Lv666.ラスボス・ク縲スト 0x80040707
「エンカウント率高すぎない?」
「平均して8歩に一歩エンカウントするらしいわよ」
「円卓の騎士よりはマシだと思うべきか……戦闘も単調だし、技名だけカッコつけてるし」
「アタシは好きだけどね、『真・爆熱拳ファイナルEX』とか」
全体的に高めのエンカウント、単調な戦闘、その癖ただの回復魔法に『聖母の口づけ』なんて名前をつけたり……俗に言うクソゲーもたくさんプレイしてきた俺ではあるが、色々とげんなりするゲームだ。
「お! あそこに見えるのって、町じゃないか?」
退屈な旅を続けることしばらく、あーちゃんが嬉々とした表情で前方を示す。そこには確かに町のようなものが存在していた。大きさは俺の部屋くらい小さいが、あくまでフィールド上の大きさ。あそこに到着すれば、町のマップへと移動してくれるはずだ。
「目的地かどうかはわかんないけど、とりあえずここに入ろう……あれ?」
疲労困憊の状態で町に入ろうとするが、何の変化もない。これが噂の蜃気楼かとがっくりと肩を落としていると、ラボちゃんがため息をつきながら少し遠くを指さす。
「町のマップチップがずれてるのよ、あそこらへんに行けば町に入れるわ」
彼女の言う通り町のマップチップから少しばかり移動すると、瞬間世界がチェンジしてどこにでもあるような町に到着する。
「……ESPで町を隠してるのか?」
「そんなわけないでしょ、ただのミスよ」
「ふざけたゲームだぜ……ああ疲れた、今日は宿屋で寝ようぜ? そのくらいの時間の余裕はあるよな?」
「ええ。時間はたっぷりあるわ。最後なんですもの、たっぷりこの世界を楽しみましょう?」
「楽し……めるのか……?」
このゲームのヒロインには悪いが、このゲームをたっぷり楽しみたいとは思えない。RPG世界の宿屋に男女別室なんて概念はほとんど存在しない、俺達は4人部屋に入ると自分のベッドにダイブして今日の疲れを癒す。
「あー……なんか、凄く疲れたから心地よく休めそう。クソゲーも悪い事ばかりじゃないってことだな」
「流石ゲーマーね。どんなゲームにも価値を見出す、それでこそ私が選んだ勇者様だわ」
「そっかー、俺はラボちゃんの勇者様か……主人公だもんなあ」
「だったらアタシはラボちゃんの騎士よ」
「じゃあ俺は傭兵で」
修学旅行の夜のように、下らない話で盛り上がる俺達。こんな会話ができるのも、あとどのくらいだろうか。そしてラボちゃんは、俺にどうして欲しいのだろうか。彼女は俺に恨みがあると言った。わざわざ俺の記憶を消してまで、その原因と向き合わせようとしているのだから相当な恨みなのだろう。それでも俺をあの日助けてくれたし、今までずっと支えてきてくれた。怨敵を救ってまで、彼女が願ったもの。一体それは何なのだろうか。ゲームを進めていけば、自然と思い出せるようになるのだろうか……なんて小難しいことを考えていると、バフンと顔に柔らかな枕が当たる。
「なーにクライマックスだってのにしけた顔してんのよ。枕投げしましょ枕投げ。一年の時の修学旅行でやったんだけど、『女子同士なのに網野さん本気で投げないでよ……』って引かれちゃった悲しい過去があるから、無性にやりたくなってきて」
「おい黄龍……メリハリはつけるべきだぞ。今はしっかり休む時だ」
女の子同士の戯れに本気になって嫌われる馬鹿な恋人をため息をつきながら諭していると、後頭部に激しい衝撃。振り返るとあーちゃんが白々しそうに口笛を吹いていた。
「……そんな反抗的な娘に育てた覚えはないんだがなあ? しかもこの枕、小豆がたっぷり入った痛いタイプの枕だし」
「だって俺、修学旅行も枕投げもしたことないし……」
現実世界の高校生を羨みながら、再び枕を投げてくるあーちゃん。俺も男だ、売られた喧嘩は買ってやるが女に手を出す程堕ちてはいない。ゲームで培った見事な反射神経を発揮してヒラリと枕を避ける。しかし待ち構えていたかのように、その方向にはまた別の枕が飛んできており、真正面から俺の顔面にぶち当たる。
「ラーボーちゃ~ん?」
「私、魔王だし。ラスボスだし。勇者を攻撃するのは当然でしょ」
「……そうだな、俺は勇者だから、女だろうが敵はぶっつぶさないとな」
仏の顔も三度まで、とは言うが、俺は仏ではないので二度で限界だ。三度目の正直という言葉もある、俺は理不尽な女達に理不尽と戦う勇者の強さを見せてやろうと、枕を持って立ち向かう。今ここに、ジハードが始まったのだ!
「……疲れたわね」
「俺の方が疲れてる。HPは満タンなのにね。誰か回復魔法かなんか使ってよ」
「私は黒魔術師、彼女さんは格闘家、あーちゃんは剣士……回復魔法が使えると思う?」
「使えないよなあ……勇者の俺こそ使うべきなんだけど、覚えてないし。必然的に回復アイテムをたんまり買い込まないといけない、アイテムに頼らないと駄目なRPGなんてものは、三流だぜ、まったく」
宿屋に泊って体力も精神力も全回復……のはずなのだが、枕投げの疲労で皆あまり回復していないようだ。俺に至っては結局三人にボコボコにされたし。やるせなさを感じながらも、何とかこの町で次に行くべき場所の情報を得たのでそこに向かう。
「この山を越えれば次の町ね。敵も強くなってきたじゃない」
「急に強くなりすぎだろ……きちんと段階を踏めってえの」
現在はRPGによくある、雪山を超えて次の町へ向かうイベントを遂行中。雪山なのに炎のモンスターが出てきたりといい加減な世界にため息をつくのも憚っている中、ラボちゃんが神妙な顔でうつむいていることに気付く。
「どうしたのラボちゃん、寒い?」
「いえ……何でもないわ」
「……まあ、ラボちゃんがそう言うなら、そういうことにしておくけどさ」
仲間の悩みを解決するのもリーダーの務めだが、強引に事情を聴きだすだけが手じゃあない。こういう時は本人が話したくなるまで待つべきだ、と長年の勘から判断して先を急いでいると、いかにもボス戦がありますよ、といった感じのだだっぴろい山頂が見えてくる。
「やったわ! ついに踏破よ! やっほー!」
「おい黄龍、大声出すな。町の人が言ってただろ、ここには凶悪な翼竜がいるって。そいつが起きでもしたらどうするんだよ……まあ、どうせボス戦なんだろうけどさ」
彼女が大声を出そうが出すまいが、翼竜は目覚めて俺達と戦う。そういうものだ、ゲームってのは。案の定けたたましい鳴き声と共に、いかにも雪山に住んでますといった感じの、青いワイバーンがこっちに向かって飛んでくる。戦闘開始だ、と気を引き締めていたのだが、
「え? ……きゃああああっ!」
「な!?」
ワイバーンはラボちゃんを掴みあげるとそのまま空高く飛び上がってしまう! あまりにも一瞬の出来事で反応することもできず、気づいた時には俺達三人は、山頂に取り残されていた。連れ去られる際に俺と目が合ったラボちゃんが、何か四文字の言葉を口にした気がした。
「……え? え? え? ど、どういうこと? ラボちゃん、さらわれた!? アタシが!? アタシが大声出したから」
「落ち着け黄龍。これはただのイベントだ。ヒロインがモンスターに連れ去られるなんて、よくある話だ。予定調和なんだよ。だから俺達にできることは、旅を続けてヒロインを救い出すことなんだ」
「わかったぜ親父。ハッピーエンドで締めくくろうぜ!」
罪悪感からか慌てふためく黄龍を落ち着かせる。先程は咄嗟の出来事だったため動転してしまったが、ヒロインがさらわれるなんてよくある話。国民的アクションゲームの姫だって、自害したあの姫様だって、そうやって悲劇のヒロインを演じてきたのだ。きっとあの時ラボちゃんが言った言葉は『たすけて』に違いない。このゲームに詳しいラボちゃんがいなくなったのは痛手だが、彼女ばかりに甘えてもいられない。ハッピーエンドのために、俺達は前に進むのだった。
円卓の騎士……SFC『SDガンダム外伝 円卓の騎士』。時間でエンカウントというシステムを採用しているため、動かなくてもエンカウントする。なのでエンカ率が高い、というイメージを持たれている。
真~ファイナルEX……PSP『真マスターオブモンスターズFinalEx」。『マスターオブモンスターズFinal』のリメイクの『真マスターオブモンスターズFinal』の移植版。ややこしい。
何もないところに町がある……FC『星をみるひと』。ゲーム開始早々フィールドマップに投げ出され、しかも何もないところに町があるのでわかりづらい。しかしこれは『敵の襲撃を防ぐために町を隠している』というきちんとした理由がある。大半の人はそれすら知らずにクソゲークソゲー言っているが、きちんとプレイしたならば正当な評価を下せるはずである。クソゲー。




