Lv11.犯人はYASUDA 事件その2
「『ラスボスは人工太陽』『おれはだれよりもはやい』『もういいました』……色んな人の心を探したけど、よくわかんない情報だらけね……ミスリードってやつかしら」
「ま、その辺に歩いている人間が事件の情報を持っているって方が都合が良すぎるからな、当然全く関係ない情報も多いぜ」
「もっとさぁ、ずばばーんって、事件解決したいんだけど」
「探偵なめてるのか?」
RPGとしてはレベルもあがり順調に進んでいるが、肝心の推理の方はと言うと、情報が多すぎて混乱しているらしくストーリーが進まない。助手として一応ヒントは与えるべきだろうと、とりあえず持っている情報を整理してみてはどうかと勧めてみる。一旦事務所に戻った彼女は、関係なさそうな情報と関係ありそうな情報を分別し、後者をまとめてみることに。
「ふむ……被害者は常日頃から黒魔術に傾倒していて、ご近所トラブルが絶えなかったみたいね。動機としては、近隣住民ならほとんどの人が持っているってわけね。アンタはどう思う?」
「……ノーコメントで」
「ちょっと、助手なんだから推理を手伝いなさいよ」
「いや、一応真相知ってるし、下手なことが言えなくてな……悪いが戦闘以外では大して役に立たないと思ってくれ」
ゲーム内での俺の役目は、助言を求められると適切なアドバイスをくれる、RPGにありがちな占いの館のキャラのような感じなのだが、持っている情報が多すぎて、どんなアドバイスをすればいいのか悩んだ結果、結局アドバイスができそうにない。
「まあ、それはしょうがないわね……アタシも小説のネタバレしちゃって友達をマジギレさせちゃったことあるし。とりあえず今後の方針としては近隣住人を優先的に狙うってことで。一度心を覗いた人間も、話が進めば新しい情報を得られる可能性だってあるしね」
「ほう、ゲームの定石ってのがわかってきたみたいだな」
「そうと決まれば、操作再開よ!」
操作の基本は足。マンションの住人を片っ端から調べ上げて、容疑者をリストアップしていく。未亡人の靖子、その子供の靖史、大学生の康彦……今の黄龍には、誰もが怪しく見えることだろう。
「……一番怪しいと思ってるのは、子供の靖史ね」
「へえ? 理由を聞こうか、一番有り得なさそうだけど。一番怪しいのは康彦だと言うと思ったが」
「有り得なさそうなのが、一番怪しいのよ、この手の推理物って。確かに大学生の康彦は、被害者の隣に住んでいて日頃から争っていたみたいだし、死んでくれて清々したって言っているもの、怪しさ極まりないわ。でもね、これっていわゆるミスリードでしょ? いかにもなキャラってね、基本的にはシロなのよ」
確かに黄龍の言うとおり、推理物の基本として、あからさまに怪しいキャラクターはシロと相場は決まっている。それを逆手にとった作品もあるかもしれないが、仮にも王道ミステリを謳っている本作だ、彼女のヤマは当たっている。そして子供が怪しいと思った理由について聞くと、彼女は予想外の答えを返しす。
「まず、一番有り得なさそうだからってのはあるわ。子供が殺人なんてするわけない、なんていう大人の固定観念ね。この前もニュースで見たわよ、痴漢の裁判で、被害者の女子中学生が嘘をつくとは思えない、なんて理由で判決を下して問題になったのを。子供ってのはね、純粋さの中に残虐性も秘めているの、平気で嘘だってつけるし、将来のことなんて考えずに過ちを犯すのよ」
「幼い頃から俺をボコボコにし、言及されると平然と俺が悪いと嘘をつき、将来のことなんて考えずに勉強してないお前が言うと説得力があるな」
「腹立つわね……そして決め手はこれよ!」
机にあった新聞をこちらに投げて寄越す黄龍。ゲーム開始時点に彼女が読んでいたそれには、『女湯に男の子は何歳まで入っていいか?』なんて馬鹿らしい記事が載っていた。
「今まで意味のない情報も色々あったけど、少なくともこれは意味のある情報のはずよ、でなければ開始早々こんなものを読んでいるわけがないわ」
「へえ、このゴシップっぽい記事に何の意味があるのか聞かせて貰おうか、名探偵様」
「これは伏線よ! 子供は犯罪をしても許されるっていう! 少年法とかなんかそんな感じの! さあ、あの子に尋問しに行くわよ!」
あの黄龍が『伏線』なんて言葉を使うなんて、人は変わるもんだと感動しつつ、共にターゲットとなる少年に会いに行き、いつものように心の中に入り込む。
「敵が強くない? やっぱりストーリーの核心についてるのね」
「おいおいどうしちまったんだよ黄龍、お前偽物じゃないのか? 核心なんて言葉を使うなんて。入れ替わりトリックか?」
「普段アタシのことを何だと思ってるのよ……どうやらここが最深部みたいね。映像装置みたいなものがあるわ、これを起動させればいいのね……ってどうして起動の仕掛けが15パズルなのよ……なんか興醒めね」
「頑張れ」
彼女の直感と戦闘能力のおかげでサクサクと進んでいると思いきや、謎解きの面ではさっぱりなのでここに到達するまでにかなり時間がかかっている。具体的に言えば今の俺達は適正レベルよりも10も高い。ただの15パズルと格闘することなんと30分、汗だくになりながらもようやくパズルを完成させた黄龍は、やりきった顔でついに装置を起動させた。
「15パズルでそんなになる人初めて見た」
「はぁ……はぁ……さあ、ついにこの事件の真相が……え、女湯?」
俺達の前に映し出されるモニター。そこに映し出されたのは、事件のあった日の映像……ではなく、どこかの銭湯、しかも女湯と思われるものであった。そこには黄龍が犯人扱いしていた靖史と、その母親の靖子もいた。
「……伏線だったわね、あの記事」
「そうだな、このくらいの子供は女湯入ってもまだ許されるんだな」
『ちょっと、見ちゃ駄目!』なんて俺の目を塞ぐことなく、脱力した黄龍が虚しそうにそう呟く。少年の心の奥にあった秘密は、母親と銭湯に行った時のちょっとピンクな思い出であった。
「捜査は振りだしね……」
事務所に戻ってため息をつく黄龍。何の意味もないように思えるあのイベントだが、実はちゃんとストーリーは進んでいる。『マンションの住民について調べ、子供の心の中でお色気イベントを見る』という、たとえ意味がなくても推理物には総当たりが必要なんだと教えてくれそうなフラグ管理により、あーちゃん、ではなくヤンス警部が事務所の中にやってきた。
「大変でヤンス! ダイイングメッセージが見つかったでヤンス!」
「今更!? 警察役立たず過ぎじゃない!?」
「そこに突っ込むのか……」
警部に連れられて再び事件現場へ。既に結構な時間が経っているのにも関わらず未だにラボちゃんの死体がそこにあり、その横には血文字で何やら書かれてあった。
「『ヤスだ』……わかったわ、犯人はヤスね!」
「ヤスって言ってもたくさんいるぞ? さあ、名探偵の頑張りどころだぜ」
そこに書かれていた言葉、それは紛れもない犯人の手掛かり。だが、既に知り合っているだけでも靖子、靖史、康彦と様々な『ヤス』がいるのだ。
「ヤス……ヤス……あーちゃんも、確か作品での呼称はヤンス警部よね、彼女も怪しいわ。……でも冷静に考えて、あんなギャグみたいな語尾をつけている人が犯人なわけないわよね」
「『有り得なさそうなのが、一番怪しいのよ』って、お前言ってなかったか?」
「……ああもう! 混乱する! 推理なんて面倒くさい、総当たりよ!」
ダイイングメッセージだけでは犯人を絞ることはできないし、あのダイイングメッセージがそもそも犯人についてのものなのかという保証すらない。今できることは、他人の心の中に入り込んで情報を集めることだけだと、彼女は事務所を飛び出した。




