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灰色の空と、金の狼  作者: 灯薄
【始動編】
26/30

25. 発見




「たいっへん申し訳ありませんでした!」

「や、やめてください……」


人混みの中で、クスティナが盛大に頭を下げる。

人に謝罪される事すら慣れていない私は大変居心地が悪く、慌てて彼女を止めに入った。


「剣、お好きなんですか?」

「はい!剣を見ると人が変わるとよく言われるんです」


重ね重ね申し訳ないです、と落ち込むクスティナの背にぽんっと手を置く。


外から見ていると落ち着いて慰めているように見えているだろうが、心臓はバクバクだ。

以前レオナがこうして宥めてくれたことがあったので、それを真似したのだが、やはり不敬だったかと今更ながらに冷や汗が出る。


しかし、クスティナは気にすることなく「ありがとうございます……」と返してくれた。


「では、気を取り直してあの方への贈り物を探しましょう!」

「はい」


ばっと勢いよく顔を上げたクスティナが、気合を入れ直して歩き出す。


それに続くと、ふと、懐に確かな重みを感じた。


私の懐に入っているのは、初めて貰った給料だ。


この大国の第一王女であるレオナは、私が一生をかけても手に入れることが出来ないような高価な品を持っているだろう。

何度も何度も悩んだのだが、クスティナに“無いよりはいいはず”と教えられ、決心がついた。


すぐに捨てられたっていい。

あっという間に忘れられたって、後悔はない。


一瞬でも、レオナに気持ちが伝わるのならば。


私は満足だ。


「騎士になってから可能な限り質素な暮らしを心掛けているのですが、たまにある休日に少しお洒落をしたい時があるんです。そんな時に気軽につけられるような宝飾品を買う店がこの近くにあるんですよー」

「へぇ……」


ここ最近で、なんとなく察したことがある。


それは、貴族が宝飾品を身につけるというのは、仕事であるということだ。


クスティナの口調からすると今回の例は違うらしいが、貴族には貴族の苦労があるようだ。


城に来る前は彼等が権力を誇示するためだけに宝飾品を持っているのだと思っていた。

実際に、そういう意味もあるにはあるのだろう。


でも、それだけではないと知れたのは大きな収穫だった。



知ることで、見ている世界が変わって見える。



不思議なものだ。


その事実そのものも不可思議だが、そのことを面白いと思っている自分自身が一番分からない。


まあでも、楽しいならばいいかとも思う。


「あの方には贈るとなるとやはり難しいですね……」

「どのようなものでもお似合いになるんじゃないかという気になりますよね」


黄金の髪に、藍色の瞳。

鋭い美貌と鮮やかな笑顔の彼女に、似合わないものなんて無いだろう。


「具体的に何がいいとかあるんですか?」

「それが思いつかなくて……」


立派な外套なんて買えないし、貰っても使いようがないだろう。

かといって指輪の類も受け取りにくそうだ。


予算内で何かを買うというのがここまで大変だとは知らなかった。

そして、何故かわくわくすることでもあるとは思いもしなかった。

自分でさえ持て余す感情を、不快に感じないのはどうしてだろうか。


「そうですか……。なら、自分が大切にしているものとか、自分を象徴するものはどうでしょう?」

「大切にしているもの?」

「ええ」


クスティナはふらりと店に入る。

どうやらここがお目当ての場所らしい。


店内には、確かに予算内でぎりぎり買えそうで、且つ私でもそれなりに趣味がよさそうと分かる品々が並んでいた。


「どうして大切にしているものなんですか?」

「それは……」


クスティナが不自然に言葉を切る。

伝えるべきか悩んでいるようだ。

うーん、と眉間にしわを寄せて考えていた彼女は、吹っ切れたように話してくれた。


「己を差し出す覚悟がある、みたいな意味合いで使われることが多いんですけど、そんなに重い感じにとらえないんで欲しいんですよね」

「ほう」

「好きなものを共有したい的な雰囲気でどうでしょう」


どうでしょう、と言われても。


何とも反応し難いが好きなものを共有するというの発想は悪くない。

レオナ(王族)に対して干渉し過ぎなのではと思わなくもないが、他に名案もない。


しかし、と考える。


ほんの少し前まで文字通りの一文無しであった私には、ずっと持っている何か(形見)なんて無い。

強いて言えば首筋の入れ墨だが、これに関しては贈れるものではない。


困ったなぁ、と店内をぐるりと見渡した時、ある一つのものに目が止まった。

近づいて見ていると、それに気が付いたクスティナが近寄って来る。


「あ、いいですね、それ!」

「そうなんですか?」

「とっても!」


勿論これにしろというわけじゃありませんからね!と念を押すクスティナを片目に、私はもう一度それを眺める。



……これにしよう。



さくっと決めすぎかもしれないが、深い意味を持たせるつもりもない。


私は、無意識のうちに微笑んでいた。


まるで夕食の材料のように軽く購入していますが、当然安いものではありません。

忠告に従って貯金分は残していますが、それでで持ってきた銀貨をほとんど使わないと買えない品です。

クスティナは貴族の金銭感覚だし、リヴィアの感覚はそもそもずれているので誰も気が付きません。

貴族が直接お金を払うなんてこと自体、実際にはあまりありませんしね。

リヴィアは貴族じゃないし、クスティナも騎士なのでセーフかなと思っています。

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