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灰色の空と、金の狼  作者: 灯薄
【始動編】
17/30

16. 提案




「もしかして最近、特に城が忙しかったりします?」

「お、気付きましたね。正解です。実は今、レオナ様の誕生祭が近いので慌ただしいんです」


まだ夜も明けぬ頃。

私ととフィデナは、朝の支度をしていた。


私がこの城に来てからそれほど経っていない。

精々、一ヶ月程だろうか。

今まで日を区切る考え方が無かったので、未だに曖昧なのである。


それでも、一ヶ月仕事をしているのだ。

何となく城全体が忙しそうな雰囲気なのは伝わってくる。


「レオナ様の誕生祭ですか」

「そうなんです。19歳になられるという事で、より盛大にする必要があるとか」

「なるほど」


確かに、それ重要だろう。

王族の誕生祭となれば他国からも客を招くだろうし、国中からお偉い方が集結する。

城中が多忙を極めるのは当然のことだ。


「さあ、朝食を済ませますよ」

「了解しました」


朝の準備を終え廊下に出る。


貴族でも、あまり朝食はしっかり食べないらしい。

基本的に昼食の量が多く、夜は日によって変わるとか。


何か行事があると相応に豪華になるし、何もなければ簡単なものになる。

簡単なものと言っても、当然王族が口にするものなので、手の込んだ料理ではあるのだが。


レオナの部屋の近く、侍女達の控え室に着く。

既にユリアが来ており食事をしていた。

軽く挨拶をすると、着席を促される。


私は会釈をして、席についた。


白パンに羊のチーズ、昨日の残り物のスープと薄めたエール。

これが普段の朝食だった。


ちなみにこの食事はかなり多い方だ。


基本的に王女付きの侍女は、下級から中級の貴族の娘で構成されている。

それが関係あるかは分からないが、意外と他のところでは簡素な食事が多いらしい。

何でも私が来てから更に材料費が上がったとか。


恐らく、それは私が城に来た時にしたお願いの影響だろう。

レオナは最高の食事を約束してくれた。

事実、正直に言って従者にはもったいないほどの食事が提供されている。


有言実行のレオナには敬意を持つとともに、下手なことは言えないなと思った。


***


「誕生祭か。面倒だな」


何とも気合の入らない声が、執務室に響く。

いつもよりもさらに子供のような態度で椅子に座るレオナは、心底面倒くさそうだった。


「きっと外交で重要な時間なのでしょう?主役ですし、欠席するわけにはいかないでしょうし」

「だからだよ。責任重大過ぎて逃げたい」


はあ、と溜息をつくレオナの髪に朝の光が当たり、金色に輝く。

彼女は、珍しく訓練終わりなのに浮かない顔だ。

よっぽど誕生祭が嫌らしい。


嫌だ、と言えば、朝の訓練。


結果から言うと、この一か月間ほぼ毎日騎士団の訓練を共にし、きちんとした食事を摂取することで、私は限りなく健康になった。


以前ははっきりと形が分かるほどに浮き出ていた、あばら骨の周りにも適度な脂肪と筋肉が付き、体力も増加した。


いつも顔を合わせるクスティナに驚かれ、時々執務室に訪れるメディクス殿下も目を丸くするほどの速さだった。



思考が逸れていたことに気付き、私は意識を戻す。

私にはどうやら、一度何かを考え出すと止まらなくなる呪いでもかかっているようだ。



レオナの誕生祭。

3日に渡って行われ、帝国の現皇帝セウェルス・アウレリアを招くらしい。


1日目は教会で祈りを捧げ、2日目に大宴会、3日目に軽い催しだそうだ。

私は神を信じていないし、レオナもあまり信心深くはなさそうだ。

だが、この国において教会の影響は強力なため、形式上祈りを捧げる時間は必要らしい。


私としては天罰よりも、無知な人々による無意識な差別の方がよっぽど怖いと思うのだけれど。


「お嫌ですか?誕生祭は」

「立場上、素直に嫌だとは言えないな。まあ、面白みのない行事であることは確かだ」


つまり、嫌だと。


面倒だとか面白みがないとかは言っていいのに、嫌だとは言えないとはよく分からない。

レオナの中にはきっと、自分なりの決まりがあるのだろう。


「……誕生祭が終わったら、私が個人的にお祝いしましょうか?」

「いいのか!?」


完全に冗談のつもりで放った言葉に、レオナが身を乗り出して食いついてくる。

その勢いに思わず仰け反ってしまった。


「え、お祝いしてよいのですか?」

「お前がいいのなら、是非」


こちらを見てくるレオナの目が、とても輝いて(キラキラして)いる。

狼狽えつつ助けを求めてユリアとフィデナを見ると、2人は打ち合わせていたかのように同時に首を振る。

自分で言い出したことは自分で責任を取れ、と。

私の師匠達はそうおっしゃりたいらしい。


視線を戻すと、レオナは依然こちらを見ていた。

その瞳にはからかいと、本当の期待がある。


これは、応えない訳にはいかなかった。


「では、誕生祭が終わった後に」

「ああ、分かった!」


先ほどとは打って変わって機嫌よく仕事に戻るレオナ。

ここまで純粋に喜ばれると、こちらとしても満更ではない。


時々自分よりも年上だという事が信じられなくなるくらい、幼い表情を見せる彼女は、見ていて飽きない。

まったく、色々な意味で目が離せなかった。


第一王女の誕生祭は、女王の誕生祭ほどではないにしても、大イベントでした。

外交上、非常に重要な時間でもあったらしいです。

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