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灰色の空と、金の狼  作者: 灯薄
【始動編】
16/30

15. 調査





「召集された者が全員揃いました」


日も暮れ、蠟燭の明かりと微かな月の光だけが部屋を照らす時間帯。

レオナの執務室に、ユリアやフィデナを中心とする侍女達や、クストスを始めとする近衛兵達が勢揃いしていた。


当然、彼等を呼び出したのはレオナである。


「ご苦労。リヴィアは?」

「朝の訓練や今までの疲れが出たのか、眠そうだったので先に寝てもらいました」


非常に真面目な顔でフィデナが答える。

彼女は普段お茶らけた性格なのだが、実は外面がいい。

その為、未だに彼女のことを生真面目な堅物だと思っている者も多くいる。


「そうか。では、ユリア。リヴィアの様子を教えてくれるか?」

「承知いたしました」


リヴィアを城に連れてきてから数週間。

万が一にも暗殺屋の類ではないか、それを確認するための機会をつくった。


「今のところ怪しい動きはありません。まだ様子見という可能性はありますが、低いでしょう。首の紋章については、今のところ何も分かってません」

「隠密からも報告が来ている。特定には時間が掛かりそうだ。フィデナ、そちらはどうだ?同室だろう」


リヴィアとフィデナを同じ部屋にしたのは、監視するでもある。

リヴィアが一人きりになる時が無いようにし、尻尾を出させるためだ。


「こちらも特に異常はありません。貧民街の子供にしては落ち着いていますが、レオナ様の策が功を奏したのかと。非常に頭の切れることを除けば、平均的な17歳前後の少女です。栄養状態は悪かったので、身長も伸びてはいませんが」


策、といってもそんな大それたものではない。


レオナが徹底して意識したのは、リヴィアに暇な時間を作らせないことだ。


いきなり連れてきて、ゆっくりとさせないのは可哀想だとは思う。

しかし、レオナには危惧していることがあった。


もし、何かをじっくり考える時間をつくってしまったら。




リヴィアが、消えてしまうのではないか。




そう考えてしまったのだ。




レオナはこれまで何度か城を抜け出し、貧民街に訪れている。

その時、沢山の貧民街の子供達を見た。



荒んだ目をした、生きる事を最早諦めているような子供達を。



それを見たレオナは、強い衝撃を受けた。


城の中とて、優しい世界ではない。

唯一の王位継承者であったレオナは、小さい頃から何度も命を狙われた。

侍女や近衛兵、大恩ある諜報部元長官。

彼等がいなければ、きっともう死んでいただろう。


アウレリア帝国との戦争が長引き、国内の状態が悪かった。

レオナの母親であるセレナ・グラディアも上手く立ち回った方だが、やはり帝国の影響は大きかったのだ。


元は、現在帝国の皇帝であるセウェルス・アウレリアと、その弟2人による帝位争いだった。

なかなか収まらない帝国の内乱で苦しんだのが王国の国民達であった。


国内外の様子を見かねた王国は、まともだと判断した帝国の長男の支援を始める。

結果、王国を巻き込んだ戦争となったのだ。


戦争の際にできてしまった難民達の受け入れを行い、無事に勝利をおさめた王国は現皇帝に恩を売りつけるとともに、様々な物を独占することに成功した。


しかし、失敗もあった。

ただでさえ財政が厳しい時に、別の国の面倒までみたため、貧しい人々にしわ寄せが行ってしまったのだ。


戦争が起こる前、王国に貧民街はほとんど存在しなかった。

あっても辺境で、それも死人が出るほどの酷い状態ではなかった。

それが戦争によって大きく変化してしまったのだ。


戦争によって男手が減り、後処理が追い付かなかった。

貧民街の崩れた瓦礫はそのままに、貧民達への対応は教会任せ。



その末路が、これだ。



レオナが出会った子供は、彼女から盗みを働こうとした。

その時は反射的に避けたが、訓練を受けていなければ盗まれていたかもしれない。

それだけの技術を、()()()()()()()()のだ。


子供はまるで薄汚れた狂犬のようだった。

そう、見えてしまった。


それが何より恐怖だった。


あの光景をつくり出したのは自分達王族の責任なのに、それを自覚しているはずなのに、彼等を汚いと思ってしまった己自身が。

愚かな自分が、一番恐ろしかった。


その時の気持ちが忘れられず、レオナは何度も貧民街に通った。

父親や側近から注意されても止められなかった。



そして。

リヴィアに出会ったのだ。



生き残ることを諦めていない、一匹の誇り高い獣に。



灰色の世界で、唯一といっていいほど強い目をした彼女に。

一歩でも間違えれば、闇に落ちてしまいそうな危うい存在に。


レオナは、強い興味を抱いたのだ。


自分でも現金なものだと思う。

他の子供達は見捨てたのに。

綺麗になり切れない自分を呪いながら、それでも。


彼女に生きて欲しい。

そして、彼女の行く末を近くで見ていたい。

そう考えてしまったのだから。



『きっと、人は、それでいいんです』



果たして、救われたのはどちらの方か。


あるいは―――。


近衛兵のクストスの報告を聞きつつ、レオナは目を瞑った。


王女が街の様子をこっそり見る事は、実際にあったようです。

ですがレオナのように護衛を付けたくないがために城壁を越えていくような、とんでもない人はいませんでした。

それを可能にさせた諜報部の元長官は一体……?

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