17. 報酬
「リヴィア殿、お時間いただいて問題ないだろうか」
午前の仕事を終え、夕方の軽い休憩に入るべく廊下を歩いていた時だった。
レオナ付きの従者の総括をしているクストスから声を掛けられた。
「はい。問題ありません」
私は返事をすると、クストスに促されるままに休憩室に入る。
中にはユリアと数人の侍女、そして一部の従者が集まっていた。
全員この時間帯に休憩の者達である。
「財務担当から全員分の給料を預かってきた。侍女は侍女長殿から、従者は私から受け取ってくれ」
給料。
話には聞いていたが、全く現実味がない。
そもそも今まで稼ぐという事さえ知らなかった私にとって、給料というのは限りなく縁のないことだった。
私は謎の手汗が浮いてきた手を握りしめ、意味もなく息を殺した。
私は城に来てから最も日が浅いし、立場的に最も下なので列の最後尾に並ぶ。
他の者達は慣れた様子で麻袋を受け取っているが、やはりその袋の膨らみは尋常ではない。
流石に私があそこまでの大金を手にすることはないだろうが、見ているだけでも怖いものは怖いのだ。
未だに、私は金目の物を見ると手を出してしまいそうになる。
完全に無意識で、だ。
最早癖になっているのだろう。
何とか理性が勝って止まることが出来る為、事件にまでは発展していない。
自分でも苛立つほどに、思考が貧民街に居た時と同じになってしまうのだ。
レオナは徐々に慣れていけばいいと言ってくれているが、早く直したいものである。
「リヴィア殿」
いつの間にか、列が進んでいた。
クストスに呼ばれ前に出る。
差し出された麻袋を受け取ると、がしゃりと音が鳴る。
その重みに、私は目を剥いた。
「銀貨35枚だ。初めての月だから少なめになっているし、まだひと月しか経っていないからその分しか入っていない。毎月渡せるわけではないから貯金する事をお勧めする」
「は、はい」
表情を取り繕いつつ、やっとの思いで頷く。
よく分からない罪悪感が私を襲った。
まるで危険物を扱っているかのような私の格好に、呆れたようにユリアが近づいてくる。
「リヴィア、それは貴方が働いて手に入れた正式なお給料ですよ」
「で、ですが……」
食事、服、部屋さえをも無料で貸してもらえている。
その上で銀貨35枚。
過分すぎる扱いだ。
「……レオナ様に拾われた、という負い目があるのですか?」
「!」
静かな声で、ユリアが私の心情を言い当てる。
そうだ。
レオナに拾われた。
物凄い偶然で、つい最近まで日銭を稼ぐことも出来なかったような子供に銀貨が与えられる。
そんな皮肉がまかり通っていいのだろうか。
卑屈になっているのかもしれない。
けれど、無念な想いを抱えたまま飢餓で死んでいった彼等達の顔が脳にこびり付いて離れなかった。
「……今は、私の言葉なんて信じられないでしょう。ですが、これだけは忘れないでください。レオナ様が貴方を見つけ、城に連れて帰ったのは偶然ではありませんよ」
「それは、どういう……」
運も実力の内とでも言いたいのだろうか。
そんな話をわざわざ伝えてくるなんて、合理的なユリアらしくなかった。
「……諦めなかったのでしょう?」
「え?」
「貧民街で生き残ろうとしていたと聞いていますよ」
生き残ろうとした?
それは当然のことだろう。
誰だって死にたくないはずだ。
受け取っておきなさい、とだけ言ってユリアは部屋を出て行く。
私は混乱の中、もしかして今のは褒められたのではないだろうかと気が付いた。
それを確かめようにも、もう休憩時間は終わる。
私は軽いもやもやを抱えたまま、ユリアの後に続いて仕事に戻った。
王女付きの男性従者は、年に720〜1440枚くらいの銀貨が給料としてもらえました。
月換算でいくと、約60~120枚。
日雇いの労働者が1日銀貨2~3枚だったことを考えるとかなり高収入です。
羨ましいですね。
でも、豪華な服を買ったり(体面を保つためのものです)、贈り物をしたり、移動のために使ったり、家族への仕送りもしていたので割と直ぐに消えます。




