Lv∞. 真・ラスボス・クエスト
「……大まかなプロットは、こんなところだな。率直な感想を聞かせてくれ」
「う~ん……ちょっと私には難しいかも……専門用語が多いっていうか、精神世界だの抽象的な概念が多いっていうか」
「わかった。専門用語とかは極力とっぱらおう」
「でも、そうしたら単純っていうか、チープなストーリーにならない? アタシ馬鹿なの自覚してるし、アタシの意見はあまり参考にしない方が」
「馬鹿でも理解できるような内容じゃないとダメなんだよ。理解してくれる人にだけ理解してもらえばいい、なんてものはパロディ物だけで十分だ。大体俺だって高校二年生だ、お前と大差ないっつうの。大人が作ったゲームをプレイしたところで、大人になるわけがないんだ。高校二年生は高校二年生のボキャブラリーと考えで作ればいいんだ」
ラスボス・クエストを完成させ、ラボちゃんを助け出す……だけど、適当なストーリーを作ってはい終わり、なんて勿論プライドが許さない。だから俺達はこうして通学途中、学校の休憩時間、放課後と、自由な時間をフルに活用して理想のゲームを作るためにミーティングを行っていた。現在は大まかなプロットの制作中で、これが終わっても実際にソフトを使ってマップを作ったり、イベントを配置したり、ステータスを設定して戦闘を成り立たせたり、バグがないかチェックしたり……やることは山積みだ。
「お前ら、期末テストも終わってもうすぐ春休みだってのに、毎日難しい話してんな。何かやってんのか?」
「ゲーム作ってんだよ」
「へえ、ゲーム。二人の世界に介入しちゃいけない気もするけど、手伝えることがあったら手伝うよ」
「そういうことなら頼ってくれよ。ほら、去年お前にお勧めだからプレイしてくれってやらせただろ、あの感動のギャルゲー。あれ実は俺が作ったんだぜ」
「ありがとう園田君。友人、あれ超絶クソゲーだったぞ……でも、サンキューな」
これは俺の問題だけど、だからって俺だけでなんとかしようなんて当然思ってない。黄龍には頼りっぱなしだし、ピンチの時にはクラスメイトにだって協力を求めるつもりではいた。こうして向こうの方から協力してくれるなんて言われると、友情って素晴らしいよなあなんて感慨深くなる。
「網野氏! そういうことなら拙者に任せてくだされ! 今こそ時代遅れのドッターとしての真骨頂を見せる時!」
「私趣味で小説書いてるから、文章の基本とか、セリフの基本とかだけど教えられるよー」
教室の一方では、黄龍とその友人達も同じようなやりとりを繰り広げていた。クレジットに大量のスペシャルサンクスを入れないとなと笑いながら、この日も夜遅くまで案を練る。そして協力者のおかげでプロットといった枠組みは無事完成、いよいよソフトを使ってそのプロットを形にする段階だ。
「ゲームを作るためのソフトは昔に比べて随分と優秀になったけど、結局はプログラミングとかやらないといけないんだよなあ、昔の俺はそれが苦手だったし、何度も途中までテストプレイをするのが嫌で結局投げちまったんだよ」
「アタシはプログラムとかは役に立ちそうにないけど、全力で応援するわ。具体的には、アンタが投げ出しそうになったらボコボコにするわ」
「前門の虎、後門の狼ってやつか……上等だ、春休み中に終わらせてやる」
協力者達がグラフィックを提供してくれたり、素材サイトや戦闘のシミュレーションといった便利なツールを教えてくれたりしているとはいえ、ゲームを作るというのは非常に大変な行為だ。最初から大量にマップを作って管理できなくなってしまったり、レイヤーの概念を考えずに作った結果上下関係がおかしなことになったりと、厳しい現実がのしかかる。
「ほら、おにぎり作ったわよ、食べなさい」
「ありがとう……持つべきものは恋人だな……って甘っ!? おいてめえ、また塩と砂糖を間違えただろ……」
「間違えてないわよ。疲れた時には甘いものって言うじゃない」
「そんな配慮はいらんて……」
時には恋人の手料理を食べたり、
「……膝枕してくれ」
「!? ア、アンタからそんな事言うなんて、余程精神的に滅入っているのね……わ、わかったわ、どうぞ」
「わーい……柔らかくない」
「うぐ……少しは配慮しなさいよ……」
恋人の筋肉質な膝枕を堪能したり、仕事も恋も満喫すること二週間。とうとうその時がやってきた。
「……うん、いいわ、いいわよこれ。アタシでもクリアできたし。ボリュームも、決して少なくはないわ」
「ひとまず、完成ってとこだな」
一通り黄龍にプレイさせること数時間、たくさんのスペシャルサンクスが入ったスタッフロールを前に満面の笑みを浮かべる彼女。所詮は個人が制作したゲームだ、数十時間も遊べるような仕上がりにはならなかったし、戦闘のバランスだって、既存のゲームをインスパイアしまくりだ。けれど遊べる出来には仕上がったはずだし、何よりストーリーがきちんと存在している。この世界では、ラボちゃんはきちんと助け出されてハッピーエンドで終わるのだ。
「……これで、ラボちゃんも成仏できるかしらね」
応援に補佐にテストプレイに、立派に右腕として活躍してくれた黄龍が大きく背伸びをする。助け出されることなく消えてしまったラボちゃんだが、これでいくらかは救われただろう。罪滅ぼしにはなったのかもしれない。
「いや、まだだ」
「……? これに改良を重ねるって意味? あ、それで行く行くは商業作品としてデビューさせるとか? いいじゃない、頑張りなさいよ」
「そうだな、そういうのも面白いかもしれないな。……でも、俺はラボちゃんに謝りに行かないといけないんだ」
けれど、自分自身の手でラボちゃんを救い出して、ただいまって言って、ごめんねって言わないと気が済まない。俺の長い長いゲームと向き合う冒険の旅は、そうしないと終わらないのだ。
「……でも、もうラボちゃんはいないわ。ゲームの世界に行くことなんてできないのよ」
そんな俺の望みを聞いて悲しそうな顔になる黄龍。確かに俺達をゲームの世界へ誘ってくれる彼女はもういない。けれど、けれど今の俺なら、プレイしてきたゲームと向き合って、自分の作ったゲームと向き合って成長した今の俺なら、奇跡だって起こせる気がした。俺は部屋の中心に立つと、どこかで俺のことを見ているに違いないラボちゃんに向かって吠える。
「ラボちゃん! もう一度俺にチャンスをくれ! もうラボちゃんを忘れたりなんてしない! きちんと君を救ってみせる! ヒロインってのは、異世界から勇者を召喚するもんだろう? だったら俺を召喚してみろ! 俺に自分を知って欲しくてこっちの世界まで来たんだったら、救ってもらうために俺を喚んでみろよ! 本当のエンディングを、見せてやるよ!!!」
恋人に馬鹿だと思われようが気にしない。奇跡は起きるものではなく起こすもの、完成されたゲームの世界からラボちゃんが俺を見ていると信じて俺は吠え続ける。
「……そうよそうよ! ラボちゃん、このままでいいの? 本当にこの完成度でいいの? 言いたいことが、たくさんあるんでしょう? だったらもう一度、奇跡を起こしてみなさいよ!」
そんな俺の哀れな姿を真剣に見ていた黄龍だったが、やがて彼女も吠えはじめる。現実とゲームの世界の区別もつかない馬鹿な男女は只管に吠え続け、気が付いた時には俺達は少しだけ懐かしい、最初の村に降り立っていた。奇跡は、いや、俺達の、ラボちゃんの願いは通じたのだ。
「さあ、最終決戦と行こうぜ……!」
「ええ、最高のエンディング、見せてもらうわよ!」
喉がからからになるまで、汗まみれになった吠えた俺達。けれど立ち止まってなんていられない、心地よい疲労感はむしろ身体を活性化させるなんていい加減な理論を振りかざし、早速冒険の旅に向かうのだった。




