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灰色の空と、金の狼  作者: 灯薄
【始動編】
18/30

17. 報酬




「リヴィア殿、お時間いただいて問題ないだろうか」


午前の仕事を終え、夕方の軽い休憩に入るべく廊下を歩いていた時だった。

レオナ付きの従者の総括をしているクストスから声を掛けられた。


「はい。問題ありません」


私は返事をすると、クストスに促されるままに休憩室に入る。

中にはユリアと数人の侍女、そして一部の従者が集まっていた。

全員この時間帯に休憩の者達である。


「財務担当から全員分の給料を預かってきた。侍女は侍女長殿から、従者は私から受け取ってくれ」



給料。



話には聞いていたが、全く現実味がない。

そもそも今まで稼ぐという事さえ知らなかった私にとって、給料というのは限りなく縁のないことだった。

私は謎の手汗が浮いてきた手を握りしめ、意味もなく息を殺した。


私は城に来てから最も日が浅いし、立場的に最も下なので列の最後尾に並ぶ。

他の者達は慣れた様子で麻袋を受け取っているが、やはりその袋の膨らみは尋常ではない。


流石に私があそこまでの大金を手にすることはないだろうが、見ているだけでも怖いものは怖いのだ。




未だに、私は金目の物を見ると手を出してしまいそうになる。




完全に無意識で、だ。

最早癖になっているのだろう。

何とか理性が勝って止まることが出来る為、事件にまでは発展していない。


自分でも苛立つほどに、思考が貧民街に居た時と同じになってしまうのだ。


レオナは徐々に慣れていけばいいと言ってくれているが、早く直したいものである。


「リヴィア殿」


いつの間にか、列が進んでいた。

クストスに呼ばれ前に出る。


差し出された麻袋を受け取ると、がしゃりと音が鳴る。

その重みに、私は目を剥いた。


「銀貨35枚だ。初めての月だから少なめになっているし、まだひと月しか経っていないからその分しか入っていない。毎月渡せるわけではないから貯金する事をお勧めする」

「は、はい」


表情を取り繕いつつ、やっとの思いで頷く。

よく分からない罪悪感が私を襲った。

まるで危険物を扱っているかのような私の格好に、呆れたようにユリアが近づいてくる。


「リヴィア、それは貴方が働いて手に入れた正式なお給料ですよ」

「で、ですが……」


食事、服、部屋さえをも無料で貸してもらえている。

その上で銀貨35枚。

過分すぎる扱いだ。


「……レオナ様に拾われた、という負い目があるのですか?」

「!」


静かな声で、ユリアが私の心情を言い当てる。


そうだ。


レオナに拾われた。

物凄い偶然で、つい最近まで日銭を稼ぐことも出来なかったような子供()に銀貨が与えられる。

そんな皮肉がまかり通っていいのだろうか。


卑屈になっているのかもしれない。

けれど、無念な想いを抱えたまま飢餓で死んでいった彼等(同族)達の顔が脳にこびり付いて離れなかった。


「……今は、私の言葉なんて信じられないでしょう。ですが、これだけは忘れないでください。レオナ様が貴方を見つけ、城に連れて帰ったのは偶然ではありませんよ」

「それは、どういう……」


運も実力の内とでも言いたいのだろうか。

そんな話をわざわざ伝えてくるなんて、合理的なユリアらしくなかった。



「……諦めなかったのでしょう?」



「え?」


「貧民街で生き残ろうとしていたと聞いていますよ」



生き残ろうとした?

それは当然のことだろう。

誰だって死にたくないはずだ。



受け取っておきなさい、とだけ言ってユリアは部屋を出て行く。


私は混乱の中、もしかして今のは褒められたのではないだろうかと気が付いた。


それを確かめようにも、もう休憩時間は終わる。

私は軽いもやもやを抱えたまま、ユリアの後に続いて仕事に戻った。


王女付きの男性従者は、年に720〜1440枚くらいの銀貨が給料としてもらえました。

月換算でいくと、約60~120枚。

日雇いの労働者が1日銀貨2~3枚だったことを考えるとかなり高収入です。

羨ましいですね。

でも、豪華な服を買ったり(体面を保つためのものです)、贈り物をしたり、移動のために使ったり、家族への仕送りもしていたので割と直ぐに消えます。

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