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「で、ラボちゃんはどこに囚われているのよ」
「さあな……大体は次のダンジョン辺りで復帰するんだが……もしかしたら……」
「もしかしたら?」
「いや、憶測でいい加減な理論を並べて士気を下げるわけにはいかない。とにかくここを下山して、次の町を目指そう」
例えばラボちゃんをさらったのが盗賊だったら、大抵すぐに盗賊のアジトに殴りこんで奪還することができる。だけどドラゴンだったら……杞憂であって欲しいと願いながら次の町へ向かうが、残念ながらこういう時の勘はよく当たる。
『あそこに住んでいる翼竜は、魔王の手先なんだ。高い魔力を持つ人間をさらって、手下にするために魔王城に連れていくそうだよ』
「何ですって!? ちょっと、魔王城ってあれでしょ? いわゆるラストダンジョンでしょ? それじゃあ何? ラボちゃんは、最後まで帰って来ないってわけ?」
「だ、大丈夫だよな? 俺の世界の姫様は、途中でお城に戻ってきたし」
「落ち着けよ黄龍……いや、俺も正直動揺しているか」
黄龍を宥めながらも、自信も内心気が気でない。序盤から主人公の仲間になって、最後までいてくれるものかと思いきや早々敵にさらわれて、エンディングまで会えないヒロインなんていくらでもいる。あーちゃんが言うように途中で復帰する可能性だってあるけれど、変なところでマイナス思考な俺は既にラボちゃんは最後まで会えない、という気持ちになっていた。
「……ありがとう、落ち着いたわ。思ったんだけど、ラボちゃんの望みって、アンタにゲームをクリアして欲しい、エンディングで救って欲しい……そんな単純なものなんじゃない? ゲームが難しすぎて、今まで誰もクリアしたことが無かった、だからアンタに頼った……このゲームの記憶云々は、でっち上げなのかも」
悲しそうな顔でそんな推測をする黄龍。彼女の言う通り、俺はこんなゲームをプレイしたことがなくて、自分を救って欲しいラボちゃんが、俺を助けて誘導していたのかもしれない。『私が選んだ勇者様』なんて言葉も、そう考えるとしっくりする。けれど、俺はこのゲームを知っている、どこかで見たことがある……冒険を続ければ、全てを思い出すんじゃないか、そんな既視感も持ち合わせていた。
「さあな……どっちにしろ、行くしかねえか。……そうだよ、俺達はずっと一緒に旅をしてきた。 この世界ではすぐにさらわれてしまったし、最後まで会えないのかもしれないけどさ。俺達の今までの冒険からすれば、ほんの僅かな時間だよ。ラストダンジョンの中でちょっとヒロインが離脱する、その程度なんだよ。さあ、さっさとラボちゃんを助けに行こうぜ。ま、あっさりとクリアしてもそれはそれでつまんねーけどな」
「不謹慎ね。ま、そこがアンタのいいところでもあるんだけどね」
「そうと決まれば行こうぜ親父、母さん!」
彼女を救うために、この世界の謎を解くために。俺達は円陣を組むと、魔王城へと行くために冒険を再開する。魔王城には結界が張られており、その結界を解くためには五体の四天王を倒さなければいけないらしい。あの時ラボちゃんをさらった青いワイバーンも、四天王の一体だそうだ。最初の四天王の元へ向かうため、俺達は巨大迷路へ向かう。
「うへえ……とんでもなく長そうな迷路ね……敵は出て来ない、って説明があったけど、それでもげんなりだわ」
「聞いたことあるぜ、壁に右手をつけばいいんだよな?」
迷路の入り口の前、どんな作戦で迷路を踏破すべきか作戦会議をする俺達。だが、気付けば俺の頭の中には、まるで最初から知っていたかのように迷路の攻略法が浮かんでいた。
「……この迷路は、出口がないんだ。ダミーなんだよ」
「はぁ!? 何それ、意地悪すぎじゃない? ていうか何でそんなこと知ってるのよ」
「わからない……わからないけど、頭に浮かんできたんだ。ここを突破する道はただ1つ、迷路の外周を周るんだ」
「コペルニクス的発想だなおい」
頭に浮かんできた情報を頼りに迷宮の外周をぐるりを回ると、あっさりと次の地域へ移動する。その後、いくつかのダンジョンを攻略することになったのだが、そこでも俺の頭の中の知識が大活躍。
「そこの本棚を動かすんだ。その先に通路がある」
「ここのボスは戦わなくてもいい方法がある。ここにある隠し通路を通るんだ」
「そのコウモリは嘘つきだ、5ターン目に必殺技を使うと言っているが実際には4ターン目に使ってくる」
次々と溢れてくる攻略法により、お世辞にもバランスがいいとは言えないこのゲームを、驚く程すいすいと攻略して行くのだった。快進撃に上機嫌な黄龍とあーちゃんだが、俺の頭の中は何ともいえない不気味さに支配される。ここまでくれば間違いない、俺はこのゲームを知っているのだろう。だが、いつのゲームだ? 何をしたんだ? 後もう少し、後もう少しで思い出せるような気がするのに、出てくるのは断片的な攻略法ばかりでもやもやするばかり。
「ねえねえ、ひょっとしてアンタ、このゲーム途中でやめちゃったんじゃない? 色んなゲームをプレイしてきたのにこのゲームだけ途中でやめたから、ゲームの中にいるラボちゃんが寂しがったのが事件の発端、とか」
「探偵をやっていただけのことはあるな。確かに、俺はこのゲームをやったことがあるけど、エンディングは見たことがない気がするんだ。プレイしている途中に風邪をひいてそのまま忘れてしまったとか、やっている最中に友達にゲームソフトを貸したまま戻って来なかったとか、そんな理由があるのかもな」
「ゲーマーに忘れ去られたゲームのヒロイン、か……悲劇のヒロインじゃねえの、きっちり救ってやろうぜ勇者様」
黄龍の言っていることは正しいのだろう、先程までは頭の中に次から次へと攻略法が浮かんできたが、今はほとんど浮かばなくなっている。もうすぐ攻略法が浮かばなくなるのだろう、そしてそれはそこから先は攻略していないということなのだろう。そこからが、俺達の冒険の本領発揮という訳だ。無駄に長いダンジョン、おつかいイベントをひたすらにこなし、ついに最初の四天王の待つ館に俺達はたどり着いた。
「……っ! ……?」
館の扉を見た瞬間、激しい頭痛が俺を襲う。何か警告めいたものを感じ取ったが、何に対する警告なのかわからない。ダンジョンの仕掛けなのだろうか、ボスなのだろうか。きっとここから先はプレイしていないから、知っている情報と知らない情報が混ざり合って混乱しているのだろうと解釈して納得しようとするが、それに反比例するかのように頭痛は酷くなる。
「さーて、いよいよ四天王ね、燃えてきたじゃない。アタシが扉、開けていい?」
「……! や、やめろ……その扉は……」
その扉を開いてはいけない、頭痛と共に頭の中にそんな警告がなだれ込んでくる。扉を開いたら最後、取り返しのつかないことになる……そんな気がしてならないのだ。
「? 開けちゃダメなの? じゃあどうすればいいのよ」
「わからない……多分ここから先は、プレイしていないんだ」
「プレイしてないなら、開けちゃダメかどうかわからないじゃない」
「でも、多分ダメなんだよ……」
ガクガクと身体を震わせながら、扉を開けてはいけないと言い張る俺だが、何故なのか、どうすればいいのか、そんな具体的な情報は何もわからない。でもダメなんだ、開けちゃダメなんだ。
「親父、未知のエリアだから、自分の知識が通用しなくなるのが怖いんじゃないか? 大丈夫だって、俺も母さんもいるんだからさ、三人いれば、どんなことも乗り越えられるっての」
「そうよ、あーちゃんの言う通りよ。リーダーなんでしょ、勇者なんでしょ、前に進まなきゃ。開けるわよ」
「……あ、ああ……」
どんどん頭痛が酷くなり、まともに喋ることもできなくなった俺を、単にビビっているだけだと解釈したのか黄龍とあーちゃんは特に心配することなく扉に手をかける。そして黄龍が扉を開けた瞬間、
「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」……
膨大な、何もないデータが怒涛のように世界になだれ込み、すぐに全てが無になった。
「ドコなのよ……ココは……」
「何もかも真っ黒だな……お、おい親父、大丈夫か!?」
全てが黒い、地面なんて概念すら存在しない、性質の悪い宇宙空間のような世界。そんな世界に戸惑う二人とは裏腹に、俺は全てを理解して、絶望に打ちひしがれる。
「ないんだよ」
「ない? 何がなの? 一体なんでこんなことになったの?」
虚ろな目で、乾いた笑いを浮かべる俺に詰め寄る黄龍。そんな彼女に、俺はこの世界の真実を告げる。
「この先は、作ってないんだよ」
ラスボス・クエストは、俺が作った……いや、作りかけて放置して、記憶の海からも忘れ去った、出来損ないのゲームだったのだ。




