく。
金の髪に藍色の瞳というレオナと全く同じ色ながら、雰囲気は別物だった。
少し儚くさえ感じられるその横顔は清廉で美しい。
しかし、そのはっとするような威厳は、決して真似などすることが出来ない強さがある。
簡単に言えばただ者ではない人だ。
そう言う意味では、レオナやメディクス様とそう変わらないかもしれないが。
そうこうしている間に自分の退場の時間が来た。
私は今、第一王女直属の側近としての衣装を纏っている。
レオナの象徴的な色である、黒に近い鮮やかな藍色の外套が邪魔で仕方が無いが、脱ぐわけにもいかない。
歩くごとに揺れ、まるで偉い人にでもなった気分だ。
いや、実際かなりの地位ではあるか。
未だに第一王女直属の側近という称号は慣れない。
いつか誰かに後ろから刺される気がする。
まあ、そんなことを考えていても仕方が無い。
レオナは一日中私室で祈るらしいので、私は外で待機だ。
王族はかなり大変である。
私だったら絶対に耐えられないだろうなと思った。
とにかく、この誕生祭で何か起こらなければ、それでいい。
漸く【始動編】もラストに差し掛かってきました。
やっとって感じですね。お待たせ致しました。
誕生祭が終わると、新しい章に入っていきます。
今回、儀式の描写を書くために実際の様子を参考にしていますが、物語で登場する宗教と直接的な関係はありません。




