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灰色の空と、金の狼  作者: 灯薄
【始動編】
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24. 私願




「リヴィア、あちらのお店がお洒落ですよ!」

「ま、待ってください……」


多くの旅人や商人が集う、城下町。

彼方此方で客寄せの声が飛び交うこの場所に来るのは、実に1か月以上ぶりだ。

これ程までに明るく、賑やかだっただろうか。


無邪気に駆け足で店に向かうクスティナを、私は息を切らしながら追いかける。

あっという間に店内に吸い込まれていく彼女の姿を見失わないよう、かなり必死だ。


人混みを掻き分け掻き分けようやく辿り着くと、きらきらと目を輝かせたクスティナが剣を眺めている。


どうして、私が再びクスティナと過ごしているのか。

そして、何故城の外に出られているのか。


荒げた息を整えつつ、私は昨日のことを思い出していた。


***


「明日出かけたい?」


瞳を満月のように開いたレオナが驚いた顔になる。

自分でも急な話だという自覚はあるので、深々と頭を下げ直した。


「ええ。丁度クスティナの休みがその日あるようで。折角だから久しぶりに外へ出てはどうかと、アウグスト様が」

「父上が?」


顎の先を摘み、暫し思案していたレオナがますます驚いた表情になる。

それもそうだろう。

私だってびっくりした。


城下へ出かける。


それは、私にある程度の行動の自由が許されたという意味に異ならない。


ここへ来た当初は二度と外の景色は拝めないと覚悟していたのに、この短期間で許可が下りるとは夢にも思わなかった。



私は、城下町が好きではない。



敢えて嫌いという言葉を使わないのは、そこまでの思い入れが無いからだ。


平民の者達は、いつも私達(貧民)のことを蔑み、差別し、暴行を加えてきた。

ある者は鬱憤を晴らす為、ある者は邪魔だと感じた為。

いつも私達は、攻撃される立場にあった。


仕方のないことなのだと思う。

私達が弱いのが悪いのだから。



当然のように尊厳を踏みにじられる私達は、きっと人ではなかったのだ。

少なくとも、少し前まではそう思っていた。



……脱線してしまった。

最近ふっとこういうことを考えてしまう。

レオナはいい傾向だと言ってくれたが、本当だろうか。



とにかく、私は城下町が苦手だ。

それでも私は城下町に行きたい理由がある。

いや、行かなくてはいけない理由があるのだ。



私には、重要な任務がある。

命に代えても完遂しなければならない使命が。



即ち、レオナへ贈る誕生日の品を選ぶという超重大任務だ。



人は、誰かを祝う時に贈り物を渡す習慣があるらしい。


先日クスティナからそれを聞いた時には流石に肝が冷えた。

もしその事を知らずに当日を迎えていたら、私はレオナを失望させてしまっただろう。

優しい彼女なら気にしない振りをしてくれるかもしれない。


でも、それでは駄目なのだ。



私が、彼女の誕生日をきちんと祝いたいのだから。



「父上が許可しているなら、私が頷かない訳にはいかないな。いい機会だ、楽しんで来い」

「ありがとうございます」


どんな苦難や試練があろうとも、私は必ず目的を果たしてみせる。


密かに覚悟を決めると、私はぐっと手を握りしめた。


***


「こちらの剣、かの有名な名匠が若い頃につくった作品だそうですよ!彼はずっと前から天才だと言われていて、現在では金貨何十枚かで買える物はほとんどありません!……彼の作品の大きな特徴と言えばこの刃先!この青い波線がこうぐっときますよね。やっぱり美しい……!模倣品も多く出回っているそうですがやはり本物とは程遠いという話で、彼の作品をちらとでも見たことがある者は一瞬で分かるとか。

どうにも高度な技術が必要とされるらしく、彼の弟子になれる人間は未だに存在しません。当然代わりとなる者もいません。なので例え目玉が飛び出るほどの値段であろうとも欲する収集家が後を絶たないんです。かくいう私も……」


「クスティナ、あの……」

「はい?」


すらすらと紡がれる呪文に付いていけなくなり、情けない話だが止めさせてもらう。

水を得た魚、という表現が正しいかは分からないが、クスティナは先程からずっとこの調子で喋り続けており、私が混乱するには少しの時間も掛からなかった。


今日のクスティナは、訓練している時とは全く違う清楚な服を纏っている。

忘れそうになるが、彼女は紛うことなき貴族の令嬢なのだ。


私も一応レオナから貰った普段着を着てきているものの、まるでお話にならない。


騎士として戦っている時とはがらりと雰囲気の変わったクスティナは、間違いなく誰もを魅了する佳人だ。

優しい笑み、凛とした佇まい、艶のある銅色の髪。

どこを切り取っても、完璧な淑女だ。


「えー、どこまで言いましたっけ。そうだ、私もですね、昔から父にねだって彼の作品を手に入れようとしたんです。ですけど……」



……この興奮さえなければ。



「大変申し訳ありません。どうか、ほんの少しの時間だけでいいのであの方への贈り物の相談に乗っていただけないでしょうか……!」


「あ」


やはり、忘れられていたのであった。


クスティナは剣のオタクです。

いらない、絶対に必要ない、高いし無理無理と思っていても、気付けば重い荷物を抱えている……なんていうのはよくある話なのでしょう。

また、同類がいたり、友人が興味を持ってくれる(ように錯覚する)と思わずマシンガントークしてしまうというのもあるある。

辛いけど、楽しい。これが推し活なのだ……!

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