29. 覚悟
空が、紫と赤を混ぜ合わせたような色になった。
雲がそれを吸い込んで、どことなく美味しそうな雰囲気になっている。
あんな色の食べ物は見た事がないが、きっと甘いはずだ。
ふわふわとした食感のお菓子は飛ぶように売れるだろう。
間違いなく儲かる。
「おーい。リヴィア、行くぞ」
―――現実逃避は、終了した。
がっくりと項垂れると、肩にぽんっと手がのせられる。
レオナだ。
「昼間ので疲れてるとは思うけどさ、もう少しだけ付き合ってくれよ」
「……無論です。私だけ待っている訳にはいきませんから」
部屋の中には私とレオナ、ユリア達侍女数人とクストスだけが居る。
だからこそこうやって悲しい顔をしていても、ぎりぎり許されるのだ。
これ以上の甘えは許されない。
右手で左腕をつねり、気合を入れ直す。
痛い。
私が憂鬱なのには理由がある。
こうやって少々無礼な行動をとってもユリアが苦笑するだけで留めてくれるくらい、大きな理由が。
「随分物珍しげに見られていたもんなー」
「……ええ」
元貧民で、次期女王たる第一王女の側近。
それだけでも暇を持て余す人間からしたら面白いのに、私の場合、外見も問題だったようだ。
化粧やらなんやらを教えてくれたフィデナ曰く、私の顔は人目を引くらしい。
レオナの瞳とはまた違う、青みがかった黒い髪。
やや切れ長だが、角は柔らかい(らしい)銀の瞳。
元貧民らしからぬ貴族のような見た目の私は、何故か奥様方に好評だった。
城に来てから知ったことだが、意外と貴族というのは上品で大胆だ。
蹴る殴るなんていうのは勿論なく、“第一王女のお気に入り”らしき私に直接悪口も言わない。
しかし、際を攻める方々も存在する。
昼間は謁見だとか祝辞の受け取りだとかがあったのだが、会いに来る人のかなりの割合が国内の有力貴族達だった。
その中でもレオナと親しいらしい、とある奥様の顔と言ったら。
大好物だと言わんばかりの表情を思い出し、身震いする。
一体どうやったらあの洗練された優雅な品定めが出来るんだ。
「従者としての正装も良く似合ってるからな。格好いいぞ」
「……お褒めに預かり光栄です」
城に来てから栄養状態が良くなったのか背も急に伸びた。
まだ二か月と少ししか経っていないが、最初はやや上の方にあったレオナの視線ともほぼ並行だ。
存在感とやらも少し前と比べればあるのかもしれない。
「難しいかもしれないが、お前は生まれのことなんか考えずに堂々としていればいい。美人が悠然と構えていれば強そうに見えるんだよ」
「…御心のままに」
やけくそ気味に頷くと、レオナは満足そうに笑った。
彼女の自信を少しでいいから分けて欲しい。
―――などと、呑気なことを考えていられたのは、この時までだった。
夕方の雲って美味しそうですよね。




